第183話 束の間の休息(1)
昨日よりはほんのちょっと早いけど、やっぱり深夜になってしまった。。。
遅れてすみませんm(_ _)m
都市を占領していた敵軍の大将を討ち取った後も、蜘蛛人族の兵士たちは抵抗を止めなかった。こちらとしても投降を呼びかけたかったのだけれど、連邦は閉鎖的で王国と正式な国交が無いので、言葉が通じないのだ。
お前らのボスは倒した、降参しろ。戦場の興奮状態もあってか、たったこれだけのことがなかなか伝わらない。
そのせいで、都市を完全に取り戻した時にはおびただしい数の犠牲者が出てしまった。敵兵五千のおよそ半数と、こちら側にもそれなりの死者が出た。
ロスニアさんや従軍聖職者の人達がいなかったら、もっと死者は増えていただろう。本当に、戦争なんてするもんじゃない。
生き残った半数の敵兵は拘束し、何ヶ所かの領軍の屯所に分けて拘留するらしい。因みに、敵方の兵士の中に只人は見当たらなかった。王国では普通に只人が軍隊で働いているけど、連邦では文化が違うのかもしれない。
ここで問題になってくるのが、黄金級以上の手練れの将校や魔法使いの扱いだ。彼女達は、鉄の枷や牢屋なんかは簡単に破壊してしまうので、拘束するのがとても困難だ。
では彼女たちは殺すしかないのかというと、今回僕ら対連邦防衛軍は、隷属の輪を持ってきていた。幸い数が足りたので、彼女たちも他の敵兵と同じく拘留している。
防衛軍では、今回の謎の侵攻についてそういった将校などを尋問、または拷問する必要があった。ここでまた駆り出されたのが聖職者の人達だ。
大森林を貫き、王国、連邦、聖国を繋げる聖者の街道は、聖職者とその関係者しか通れない取り決めになっていている。幸運なことに、王国の従軍聖職者の中に、その道を通って数年連邦に滞在したことがある人がいた。
軍はその人に通訳を依頼し、拘束した敵軍の上官らしき人達に尋問を試みたのだけれど、まだ何もわかっていないらしい。敵軍の上官たちは黙秘を貫くし、拷問しようとすると聖職者の人が止めるので、どうにも成果があがらないようだった。
しかし、状況証拠などから推測できたこともあった。
この都市の留守を預かっていた守備兵の人達は、抵抗した将兵は殺されてしまっていたけど、大半が軍の施設などに拘束されていた。彼女たちは痩せていたけど命に別条は無かった。拘束されてからは、十分な量の食事を与えてもらえなかったそうだ。
そして、領都の食糧庫の在庫の大部分が無くなっていて、大規模な商店の倉庫からも食料が接収されていた。それだけなら普通の略奪に思えるけど、都市の住民の証言から、敵軍はそれを後方、大森林の方にわざわざ輸送しているようなのだ。
加えて、拘束した蜘蛛人族の兵士たちも若干痩せていて、自分たちの食事まで切り詰めていることが伺えた。
以上の事から、連邦ではかなり深刻な食糧不足が起きていて、それが今回の無茶な侵攻の理由の一つと考えらえる。これが、防衛軍上層部の見解らしい。
よく考えたら、たとえ蜘蛛人族の人達が木の上で生活していたとしても、大狂溢の影響が全く無かったとは思えない。木登りが得意な魔物何て、いくらでもいるし。
そういった魔物の影響で生活拠点に大ダメージを受けて、余力のある内に攻勢に踏み切ったということだろう。でも、王国の内乱がこんなに早く終結したのは想定外だったろうなぁ。
「ふぅ…… ようやくひと段落着きましたね」
「うむ。やはり、数の力は強い。戦時も、その後でもな」
都市の広場の片隅。僕とヴァイオレット様達は、瓦礫に腰かけて珈琲休憩をしていた。寒い季節、それも労働の後に飲む珈琲は格別だ。
戦況が落ち着いた後、僕らは救護や敵兵の拘束、戦闘で発生した瓦礫や血のりの片付けなど、とにかくなんでもやった。
都市人口と同じくらいの軍隊で戦後処理をしたので、意外にもそれらはすぐに終わった。
その過程で、ヴァイオレット様の元副官であるグレミヨン様や、他の軍関係者の人達からも話を聞けたので、この戦争について少し理解が及んでいた。
「しっかし、飯がねぇからって戦争ふっかけてくるとか、蜘蛛人族ってのは迷惑な奴らだにゃあ」
「ゼル。否定はできませんが、きっと彼女たちはそれ程追い詰められていたのです。彼女達の祈りも、神に届けばよいのですが……」
「にゃー…… お祈りするより、畑を耕した方がいいじゃにゃいか?」
「うっ…… それは、そうですね」
おぉ。珍しく、ゼルさんの方がロスニアさんに突っ込んでいる。ロスニアさんはの聖職者としてのお仕事がひと段落ついたので、軍が出発するまでこうして一緒に休憩しているのだ。
魔力切れ気味ですこし気だるいと言いながら、彼女は僕に寄りかかっている。無意識なのか、蛇人族である彼女のしっぽの先が、僕の背中のあたりを撫でさすっていてくすぐったい。
「タツヒト、おかわりが欲しいであります。砂糖たっぷりでおねがいするであります」
「ほいほい」
僕の反対側にはシャムがぴったりとくっついている。人類同士の命のやり取りを初めて目の当たりにして、かなり甘えん坊モードになっているのだ。
僕はオーダー通りに珈琲を淹れ、ちょっと冷ましてやってからシャムに渡した。
「シャム、あんまり飲みすぎるとお手洗いが近くなってしまいますわよぉ」
「大丈夫であります。シャムの膀胱容量からして、もう一杯のんでもギリギリ溢れないであります」
「どうしてこの子はギリギリを攻めるのかしら……」
キアニィさんがそうあきれたような声でぼやくので、おもわず笑ってしまう。こうして皆ですごしていると、戦闘で高ぶり、すさんでいた心が癒されていくのを感じる。
そんな感じでまったりしていたら、向こうから見覚えのある人達が歩いてきた。
「やぁタツヒト君、ヴァイオレット卿。今日も爛れてるねぇ」
「まったく…… 風紀が乱れていますね」
僕の元上司の白い山羊人族、ヴァロンソル領軍魔導士団のロメーヌ分隊長と、オレリア副官だ。
僕は寄りかかっていたシャムの姿勢を手で真っすぐに直し、ヴァイオレット様と一緒に立ち上がった。ちなみにロスニアさんの方は、二人が近づいてきた段階で僕に寄りかかるのを止めた。恥ずかしがらなくてもいいのに。
「やぁロメーヌ殿。一つ訂正すると、我々は真剣に相手を思い合っているので、必ずしも爛れた関係とは言えないだろうな」
「お疲れ様です。オレリア副長。風紀の乱れについては、頑張って働くので見逃してください。ところで……」
「あぁ。そこでばったりお会いしてね。私の学院時代の恩師で王国最強の魔導士、ヴァランティ―ヌ魔導士団長だよ。知ってると思うけど」
隊長たちの傍では、妙齢の黒い山羊人族の人がじっと観察するようにこちらを見ていた。もちろん彼女のことは知っている。
でも、内乱の和平会談、そして先ほどの森を消し去った大規模重合魔法の行使、なんどかお見かけしただけで、直接話したことはなかったんだよね。
「はい。でも、直接ご挨拶するのは初めてです。冒険者のタツヒトといいます。以前は、ロメーヌ隊長の元で働かせて頂いていました」
「よろしく、ヴァランティ―ヌよ。ちょっと貴方と話をしてみたくて-- あら、いい香りね。何を飲んでいるの?」
彼女は、興味深そうに僕らが飲んでいる珈琲のカップを覗きこんだ。
「えっと、カッファという飲み物です。今聖都で大流行しているんですよ。よければ飲んでみますか?」
「是非頂きたいわ」
僕はご要望に従い、興味津々のヴァランティ―ヌ様と、それなら私達もと言う元上官たちに珈琲を入れて差し上げた。
三人とも気に入ってくれたのか、そのままみんなで和やかに珈琲休憩をする形になった。
「ふぅ…… 本当に美味しいわね、これ。 --ん? あぁ、違う違う。私は魔法の話をしに来たんだった」
ヴァランティ―ヌ様はカップを置くと、僕の方を見た。
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