第182話 奪還
ぐわぁぁぁぁ、ついに日を跨いでしまった。。。 まことにすみませんm(_ _)m
都市防壁の上は視界が通るので、蜘蛛人族で無い僕らはものすごく目立つらしい。
城門に向けて走る僕らめがけて、わらわらと敵兵が集まってきた。
「***!」
「ぬん!」
パァンッ!
防壁の内壁を登って急襲してきた蜘蛛人族の敵兵の頭部を、僕の隣を走るヴァイオレット様の斧槍が消し飛ばした。
そして今度は正面からは別の集団が迫る。その十数名程度の集団の中には、蜘蛛人族の上に、小柄な蜘蛛人族が乗っかっている、不思議な状態の兵士達が何組かいる。
彼女たちはある程度こちらに近づくと停止して弓を構え、小柄な蜘蛛人族達はその身体を橙色に発光させ始めた。来る……!
「伏せて!」
「わわわ……!」
僕の声にみんなが急減速してしゃがみ、シャムが慌てた声を出す。
『『***!』』
蜘蛛人族の敵集団から僕らに向けて、一斉に矢や石弾が殺到する。流石に槍だけでこの数を捌き切るのは難しい。
僕は左腕を掲げ、魔導手甲へ魔力を込めた。
『爆風!』
ゴッ!
魔導手甲に仕込まれた筒陣が発動し、発生した爆風のような風が矢と魔法を上空に逸らした。
悪態をついて次弾を準備する敵兵に、僕とヴァイオレット様の脇をすり抜け、黄色と緑色の影が迫る。
「うにゃっ!」
「シッ!」
「「**……!」」
双剣と凶悪な形状のナイフが何度も翻り、一瞬にして敵兵が数人斬り伏せられた。怯む彼女達に追い討ちをかけるように、僕とヴァイオレット様も突撃する。
数秒後には、十数人からなる敵集団の全てが血に沈んでいた。
「にゃー…… ロスニアが見たら、泡吹いてぶっ倒れそうだにゃ」
双剣を血払いして鞘に収めた後、ゼルさんは僕らが作り出した光景を見て呟いた。ロスニアさんは後方で他の従軍聖職者の人達と待機しているはずだ。でも、今ここにいないロスニアさんより、ゼルさんの方がしんどそうだ。
人懐っこい彼女にとって、人と戦うのはとても辛いことなのだろう。僕はゼルさんに近づくと、ぎゅっとハグした。
「うにゃ? タツヒト、どうしたにゃ?」
「なんでもないです。それじゃぁ、城門に-- シャム、大丈夫かい?」
ゼルさんから離れてみんなの様子を確認すると、シャムは青ざめた顔で蜘蛛人族の敵兵だったもの達を見つめていた。
「だ、大丈夫であります! 平気であります!」
僕に声をかけられて気丈に振る舞っているけど、歯をカチカチと鳴らして体も強張ってしまっている。これじゃあまともな矢を射られないだろうし、
僕はシャムの頭に手を置き、ゆっくりと撫でた。
「シャム、こうしよう。誰だって初陣はうまくいかない。僕もそうだった。だから今日は生き残ることだけ考えよう。
矢も射たなくたっていい。ただ僕らから逸れないように、しっかり付いてくるんだ」
「うぅ、でも…… --分かったであります。つ、次はちゃんと役に立つであります!」
「うん、期待してるよ。よし、じゃあ城門に向かいましょう!」
「「応!」」
継続的に襲いかかってくる敵兵に対応しながら進み、城門近くまで来ると、そこでは王都の師団と敵軍との間で激戦が繰り広げられていた。
王都の師団は城門を破らず、僕らと同じく乗り越える方針にしたようだった。ただ、その方法がかなりダイナミックだ。
魔法使いの人達の重合魔法により、都市壁の傍の地面が徐々に盛り上がり、巨大な盛り土が形成されつつあったのだ。
地球世界における中世の城攻めだと、確か攻城塔なんかを使って城壁を突破するのに、この世界では魔法でぱぱっと大きなスロープを作ってしまうようだ。
因みに、紫宝級か青鏡級の手練れなら、このくらいの防壁は労せず破壊できてしまう。しかし僕らも釘をさされたけど、なるべく都市を無傷で奪還せよとのお達しだった。
せっかく取り戻した都市の防壁が壊れてしまっていては、プレヴァン侯爵が泣くことになる。
スロープはすでに城壁の半分ほどの高さまで伸びているけど、もちろん敵の蜘蛛人族側もそれを黙って見ていない。王都の師団に猛然と矢や魔法を射かけ、妨害しようとしている。
しかし、強力な風魔法の障壁なんかに遮られ、効果を発揮していない。魔法使いの層の厚さが全然違うようだ。
「王都側の師団は心配なさそうですね…… そして盛り土の形成にはもう少しかかりそうか。よし、予定通り下に降りて、城門を開放してしまいましょう。
真下には…… 敵はいないですね。ヴァイオレット様、僕らは先行しましょう」
「了解した。三人とも、気を付けておりるのだぞ」
「ええ。ほらシャム、乗りなさぁい」
「はいであります」
「降りる方が大変だにゃ」
シャムがキアニィさんの背に乗ったことを横目で確認し、僕とヴァイオレット様は防壁の内側に身を投じた。
風音と共にほんの数秒で地面が近づき、僕らは強力な身体強化にものを言わせ、無傷で着地した。
ダダンッ!!
「**……? ****!?」
着地後に聞こえてきた声に目を向けると、そこには目を見開いてこちらを凝視する、100人程の蜘蛛人族の集団が居た。彼女たちの後ろには、巨大な格子状の門と、その両脇に巻き上げ装置のようなものが見える。
「タツヒト、君は副官を!」
「了解です!」
僕らは目の前の集団を見据え、ヴァイオレット様が隊長各らしき敵、僕はその隣の副官らしき敵に突貫した。
反応の良い兵士放ってくる矢をかいくぐり、副官に肉薄する。
彼女は僕を睨みながら双剣を抜き放つと、さらに下半身にあたる蜘蛛部分を上に反らす様にして、前側の四本の脚を上げた。
まるで威嚇するタランチュラのような構えだ。種族もタランチュラに近いように見える。構えからくる威圧感と圧倒的な手数を予感しながら、僕は彼女の間合いに入った。
「**!!」
裂帛の気合と共に、彼女の四本の蜘蛛脚が一斉に僕へ迫る。まるで抱擁されるかのようだけど、蜘蛛脚のつま先には、先端が鋭利な脚甲が装備されている。
僕は突進を続けながら槍を回転させ、殺到する蜘蛛脚のことごとくを弾いた。
ギャリィンッ!
そのまま間合いを詰める僕に、今度は彼女の上半身から双剣が切り降ろされる。
それを予想していた僕は槍を下げ、緑鋼製の魔導手甲を上にかざした。
ガガキィッ!
双剣が手甲に弾かれた直後、僕は下げていた槍を両手で握り、思い切り上に切り上げた。
「ぜあっ!!」
ザンッ……!
下半身の蜘蛛部分のつなぎ目から頭頂部まで、槍の穂先によって真っ二つにされた彼女は、大量の血を吹き出しながら地面に沈んだ。
ほんの一瞬の残心の後でヴァイオレット様の方を見ると、彼女の方も終わっていた。袈裟切りにされた隊長各の蜘蛛人族が、地面を赤く染めながら倒れ伏している。
「「……****!?」」
ほんの数秒で隊長と副官を失った彼女たちは、一瞬で瓦解し、我先にと僕らから逃げ出した。取り合えず、今は追わなくていい。
「にゃー、もう終わってたかにゃ。さすがだにゃ」
声に振り向くと、防壁を降り終わったゼルさん達がそこに居た。
「殆ど不意打ちだったからな。ゼル、君たちは見張りを頼む。タツヒト、手伝ってくれ」
「了解です」
それから、僕とヴァイオレット様は巻き上げ装置で城門の格子戸を開け、王都の師団を都市内へ招き入れた。
王都の師団を率いるベアトリス騎士団長は、にやりと笑いながら僕らの働きを褒めてくれた。彼女が後はまかせろというので、僕らは城門を見張ることにした。
騎士団長が敵将を討ち取ったとの知らせが届いたのは、それから十数分後の事だった。
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