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第018話 脱スパイ容疑


 撤収準備を終えた僕らは魔法陣の部屋から出た。


 『ここからまた出口まで戻るのは大変ですね』


 洞窟の入り口からここまで来るのに小一時間かかったので、帰り道を考えるとちょっとしんどい。


 『いや、帰りは最短距離で行こう』


 僕の言葉にヴァイオレット様が答える。最短距離?


 『ロメール卿、あちらを頼めるだろうか』


 僕らがいるのは魔法陣の部屋の外で、目の前に真っ直ぐ通路が伸びている。

 残念なことに通路は途中で崩落して行き止まりになっているのだけれど、ヴァイオレット様はその行き止まりを指しているようだった。


 『あぁ、いいものを見せてもらったからね。少し頑張ってみようか』


 ロメール卿その行き止まりまで進むと、着いてきた部下の山羊人の人達に指示を出し始めた。

 何をするのかと見ていると、杖を掲げて何事かを呟くのがかすかに聞こえ始めた。

 少し距離があるのでよく聞き取れないけど、村の司祭様が治癒魔法を使う際に唱えていた言葉と響きが似ている気がする。

 

 「*****」


 ロメール様が最後に大きめな声で何かを唱えると、彼女を中心に黄色い光の輪が広がった。

 少し遅れて部下の人達も光の輪を広げ始めた。こちらは橙色の光だ。

 彼女達が通路を塞いでいるいくつもの岩塊に手をかざす。

 するとそれらは硬さを失ったかのようにグネグネと変形し、通路の端や天井に集まり出した。

 ほんの数分眺めている間に、崩落した箇所は石造りの柱やアーチによって補強され、通れる状態になっていた。

 こんなこともできるのか……!


 『ふう、とりあえず今日はこんなもんかな。通路の全経路を補強したいところだけど、少々時間がかかるからね』


 ちょっと疲れた様子のロメール様が呟く。

 

 『すごい魔法ですね…… 岩をどかすだけでも人力では何日もかかりそうなのに、補強まで一瞬だなんて』

 

 『ふふん。私はこれでも魔導士の端くれだからね。魔導士の称号も地魔法関連の研究成果で取ったし、これくらいはできるさ』


 彼女は僕の言葉に得意そう答えた。

 魔導士、地魔法…… この世界について僕が知らないことがまだまだ多そうで、ワクワクしてしまうな。

 でも、本当に誇って良い技能だと思う。

 何よりこっちの世界に来てから初めて魔法らしい魔法を見られてすごく感動した。

 ちょっと走っただけでえずいてた人と同一人物には見えないな。うん。


 通れるようになった崩落現場を先に進むと、そこは行き止まりだった。

 どうするんだろうと見ていると、またロメール様達が魔法を使って石壁に穴を開けた。

 すると意外に石壁は薄く、穴はすぐに外まで繋がった。どうやら入り口に偽装が施されていたみたいだ。

 古代遺跡の入り口はどれもこんな感じなので、なかなか発見が進まないらしい。

 僕らはそのまま岩山沿いに洞窟の入り口まで戻り、ヴァイオレット様の副官のグレミヨン様が率いる待機組と合流した。

 洞窟に入った僕らが全く別のところから現れたので、みんな目を見開いて驚いていたな。

 





 日没まで時間があったのとロメール様の体力の問題もあって、調査隊は歩いて村まで戻った。

 村に着く頃には日は傾き、村の人達は夕食の準備を始めていた。

 一日の仕事が終わって弛緩した空気と、漂う夕食の匂いがなんとも平和な雰囲気だ。

 

 わざわざ夜に出発する必要もないので、調査隊の面々は村の広場で野営するようだ。

 他の隊員達が野営の準備をする中、調査隊の中心メンバーと僕は、調査結果について話すために村長宅にお邪魔した。

 村に入った時にエマちゃんが出迎えてくれたのだけれど、今日は大人の集まりということで不参加だ。

 エマちゃんちょっと寂しそうにしてたな。ヴァイオレット様も寂しそうにしてたけど。


 『おかえりなさいませ、ヴァイオレット様。皆様方もご無事なようで安心しやした』


 相変わらず怖い顔の村長が、奥さんのクレールさんと一緒に出迎えてくれた。

 ここ三日間で見慣れたせいか、村長の顔にも不思議と安心感を覚えるようになってしまった。


 『あぁ、ただいまボドワン村長。すまないが、いつものように隊の皆に広場を貸してくれ。それとこれで我々の食事と宿を頼めるだろうか?』


 『えぇ、もちろんでさ。宿はここをお使いくだせえ。あとでお部屋に案内いたしやす。食事は今用意してますんで、こちらに掛けてお待ちくだせぇ』

 

 ヴァイオレット様から硬貨を受け取った村長は、慣れているのかテキパキと対応している。

 しかし、丁寧に喋ろうとしてるんだろうけど、怖い顔も相まってなんだか山賊の親分みが増すな。

 食事の準備とか大変そうだと思ったけど、キッチンには村長夫妻の他にも人がいて手伝ってくれているようだった。

 

 お言葉に甘えてテーブルに座ると、いつものようにクレールさんがお茶を出してくれた。

 テーブルには、僕、ヴァイオレット様、ヴァイオレット様の副官のグレミヨン様、そして山羊人の魔導士のロメール様が座っている。

 みんなが香草茶を飲んでほっと一息ついたところで、ヴァイオッレット様が話し始めた。


 『みなご苦労だった。調査は無事完了し、収穫も上々と言っていいだろう。そしてタツヒト殿。今回の調査結果を持って、貴殿の証言には一定の信頼がおけるものと私は判断した。よって、貴殿に対する他国の密偵や犯罪者であるという嫌疑は不問とする。疑って悪かったな』


 おぉ、ついにスパイ容疑から脱却できた。

 こうしてはっきりと宣言してもらえると、腹に抱えていた重いものが取り除かれたような開放感があるな。


 『よかった…… ありがとうございます』


 『うむ。私としてもエマの恩人を拘束せずに済んでよかった』


 ヴァイオレット様は穏やかに微笑みながら言った。やっぱり綺麗だなこの人。

 しかし彼女は表情を真面目なものに改めるて続けた。


 『ただ、今回我々が調査した古代遺跡については領で接収することになる。タツヒト殿には発見者として報奨金が出るゆえ、済まないが受け入れてほしい』


 『もちろんかまいません。僕では管理できないと思うので、お金を頂けるだけでも大助かりです』


 『うむ。そう言ってもらえると助かる…… それで、タツヒト殿は遠い地からここに来たわけだが、このあとのことは決めているのだろうか? 異世界の知識を持つ貴殿には、できれば領内に腰を落ち着けてもらえるとありがたいのだが』


 ……どうしましょう?

 スパイ疑惑は解けたけど、この世界では戸籍も持ってない流れものであることに変わりはないからなぁ。

 答えに窮している所にボドワン村長が料理を運んできてくれた。


 『行くとこが無いならこの村に住んだらいい。エマも喜ぶしな。もちろん、仕事はしてもらうぞ』


 おぉ、村長! 伊達に村長をしていない懐の深さ。

 散々心の中で顔が怖いとか山賊とか言ってごめんなさい。心の中で謝っておきます。


 『ありがとうございます! 是非そうさせて下さい』


 『あぁ。ようこそ開拓村ベラーキへ。今日は歓迎会だな』


 ニヤリと笑う村長はやはり山賊みたいだった。

 ヴァイオレット様も微笑んで頷いている。もしかしてこの流れを見越してたのかな?


 『話がまとまったなら食事にしないかい?』


 『うむ。早く我が筋肉に栄養を与えなければ』


 他の面々もじれてきたところで夕食が始まった。

 主な会話の内容は、洞窟の入り口で待機していたグレミヨン様と村長夫妻への調査結果の共有だ。

 しかし仕事の話ばかりではなく、食事の内容や世間話も挟む穏やかな時間だった。

 やはりクレールさんの料理はとても美味しく、普段いいものを食べてそうなヴァイオレット様たちも満足そうに食べている。

 あ、そうだ。


 『ヴァイオレット様、先ほど報奨金を頂けるというお話でしたが、そのお金でこの装具を2つ買い取らせて頂くことは可能でしょうか? この装具があれば、こちらの言葉も覚えやすくなると思うんです』


 僕は自分の耳につけている翻訳機を指しながら言った。

 

 『あぁ、確かにそういった使い方もできるな。了解した、上に掛け合ってみよう。おそらく許可は降りるだろう』

 

 『よかった! お手数ですがよろしくお願いします』






 夕食が終わり、あてがわれた部屋に引っ込みベッドに身を投げ出す。

 古代遺跡に行って帰ってきたことで少し疲れを感じるけど、とりあえず生活基盤を確保できそうで本当によかった。

 そしてなんと、夕食の席でヴァイオレット様の好みのタイプ聞き出すことに成功した! のだけれど……


 「私より強い者、か。魔物の頭を剣で消しとばすヴァイオレット様より? 難易度ルナティックモードだよ」

 

 元の世界に帰りたいかはどうかは、正直自分でもよくわからないし、その手段も判然としない。

 だけど、初対面でぶちのめされたあの瞬間から、自分がヴァイオレット様に夢中だということはよくわかる。

 よし、強くなろう。強くなってヴァイオレット様にアピールするのだ。

 あと言葉も頑張って覚えよう。言葉が通じないと文字通り話にならないしね。


お読み頂きありがとうございました。

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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