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第179話 初動

しょっぱなから大遅刻。。。すみませんm(_ _)m


前章のあらすじ:

 重い障害が残ってしまったシャムの治療法を求め、タツヒト達一行はロスニアが受けた神託に従い聖都レームを訪れた。

 結果、シャムは彼女と同じ顔を持つ教皇ペトリア4世により回復を果たす。だが一行が喜ぶのも束の間、ヴァイオレットとタツヒトの古巣である王国において、二人を遠因とした内乱が勃発したとの報が入った。

 一行は和平のため、聖国の使者として王国に向う事を決意。女王の妄執を取り払うことで内乱を終結させることに成功した。しかしその直後、大森林を領土とする蜘蛛人族の連邦が、突如として王国へ侵攻を始めたのだった。


 僕らが唖然とする中、諸侯連合軍の騎士は入れ替わり立ち代わり、次々と伝令を届けてくれた。

 彼女達の報告を聞いた感じだとその内容は第一報とさほど変わらず、大森林に近い都市や村を蜘蛛人族の軍隊が急襲、戦力差的に現在は占領、または壊滅させられているだろうというものだった。

 壊滅…… 僕とおそらくヴァイオレット様の脳裏にも親しい人達の顔が浮かんでいることだろう。領都のロクサーヌ様や領軍の居残り組の人達、馴染みのお店の人達。そして、開拓村ベラーキの人々。


「エマちゃん……」


 呆然と呟いた僕の手を、隣に立っていたヴァイオレット様が触れた。力強く僕の手を握る彼女の手は、激情を抑え込むかのように小刻みに震えている。

 そうだ。彼女は、只人のご両親とお姉さんがヴァロンソル領の領都にいる。そして、その領都からも襲撃の報が来ている。


「皆様。申し訳ございません、私達は--」


「待て」


 ヴァイオレット様が早口で捲し立てるのを、陛下が冷静な声で止めた。


「落ち着くのだヴァイオレット、そしてタツヒトよ。大森林の淵に、其方らの古巣や、懇意にしていた村があることは知っている。

 今すぐ走り出して助けに向かいたいのだろう。だが相手は統率された軍。ならばこちらも軍で当たるべきだろう。其方らは一騎当千の手練れであるが、数の力を侮ってはならぬ。

 それに戦力の逐次投入は悪手である。確実に村を助けたいなら、我らと足並みを揃えるのだ。今は皆、同じ目的の下で動けるはずなのだから」


「……! 承知、致しました。申し訳ございません、陛下」


「うむ…… さて、伝令も一旦落ち着いたようだ。諸侯連合の皆、蜘蛛共の狙いをどう見る?」


 陛下が侯爵閣下達に水を向けると、プレヴァン侯爵が眉に皺を寄せながら答えた。


「は。猊下の親書の最後にはこうありました。最近森からの客人があった。国内で揉めていると、彼女達もそれに興味を持ってしまうかも知れぬ、と。猊下はある程度これを予想していたのでしょう。

 しかし、我らの内乱は確かに蜘蛛共にとって好機やも知れませぬが、平原で不利な奴らが本当に攻めてくるとは考えておりませんでした。この組織的行動、感情まかせの行動とも思えませぬし、狙いがわからないというのが正直なところであります」


「私も同意見です、陛下。蜘蛛共も今この瞬間は拠点を押さえることができましょうが、平原は我らの領域です。多少苦労はするでしょうが、我らが戻れば拠点は解放できるでしょう。そして、それは奴らも承知のはず。

 そして奴らの狙いについては、我らへの悪感情、宗教的対立、領土的野心…… どれもしっくり来ませぬ」


 ヴァロンソル侯爵の言葉に、他の侯爵達も頷いている。

 僕は蜘蛛人族の連邦については、大森林の扱いを巡って王国と仲が悪いということしか知らない。

 侯爵たちが何を訝しんでいるのかいまいちピンとこないけど、彼女たちが攻めてくるのは余ほど想定外だったみたいだ。


「そうか。余も其方らと同意見だ。奴らの狙いがわからぬ…… だが」


 陛下は立ち上がって僕らを見渡した。


「我らの国土が今この瞬間も蜘蛛どもに蹂躙されていることは確かだ。これは決して看過できぬ。プレヴァン侯爵よ」


「は!」


「其方に、この戦争における全権を与える。見事蜘蛛どもを打ち払って見せよ。

 もちろん、諸侯連合だけに負担はさせぬ。王都の戦力も最低限の守備兵を残し大森林への対応に当て、十分な物資と糧秣を送ろう」


「はは!」


「ベアトリス騎士団長、ヴァランティーヌ魔導士団長。大森林の周辺の地理には疎かろう。そなたらは王都の戦力を率い、プレヴァン侯爵の指揮下に入るのだ。

 此度は王国全体の危機。王国最強の呼び声も高い其方らの力、存分に発揮することを望む」


「「は!」」


「よし…… ならば其方ら、すぐに進軍の準備を始めよ」


「「「はは!」」」


 痩せ衰えているはずの体には力が漲り、目には決意の光。その声は数多の臣下を奮い立たせ、一つの目的の元に統率する。マリアンヌ陛下は今、確かに一国の女王だった。






 聖国の使節としての僕らはの仕事は終わった。なので、ここからは只の民兵として軍に同行させてもらう形になった。

 具体的には、ヴァロンソル領に戻る領軍の騎士団第二大隊、第五中隊の所属にしてもらった。ここは現在、ヴァイオレット様の元副官、グレミヨン様が隊長を勤めている。

 さらにこの隊は、僕が以前居た魔導士団分隊と連携して動くので、かなりありがたい。


 今回の戦争、僕とヴァイオレット様以外には関係のない話なのだけれど、「白の狩人」の皆は当たり前のように同行すると言ってくれた。

 因みに、防衛戦争であれば聖職者も参加できるのだと、ロスニアさんもついてきてくれる。

 なるほど。攻撃側に回復魔法が使える聖職者が居なくて、防衛側には居る。抜け道はありそうだけど、これがそもそも国同士の戦争を抑制しているような気もする。

 けどそうすると、こちらに侵攻してきた蜘蛛人族の軍隊には聖職者が居ないことになるはずだ。かなり不利なはずだよな……


 軍の皆さんが出発の準備を整えている間、物資の積み込みなんかを手伝いながら、僕はヴァイオレット様に蜘蛛人族の連邦について聞いてみた。

 正式名称をアラニアルバ連邦というその蜘蛛人族の国は、王国の東にある大森林の中が領土だ。

 国家元首的な立場の人が居なくて、複数の州が寄り集まり、州の代表たちにの協議によって国家方針を決めているらしい。あと、結構排他的らしく、他の亜人はあまりいないそうだ。

 国民の数は300万人程度で、王国の三分の一程度。宗教については王国と同じく聖教がメインで、ほんのちょっと土着の信仰が残っているくらい。


 以前から疑問だった、強力な魔物が闊歩する大森林の中でどうやって生活しているのかだけど、彼らの特技に秘密があるらしい。

 彼らは蜘蛛らしく強靭な糸を生成することができ、その糸を用いて樹上に住居やや畑を造り出し、(さと)を形成するのだ。さらに、糸を結界のように張り巡らせて、地上の魔物の侵入を防いだり、別の場所に誘導したりするらしい。

 これによって、大森林の中であっても生活基盤と安全を確保できているのだ。

 当然彼女たちは、樹木に登ったり飛び移ったりは得意だけど、馬人族よりは平地の移動は早くない。


 この連邦と他国との関係については、大森林の侵攻具合に連動している。大森林の北には鉱精族の国、南には聖国があり、双方険しい山脈が国境になっている。

 森林限界のせいで大森林が浸食してこないので、両国と連邦との関係は良好らしい。

 逆に大森林を伐採する王国のことは気に入らないわけだけど、彼女たちが住んでいるのは、樹木が大きく育つ大森林の中層から深層のあたりだ。

 王国がいくら木を切ったとしても、彼女たちの生活に大きな影響は無いはずだ。


「なんというか…… 確かに彼女たちが他国を攻めるとしたら王国なんでしょうけど、それでもわざわざ侵攻してくるほどとは思えないですね。陛下や閣下達が困惑していた理由が分かりました。

 平地である王国への領土的野心は無さそうだし、そもそも国力が違いすぎるし、宗教的対立も無さそうです」


「そうだな。その点は私も不思議に思っている。キアニィ、君はどう思う?」


「そうですわねぇ。殆ど二人と同意見ですけれど、不利を承知でも攻めざるを得ない。そんな理由があるように思えますわぁ」


 うーん。だめだ、やっぱり理由がわからない。早く領都とベラーキに向かいたい。その気持ちをごまかすために考えを巡らせていると、グレミヨン様が近づいてきた。


「ヴァイオレット隊長。 --と、失礼した。ヴァイオレット殿、出立の準備はよろしいか?」


「あぁ、もちろんだグレミヨン中隊長殿。共に行こう、領都へ!」


 王都の勢力を加えてさらに膨れ上がった総勢数万の軍勢が、大森林に向けて進軍を開始した。


11章開始です。本章もお楽しみ頂けるよう頑張ってまいりますので、よろしくお願いします。

今後の投稿時間についてですが、申し訳ありませんが「19時以降」とさせてください。

よければブックマークや評価、いいねなどを頂けますと励みになります。

もし感想やレビューを頂けた際には、飛び上がって喜びます。

【月〜土曜日の19時以降に投稿予定】


※ちょっと下に作者Xアカウントへのリンクがあります。

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