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第178話 開戦

すみません、いつも通り遅れてしまいましたm(_ _)m

ちょっと長めです。


 僕が陛下からぶった切られ、ゼルさんが陛下をぶっ飛ばしてから二日後の昼すぎ。諸侯連合の重鎮方と僕ら聖国の使節は、王都と連合軍の陣地との中間地点、そこに設置された大きな天幕の中に居た。

 

 謁見の間で僕が陛下に一方的に話した後、陛下は噎び泣き話せる状態では無かった。そこで、陛下の代わりに宰相閣下に親書と協定書の草案を渡し、後ほど陛下にお見せするようお願いして王城を後にした。

 僕はその時、また陛下を泣かせてしまった事について、からからと思考を空転させていた。一方ゼルさんは、陛下を殴ったことを有耶無耶にして王城から脱出することができたせいか、助かったにゃ~と城門の前でへたり込んでしまった。陛下を殴ったときはあんなにかっこよかったのに…… まぁ、この姿もゼルさんらしいや。


 ロスニアさんのおかげで傷は塞がっていたけど、僕の左腕は血まみれだった。王都から抜けて連合の陣地に合流する際には、騎士団長や侯爵閣下達にめちゃくちゃ心配されてしまった。

 特にプレヴァン侯爵は自分が切られた時のことを思い出したのか、最早これまでと軍を動かそうとしていた。僕らは慌てて止めに入り、ゼルさんが反撃して陛下をぶん殴った事を聞いて溜飲を下げてくれた。

 彼女はゼルさんのことをいたく気に入ってくれたようで、もし冒険者を止めることがあったらうちの領に来いと勧誘してくれた。

 そんなわけで、まずは相手の出方を見ようということになり、早速の昨日、王都から白旗を上げた使者が来た。返事は和平会談に参加するというものだったので、今はみんなで陛下をはじめとした王都側の重鎮達を待っているところだ。


 すこし予定時刻を超えた頃、天幕の外がざわつき、連合側の重鎮たちとロスニアさんが椅子から立ち上がった。

 そしてガチャガチャと武装解除しているらしい音が響いた後、天幕に王都の人達が入ってきた。

 面子は、陛下、宰相をはじめとした王国の高官たち数名、そして護衛枠でおととい振りのベアトリス騎士団長とケヴィン分隊長などで計10人ほどだ。

 護衛の中でも目を引いたのは、長い黒髪と湾曲した二本角を生やした妙齢のお姉さんだ。恰好や気配からして、この人がヴァランティーヌ魔導士団長だろう。


「皆、遅れて済まぬな」


 陛下は相変わらずげっそりと痩せているけど、一昨日とは打って変わって、まるで憑き物が落ちたかのように落ち着いたご様子だった。ゼルさんに殴られた傷も治っている。

 彼女は天幕の中を見回し、僕、正確にはたぶん僕の左腕を見て少しほっとした表情になり、椅子に座った。


「いえ…… またお会いできて光栄です。陛下」


 予想していたものと陛下のご様子が違ったのか。プレヴァン侯爵達が少し拍子抜けしたような声を出して椅子に座り、他のみんなも続いて着席した。

 並びとしては、天幕の中央に大きめの机が置いてあって、片方に王都側の重鎮達、その反対側に連合側の重鎮たち、彼女たちの横顔を見る形で聖国の使者、ロスニアさんが座っている。

 僕らも含めた各陣営の護衛の人達は、重鎮の人達の後ろに立っている。そんわなけで、天幕の中には三十人近い人数が居る。人の熱気のおかげか、冬だというのに天幕の中は暖かい。

 

「王都の皆さま、並びに諸侯連合の皆さま。本日はこの和平会談にご臨席頂きありがとうございます。僭越ながら、聖国の使者として、私ロスニアが会を進めさせて頂きたく存じます。まず--」


 ロスニアさんが緊張した様子で役割を果たそうとする中、陛下がすっと手を上げた。


「あ、あの、陛下。如何なされましたか?」


「御子殿、連合の皆。会談の前に、少し私的な領域に関わる話をさせて頂きたい。よろしいだろうか」


 陛下の問いに、全員が戸惑いながら頷いた。


「済まぬな。 --まず、一昨日の件について、ヴァイオレット、そしてタツヒトよ。内乱の回避のため尽力する其方らに切かかった我が蛮行、それを謝罪させてもらいたい。すまなかった」


 陛下は僕とヴァイオレット様を見据え、ゆっくりと頭を下げた。それを見て天幕内の人達がざわつく。一国の王が今は只の平民であるヴァイオレット様と僕に頭を下げる。本来はありえないことだ。


「陛下、謝罪を受け入れます。頭をお上げ下さい」


「わ、私もです」


「そうか…… 感謝する。それからそちらの、猟豹人族の其方。其方の一撃のおかげで余はあの時冷静になることができた。礼を言う」


「にゃっ!? ウ、ウチかにゃ……!? あー、そのー、どういたしましてでございますにゃ?」


 いきなり陛下に話しかけられて、ゼルさんがあたふたしている。

 そんな彼女を見た陛下はほんの少し頬を緩めた後、表情を消して天井を見つめた。


「……あの後、余は己の行いを省みた。余は最初、世継ぎのためにタツヒトを欲した。しかし話す内、国家のためではなく私人として、タツヒトが欲しくなったのだ。強烈にな。

 そして、その思いを拒絶されることを恐れて権力に頼り、妄執に取りつかれ、いくつもの取り返しのつかない行為を行ってしまった。

 勇気と真心を持って対話すれば、別の道もあったというのに…… ヴァイオレット、タツヒト。改めて、本当にすまなかった」


 陛下は再び僕らに頭を下げた後、こんどは諸侯連合の重鎮たちの方に向き直った。


「ここからは、和平会談の内容にも関わってこよう。我が国の護国の勇、大森林への堅固な盾たる諸侯連合の皆よ。

 決して取り返しのつくことでは無いが、私の指示で其方らの友や親族を殺めてしまった事、この場で正式に謝罪させてもらいたい。本当に申し訳なかった。

 --やはり、このような惰弱な女は国家の要として不適格であろう」


 陛下の言葉を黙って聞いていたプレヴァン侯爵は、その最後の一言にぴくりと眉を上げた。


「--陛下、それでは……?」


「うむ。これ以上この国を傾けるわけには行かぬ。私は、王都は全面的に協定書の内容を受け入れることとした。御子殿、進行を頼めるだろうか?」 






 会談は、拍子抜けする程ほど滞りなく進んだ。王都は言ってしまえば陛下のワンマン経営。周りの人間は彼女にに従うし、異議を唱えるような人間は遠い昔に排除されてしまっている。

 陛下が王位に就く前は国家の首脳部が腐っていたという話だから、当時はそれが必要だったのだろう。だけど、同時に今回のような陛下の暴走を止められる人材も居なかったようだ。


 連合が最低限のラインとして定めた三つの条件については、まず陛下は廃位を受け入れた。ただ、適当な公爵家から陛下の後釜を選定し、不備なく引継ぎを行うため、廃位は一年後に行うことになった。こういう場合、プレヴァン侯爵あたりが王位に就くみたいな展開もありえそうだったけど、彼女にそのつもりは無いみたいだった。


 次に、暗殺組織ウリミワチュラの解体については、陛下は後悔の表情とともに口を濁していた。というのも、侯爵たちの反乱を防げなかったとして、陛下はすでに組織の長であるザハラ氏を処刑してしまったらしい。

 以来、組織は地下に潜り、接触するのが困難な状況なのだそうだ。その場にどうしようという空気が流れた時、キアニィさんが手を上げてくれた。

 彼女曰く、自分なら組織の上層部にも接触できるだろうということだった。今後は彼女の協力のもと、時間を掛けながら組織を解体していくことになるようだ。


 陛下の指令によって暗殺で命を落とした方の遺族については、出来る限りの補償を必ず行うとのことだった。

 具体的な補償の内容については後日詰めるそうだけど、遺族への補償を最優先に、あわせて可能な範囲で連合への戦費の補填と食糧支援もしてくれるらしい。

 そして陛下は、僕とヴァイオレット様の手配書の取り消しも約束してくれた。それを聞いた瞬間、僕と彼女は思わず顔を見合わせてにっこり微笑んでしまった。よかった、これで僕の別人格、タチアナちゃんともお別れだ。今までありがとう。なんだか得も言われぬ開放感があるぞ。


 最後に、陛下とプレヴァン侯爵が停戦協定書に調印し、今回の和平会談は無事終了した。調印を見届けたロスニアさんをはじめ、僕らはみんなほっとした表情で息を吐いた。これで内戦を回避できたのだ。

 しかし、王都と連合の重鎮の人達の様子を見てみると、その表情はまだ硬いままだった。まるで、なにか別の重要案件が残っているかのような……


「さてプレヴァン侯爵よ。今この場にはちょうど関係者が揃っている。教皇猊下の親書の最後に記されていた一文について、其方らの意見を聞きたい」


「奇遇でございますな。私も同じことを考えておりました。あり得ない、考え難いと申し上げたいところですが…… 今、我々が国内で揉めているこの時期においては、少々無視できないように--」


 プレヴァン侯爵が話している最中、天幕の外、連合軍側の方がにわかに騒がしくなった。

 その瞬間、王都と連合の重鎮の人達の表情が一気に厳しいものに変化し、入口の布を乱暴に押しのけ、一人の騎士が天幕の中に入ってきた。


「プレヴァン侯爵閣下、火急の伝令にて失礼します!」


「--うむ。構わん、話せ」


「は! 大森林に隣接する、城塞都市ゼライユからの伝令です! 蜘蛛人族の軍が攻めてきました! 戦力差から、ゼライユははすでに敵軍に占領されているものと推定されるとのことです!

 また、他の都市、他の領からも同様の伝令が次々と届いております! 未確認でありますが、大森林に隣接する多数の侯爵領、それらに同時多発的に侵攻が行われているものと思われます!」


「「なっ……!?」」


 その報告に、僕とヴァイオレット様は同時に驚愕の声を上げた。

 四つ足の馬人族の王国と、八つ足の蜘蛛人族の連邦。後に、四八(しよう)戦争と呼ばれる争いが始まった瞬間だった。






***






 ピーーー。


【……外部機能単位から観察対象に関する報告】

【……個体名「シャム」について、機械人類を対象とした第三位階治癒魔法を実施、不具合を完全に解消することに成功した模様

 再発防止措置として、観察対象に同行している外部隷下組織「聖教会」の構成員に対し、機械人類を対象とした治癒魔法の教育を実施中……】


【……上位機能単位からの返答 引き続き、観察と教育の実施を継続すること……】






 ビーーーッ!


【……コード00303を検出】

【……第三大龍穴の融合個体、個体名、蜘蛛の神獣(アラク・イルフルミ)の血縁個体の移動を観測

 当該血縁個体の位階は推定紫宝級、移動中も個体数を増加させており、現在も勢力を拡大中

 経路は、第三大龍穴最深部から西の浅層、第三大龍穴に隣接する人類の生存圏方面……】


【……上位機能単位へ、対応を--】






 10章 四八(しよう)戦争:序 完

 11章 四八(しよう)戦争:破 へ続く


10章(11章へのとても長い前振り)終了です。ここまでお読み頂きありがとうございましたm(_ _)m

11章は週明け月曜から開始予定です。よければまたお付き合い頂けますと嬉しいです。

【月〜土曜日の19時頃に投稿予定】


※ちょっと下に作者Xアカウントへのリンクがあります。

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― 新着の感想 ―
四八って、そういう意味でしたか! ここからの戦争シーンが非常に楽しみです!! タツヒトたちがどのように立ち回っていくのか、 上位存在がどう関係してくるのか、 陛下の行く末はどうなのか、 期待して読み…
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