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第176話 煉獄の王都

すみません、だいぶ遅れてしまいましたm(_ _)m

ちょっと長めです。



 諸侯連合軍の方々との交渉を終えた翌日の朝。僕ら聖国の使節と諸侯連合軍は、その威容を視認できるほど王都の近くまで来ていた。三重の都市壁と中央に聳え立つ王城はやはり圧巻だ。

 連合に暗殺者を放っていたぐらいだから当然だろうけど、王都側もこちらの接近を気づいていたようだ。すでに王都の手前には大軍が布陣している。

 構成は連合軍と似たり寄ったりで、大半が馬人族の騎士や兵士、全体の十分の一ほどの数の魔法使いらしき人員、そして彼女たちに随伴する只人の兵士だ。

 ちゃんと数えていないけど、数万は居そうな諸侯連合軍に比べて、王都側の軍はおそらく一万に届くかどうかという感じだ。


 数の上ではこちら側が優勢に見えるけど、この世界では個人の武勇が突出し過ぎていて、文字通り一騎当千の戦士や魔法使いが結構いるのだ。

 諸侯連合軍にも凄まじい気配を放つ騎士や魔法使いが数人いるけど、その人達よりもさらに強いプレッシャーを持つ存在が二つ、王都側に居るように感じられた。

 両軍の距離はまだ1kmほど離れているけど、連合軍の兵士の中には強烈な気配にガタガタと震えてしまっている人も居る。


「何か、すごく強そうな人達がいますね…… 紫宝級の教皇猊下や、聖堂騎士師団長にも匹敵しそうな気配です」


「ああ。おそらくベアトリス騎士団長とヴァランティーヌ魔導士団長だろう。このイクスパテット王国において最強と言われているお二人だ」


 道理で。あの二人が向こうにいる限り、数の多い連合軍が必ずしも勝利するとは言えなそうだ。


「やっぱり出てきたなぁ。ま、そりゃそうだ。正直、あいつらを相手にするのはいくら勝つ見込みがあっても避けたかった。被害がデカすぎるからなぁ。

 --可能であれば平和的にこの争いを解決したい。頼みましたぞ、御子殿」


 僕らと一緒に連合軍の先頭に立っていたプレヴァン侯爵閣下は、独り言のように呟いた後、ロスニアさんに真剣な眼差しを向けた。


「お任せくださいプレヴァン侯爵閣下。猊下からお預かりした親書と、閣下からお預かりした停戦協定書の草案、双方を必ず陛下にお届けします」


 停戦協定書の草案とは、昨日話し合った諸侯連合側の和解条件を記したものだ。

 僕らは親書と協定書を陛下に渡し、説得の上、連合と陛下との話し合いの場を設ける必要がある。

 めちゃくちゃタフな交渉になるだろうし、そもそも陛下が僕らの話を聞いてくれるのかも定かじゃないけど、やるしかないのだ。


「ヴァイオレット、気休めだがこれを持っていけ」


 ヴァロンソル侯爵が、長い棒の先に白い布を括りつけたもの、白旗を僕らに渡してくれた。


「ありがとうございます、母上」


「うむ…… 気をつけてな」


「ヴァイオレット。それはわたくしが掲げますわぁ。なんとなくそのほうがいい気がしますの」


「そうだな。では頼む」

 

「みなさん、そろそろ準備はいいですか? あまりにらみ合っていると、向こうがしびれを切らしてしまうかもしれませんし」


 僕が使節団の面子を見回すと、目が合ったシャムが赤面してゼルさんの後ろの隠れてしまった。

 彼女は昨晩の僕とキアニィさんとのキスシーンを目にして以来、ずっとこの調子だ。

 突然見せちゃってごめんねとか、大人になったらするものだとか弁明のようなものをしたのだけれど、まだいつもの感じは戻っていない。距離が出来てしまった感じがして、ちょっと寂しい


「にゃんだシャム、まーだ昨日のこと気にしてんのかにゃ。あんにゃの、シャムもその内誰かとすることになるんだにゃ」


「シャ、シャムも誰かと…… うぅ……」


 ちょっと顔をのぞかせたシャムは、僕を見るとまたゼルさんの背中に引っ込んでしまった。


「えーと…… ともかく行きましょうか。ゼルさん、すみませんがシャムをお願いします」


「まかせるにゃ!」

 

 僕らは侯爵達をはじめとした諸侯連合軍のみんなに見送られ、王都に向かって白旗を掲げて歩き出した。






「ふむ…… その装い、反乱軍ではなく冒険者であるか? 何故このような場所で白旗を掲げているのだ?」


 白旗のおかげで攻撃されずに王都に接近できた僕らは、巨大な長刀(グレイブ)とそれに負けない偉容を誇る、銀髪の馬人族の騎士と相対していた。

 凄まじい気配や立ち居振る舞いから、次元の違う使い手だということが伝わってくる。おそらくこの人が--


「ベアトリス騎士団長閣下とお見受けいたす。我々は聖ドライア共和国の使節にございます。教皇猊下よりの使者、神託の御子をお連れしました」


「いかにも。しかしなぜ聖国が…… それに御子であるか?」


 ヴァイオレット様の言葉にベアトリス騎士団長が訝し気に呟く。するとロスニアさんが前に出て、両手を聖印の形に組んで深々と頭を下げた。


「閣下、お初にお目にかかります。この度神託を賜り、教皇猊下より使者の任を仰せつかった、助祭のロスニアと申します。

 猊下は王国の内乱に心を痛めておいでです。ここに、猊下よりお預かりした親書と、諸侯連合軍の盟主、プレヴァン侯爵閣下からお預かりした停戦協定書の草案がございます。

 これらを女王陛下にお届けしたく、どうか私たちに拝謁の機会を賜りますようお願い申し上げます」


「……むぅ、某には判断できぬな。む? よく見れば貴殿ら、反逆者のヴァイオレットと、そのヴァイオレットに攫われたというタツヒトではないか?」


「は。縁あって、御子殿の護衛の任を賜りました」


「恐れながら、今回の内乱の発端は我らにあるとのこと。どうか陛下にお目通りを」


 ベアトリス騎士団長は、僕とヴァイオレット様の言葉に少し考え込んだ。そして。


「--クロード! フラヴィ!」


「「は!」」


「クロードの分隊は王城へ走り、陛下に伺い建てするのだ。神託の御子と手配書の二人が、教皇猊下、聖国の使者として拝謁を希望している。お会いなさるか否か。

 フラヴィの分隊は大聖堂へ走り、ここに枢機卿閣下をお連れするのだ。聖国から神託の御子がお越しであり、閣下にも是非お会い頂きたいと」


「「承知しました!」」


 ベアトリス騎士団長の命を受け、十人程の隊が二組、王都の方へ走っていった。彼女はそれを見送ると、僕らの方に向き直った。


「本来であれば、反逆者など切って捨てるのであるが…… 聖国とまで事を構えるわけにはゆかぬし、貴殿らの様子、聞いていた話とは随分と違うようであるからな?」


「感謝いたします。閣下」


「うむ。すまぬが、ここで少し待たれよ」


 それから暫くして、品の良い馬人族のおばあさんを連れた分隊が戻ってきた。どうやら、見事な赤い法衣をまとった彼女が王国の枢機卿らしい。

 ロスニアさんが教皇猊下から貰った御子の証を見せると、彼女はその場で平服し、感涙しながら祈りを捧げ始めてしまった。これにはベアトリス騎士団長も納得してくれたようだった。

 そしてその様子にロスニアさんがあわあわしていると、今度は別の分隊が戻ってきた。陛下が僕らにお会いになるということだった。


 王城へは、ベアトリス騎士団長の部下、クロード分隊長の隊が案内してくれることになった。

 王都の最も外側の門が開き、中に入った時、僕とヴァイオレット様は目を見開いてしまった。

 大通りは薄汚れて活気が無く、家々の窓は閉ざされ、都市の名前の由来になった幾本もの水路はよどみかすかに悪臭がしている。

 以前訪れた美しい王都と同じ街とは思えないほど、荒れ果てていたのである。

 あまりの光景に全員言葉も無く歩き続け、そのまま王城の城門まで進むと、見覚えのある騎士が僕らを待ってくれていた。


「あなたは……!」


 出迎えてくれたのは、マリアンヌ陛下の御前試合で戦った只人の男性騎士、月光近衛騎士団のケヴィン分隊長だった。

 その表情は疲れ切っていて、以前見た時と比べてかなり痩せてしまっているように見える。

 

「久しぶりだね、タツヒト殿。また会えてうれしいよ」


「僕もです。あの、ケヴィン分隊長。この王都の様相は一体……」


 僕の言葉に、彼は激しい痛みに耐えているかのような表情をした。


「……一貫性の無い命令、理不尽な徴税、過剰な取り締まり…… 政府機能や都市機能が麻痺し、たった数ヶ月であんな状態になってしまった。

 君達が去ってしまってから、陛下の御心は千地に乱れ、人心も離れていった。自分には陛下を…… --いや、すまない。ここで話している時間は無いな。聖国の使節の皆様。こちらへ。陛下がお待ちです」


 ケヴィン分隊長に案内され、王城の中を進む。王城の中はさすがに綺麗なままだったけど、人気が感じられず、どこか冷え冷えとした雰囲気だった。

 暫く歩くと控室のような場所に通され、そこで武装解除してから謁見の間に入った。

 奥の一段高い場所にある玉座は空席で、その隣にいるのは確か宰相閣下だ。その他には僕らとケヴィン分隊長、数人の近衛騎士だけという、なんだかさみしい状況だった。


 僕らは王座の前に跪き、陛下がやってくるのを待った。

 正直、陛下にお会いするのはとても勇気がいる。僕がその心を狂わせてしまったという思いもあるし、だからといってあんなやり口は酷いという感情もある。

 でも、僕の気まずさは今はどうでもいい。ともかく内戦をおわらせる。それが重要だ。

 しかし、何を話すべきだろう。正直な気持ちを伝えるべきなんだろうか。

 僕とヴァイオレット様がここにいることがプラスに働くかは賭けだ。でも、このまま言葉を交わさずにいたら陛下は--


「マリアンヌ三世陛下、御入来!」


 近衛騎士の人の声に、思考が中断された。そして謁見の間の奥、玉座の左手の入口から人影が現れた。


お読み頂きありがとうございます。

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【月〜土曜日の19時頃に投稿予定】


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