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第171話 帰郷(1)

大遅刻…… 大変申し訳ございませんm(_ _)m

まずい、どんどん更新時間がずれ込んでいく…… なんとか周期を戻さねば。


 およそ10秒ほど経ち、一瞬地面が消えたような、ふらつくような感覚の後、わずかに風の音が聞こえ始めた。

 転移が終わったのか……? でも、周囲の無音状態は解除されたみたいだけど、視界は相変わらず真っ暗だ。


「ま、真っ暗なままであります。タツヒト、明かりが欲しいであります……!」


 隣からシャムの声がして、暗闇の中で腕にしがみつかれた感覚があった。


「ほいほい、今つけるよ。『灯火(ルクス・イグニス)』」


 手のひらの上に生み出した灯火が、あたりを柔らかく照らした。

 周囲の景色は、転移前と殆ど変わり映えしなかった。ここは石造りの部屋の中で、足元には魔法陣。目の前には大きな両開きの鉄扉があった。


「どうやら、転移に成功したみたいですね。似てるけど確かにさっきとは違う部屋です」


「ああ。しかし、本当にベラーキの古代遺跡に似ているな…… 治癒薬が湧き出る水場や燭台が無いので、あの遺跡では無いようだが」


「にゃー、それより早いとここの辛気臭いところから出るにゃ」


「おっと、そうですね。多分あそこの扉から出られると思います」


 魔法陣から出て鉄扉を開けると、その先はまたまた石造りの通路だった。洞窟の足場を綺麗に均しただけもので、一本道が奥まで続いている。

 罠を警戒してくれているのか、キアニィさんがすっと僕の少し前に出てくれた。そのまましばらく通路を進んでいくと、灯火の光が突き当たりに石の壁を映し出した。

 

「い、行き止まりじゃないですか……!? ど、どうしましょう……?」


「……ちょっとお待ちになって」


 焦るロスニアさんを制し、キアニィさんが石壁を調べ始めた。石壁のどこかから微かに風の音が聞こえる。


 コンコン……


「ふぅん、なるほどですわぁ。ヴァイオレット、お願いできます?」


「うむ。みんな、少し下がってくれ。 --ふん!」


 ボゴォッ!


 ヴァイオレット様が斧槍(ハルバート)を叩き込むと、石壁が崩れて外の光が洞窟内に差し込んだ。彼女はそのまま不自然に薄い石壁をガシガシと突き崩し、十分な広さになった穴を通って僕らは外に出た。

 目の前には森林が広がり、後ろを振り返ると切り立った岩壁がある。


「ますますベラーキの古代遺跡とおんなじですね。あそこも同じように偽装されてましたし。

 しかし、これじゃここがどこかわからないな……」


「ですわねぇ。ちょっとお待ちになって」


 そう言うと、キアニィさんは手近にあった木にするすると登って行った。そして天辺付近でさらに上空に向けて跳躍し、辺りを見回すように水平方向にくるりと回転した。

 そしてそのまま仰向けに落下してきた。え…… ちょ、ちょっと……!?


 ……どさっ!


 ちょうど落下地点にいた僕は、慌てて横抱きに彼女をキャッチした。


「キアニィさん、危ないじゃないですか……」


「うふふ、ごめんなさぁい。あっちの方角、1時間ほど歩いた所に大きな城塞都市がありましたわぁ。

 遠目からですけれど、戦闘が行われている様子もありませんし、まずはそこを目指してみませんこと?」


 キアニィさんはするりと僕の腕から降りると、森の方に進んで行った。 ……もしかしたら、僕の緊張をほぐしてくれたのかもしれない。


「むぅ、ずるいであります」


「シャム、ウチが抱っこしてやろうかにゃ?」


「え、やったであります!」


 そんな感じでなんだか弛緩した雰囲気のまま、僕らは都市を目指して歩き始めた。


 


 


 森を抜けた先に見えたのは、懐かしの領都クリンヴィオレだった。たった数ヶ月暮らしただけなのに、この世界ではベラーキに次いで第三の故郷だ。

 ヴァイオレット様も胸に来るものがあったのか、その場で立ち止まってしまった。


「半年…… いや、およそ8ヶ月振りか。外からは何も変わっているように見えない…… どうやら、ここが戦場になったと言うことはなさそうだな」


「ここがヴァイオレットの故郷なのでありますね」


「うむ…… そう、私の生まれ故郷だ。さぁ、行こう」


 僕らは森の淵から街道に出てさらに進み、そのまま領都への入市の待ち行列に並んだ。

 忍び込むという選択肢も無くはなかったけど、今回は聖国からの使節一行という立場だ。正面から堂々と入ることにした。

 列に並んでいる間観察していると、城壁の上にいる兵士の人達の数が普段より多いし、人達の表情が硬い気がする。やっぱり、戦時中なんだなぁ……

 列はゆっくりと進み、しばらくして僕らの番になった。疲れた様子の馬人族の門番の人達が、こちらの方をあまり見ずに言う。


「種族名と名前、それから戦時中につき、出身地と入市の目的を。あれば許可証、なければ一人20リーブだ」


「馬人族のヴィーだ」


「馬人族のヴィーね。それで出身は…… ん? あ……! あなたは、ヴァイオ--」


 先頭にいたヴァイオレット様が答えると、門番の人は途中で彼女が誰か気づいた様子だった。しかし、彼女は自身の口元で人差し指を立てて発言を遮った。


「私の今の名はヴィーだ。出身地は想像にお任せする。目的は、聖国からの使者、神託の御子ロスニア殿を領主殿に引き合わせることだ。領主殿に取り次いでもらえるだろうか?」


「……は! 拝命致しました! 領主様はご不在のため、代行殿へお取り継ぎ致します! 使者殿、護衛の方々、こちらへどうぞ! ……無事のご帰還に、お喜び申し上げます。みんな、後を頼む」


 どうやら門番の人達の責任者だったらしいその人は、僕らを連れてきびきびと歩き始めた。

 残された門番の人達も、ヴァイオレット様を敬礼で見送ってくれた。


「さすがヴィーさん、とても人望が厚いのですね。仮にも国際指名手配犯なのに、全く疑うことなく取り次いでくれるなんて」


「あぁ、ありがたいことだ。しかし、私はそんな将兵達も見捨てたのだ。こうして手厚く扱ってくれることに、後ろめたさを感じてしまう」


「僕は、魔導士団の人達がいなくてちょっとホッとしてしまいました。気まずいどころじゃ無いので……」


「二人とも真面目だにゃー。まぁ、ウチはそのおかげで助かったようなもんだけど。にゃはははは」


 門番の人について領主の館に連れてこられた僕らは、慌ただしくも意外にスムーズに中の待合室のような部屋に通された。

 そわそわと待つことしばし、ドアがノックされ、妙齢の馬人族のお姉様が入ってきた。この人は確か…… そう、侍女長のシルヴィさんだ。


「失礼致します。 ……! --聖国よりの使節団の皆様。領主代行、ロクサーヌ子爵の元へお連れいたします。こちらへどうぞ」


 彼女はヴァイオレット様と僕を見て目を見開いた後、わずかに頬を緩めて言った。


「あぁ、よろしく頼む。御子殿、こちらへ」


「は、はい……!」


 使節団の体を取るためか、ヴァイオレット様が恭しくロスニアさんを促す。

 シルヴィさんに連れられてたどり着いたのは、以前僕も入ったことがある領主様の執務室だった。

 そして、中にはヴァイオレット様の親族の方々が待っていた。


「ヴァイオレット……!」


 上品で優しげな顔立ちの男性、ヴァイオレット様のお父さんは、倒れ込むように走り寄ってヴァイオレット様を抱擁した。

 僕とヴァイオレット様は、知人が見たらどう見ても手配書の二人だ。でも、事態がどう転ぶか分からないので、使節団の立場を傘にタチアナとヴィーで無理やり通すつもりだった。

 でも、この状況でその方針を貫くのは無理があったみたいだ。


「父上……! 申し訳ありません。私は領主の一族として、騎士としてあるまじき行いをしました。しかし縁あって、恥ずかしながらこうして戻ってまいりました……」


「いい、いいんだ。君が無事なら……!」


 目に涙を湛えながら抱擁する父娘(おやこ)に、眼鏡をかけた怜悧な佇まいの只人の女性が近寄る。


「ヴァイオレット。為政者としては貴方を糾弾しなくてはなりませんが、貴方の親としてこう言っておきます。

 よくやりました。そしてよく、戻ってきました。元気そうで安心しました」


「レベッカ母様…… 申し訳ございません。ですが、母様も相変わらずで安心しました。それで、ローズ母様は--」


「おかえりなさぁい、ヴァイオレット。随分と腕をあげて…… あらぁ、その顔はやっぱり、女になりましたのぉ?

 あらあらぁ!? そちらの可愛い子は、誰かと思えばタツヒト君! やっぱりそうでしたのねぇ!

 あら……? そこの白髪の子以外のお嬢さん達…… も、もしかして皆様タツヒト君と!?  まぁまぁまぁ! ちょっとわたくし、興奮してきましてよぉ! 貴方達、こちらに座りなさいな!」


 --今は治ったけど、ヴァイオレット様の男性恐怖症の原因。ヴァイオレット様のお姉さんであるロクサーヌ様は、本当に相変わらず元気だった。

 というか、一目見ただけで僕らの関係を言い当ててくるの、凄すぎてちょっと怖いです……


お読み頂きありがとうございます。

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【月〜土曜日の19時頃に投稿予定】


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