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第017話 調査隊(3)


 山羊人族の方達は時々立ち上がって全体像を確認しながらも、相変わらずカサカサと魔法陣の上を這い回っている。

 ……彼女達が白山羊さんでよかった。

 黒山羊さんだったら、たまに台所とかに遊びに来る黒いアイツを連想するところだった。

 

 僕とヴァイオレット様というと、部屋の奥の祭壇の方に向かった。

 最初は鉄扉のところで警戒にあたっていたのだけれど、手持ち無沙汰なので祭壇に沸くポーションを見てもらおうと思ったのだ。

 祭壇の窪んだところには、相変わらず緑色に発光する液体が掛け流しになっている。


 『これが以前お話ししたポーションです。怪我をした時には随分助けられました』


 『ほう。見た目は魔導士協会製の治癒の魔法薬に似ているが……』


 まぁ効果を見てみないと何ともだよね。

 そうだ。

 

 『ヴァイオレット様、何か小さな刃物を貸して頂けませんか?』


 『む…… よかろう。これを』


 僕は彼女から小さいナイフを借りると、自分の人差し指に切り傷を作った。


 『……っタツヒト殿! 何をっ!?』


 あ、まずい。めちゃくちゃ心配させてしまったみたいだ。

 最近怪我しすぎて感覚が麻痺してたけど、いきなり隣の奴が自傷行為し始めたら焦っちゃうよね。

 でも、それにしても反応が過剰な気がする。

 村に来てまだ三日だけど、やはり亜人の人たちは只人、特に男を保護対象として見ているように感じるんだよね。

 ……いや、そうでもないか? 僕この人には出会い頭にぶっ飛ばされてるし。


 『す、すみません。効果をお見せしようと思いまして…… 考えが足りませんでした』


 『そういう理由だったか。タツヒト殿の立場からすると無理からぬことだが、せめて何をするのか事前に教えてくれ』


 『はい、本当にすみません。えっと、ではポーションの効果をお見せします』


 僕は傷ついていない方の手でポーションを掬い、傷口に振り掛けた。

 するといつものように泡立つような音がして、傷が綺麗にふさがった。


 『なるほど、綺麗にふさがっている。確かに治癒魔法薬のようだ』


 僕の指を見ながらポーションの効果を確認するヴァイオレット様。


 『はい。切り傷だけでなく骨折も治せました。ちょっと今お見せするのは遠慮したいですが……』


 『絶対にやめてくれ…… しかし、やはりそうか。ここのような古代遺跡で見つかる魔法薬は、今の技術では再現できないような高い性能を持つことが多いのだ』


 彼女の話によると、時折ここのような古代文明の遺跡が見つかることがあるらしい。

 今僕らが使ってるような翻訳機もそういった遺跡で見つかったもので、結構貴重な品なのだそうだ。

 遺跡で見つかる品は今の技術では再現が困難なものも多く、高額で取引される。

 今僕が使った治癒魔法薬も、現代の技術では再現できていない、複数の治療効果が込めれたもののようだ。

 古代文明の遺跡とお宝か…… ロマンがあるなぁ。



 


 

 魔法陣を一通り調べ終わったロメーヌ様達が僕らに合流し、魔法薬についても調べ始めた。

 彼女達も僕と同じように自分で傷を作って効果を確認していたけど、嬉々として指を刻んでは治していたのでちょっと怖かった。

 ひと段落したタイミングでヴァイオレット様が声をかける。


 『ロメーヌ卿。ひとまずその辺りにして、簡単にわかったことを教えてくれないか?』


 『おっと、了解した。いやー、素晴らしいものを見せてもらったよ。ここは魔法士団の予算で保全すべきだ、絶対に』


 ヴァイオレット様の問いに、無表情で鼻息も荒く捲し立てるロメーヌ様。

 あ、床を這いずったせいで膝とか袖が汚れてしまっている。

 教えて差し上げようと口を開きかけたところで、先に部下の人達がはたいて綺麗にしてしまった。はやい。

 

 『まずこの魔法陣。今解読できた範囲では、遠く離れた場所と物を転送し合うためのもののようだ。いくつかの古代遺跡で発見されたことがあると耳にしていたけど、実物は初めて見たよ。かろうじて説明文のようなものは理解できた。しかし、表層にある流路のパターンや素子の配置だけでは、なぜ転送などという現象を引き起こせているのか皆目見当もつかない』


 早口で捲し立てるロメーヌ様にヴァイオレット様が質問する。


 『なんと、今もその機能は生きているのだろうか?』


 『いや、残念ながら機能は停止してしまっているようだよ。三日前に、何度も大きな地揺れがあっただろう? おそらくそれが原因で地脈との接続が切れてしまっている。それにここ、多分相手側の魔法陣の座標を示す箇所だと思うのだけれど、何箇所もひびが入ってしまっている』


 彼女が指差したところを見ると、確かに魔法陣が書かれた一枚岩の一部がひび割れてしまっている。

 そこで彼女は僕の方を見て言葉を続けた。


 『タツヒト君、話に聞いた君の出身地について少し信憑性が出てきたね。地揺れによって座標がめちゃくちゃになった転送魔法陣が暴走し、不運な異世界人を召喚してしまった。突拍子もない話だけど、状況を見ると完全に否定することもできないよ』


 『……ちょっと待ってください。その、地脈の接続をなんとかすれば、僕は、元の世界に帰ることができるんでしょうか……?』


 僕からしたら意外な言葉が口をついて出てきた。

 せっかく亜人(もんむすがいる世界に来たのに、僕は帰りたいのだろうか……?


 『うーん。地脈に繋げ直すことは、すごく大変だけど不可能じゃないよ。でも、地揺れは何度も起こったっていっただろう? 君が召喚された後に地揺れでひびが増えてたりしたら、元いた場所では無いとんでもないところに転送されてしまうかもしれないよ』


 ロメーヌ様の返答に、頭では納得できたけど感情が追いつかない。

 僕自身でも驚くほどショックを受けてるみたいだ。


 『そう、ですか…… 分かりました、ありがとうございます』


 『タツヒト殿……』


 ヴァイオレット様が痛ましげな視線を投げかけてくるけど、今は答える余裕がなかった。

 そんな僕の様子を気にせずロメーヌ様が説明を続ける。


 『治癒魔法薬の方は私も何度か目にしたことがある代物だね。古代遺跡からは比較的よく見つかるものだ。もちろん、それだけでひと財産築けるぐらいの価値はあるよ。この場所自体は、はおそらく物資の集積所か何かだったんだろうね。簡単に説明するとこんなところかな』


 『なるほど…… 了解した。説明ありがとうロメーヌ卿。では今日のところはこれで村に帰投しよう』


 兵士の方々に撤退の指示を出しているヴァイオレット様をなんとなく眺めていると、ロメーヌ様が近づいてきた。


 『ところで君。こっちに来た時なんともなかったの?』


 『え、どうゆうことですか?』


 『転移魔法陣のところに、『貨物用、人の利用は禁止』と書いていある。よく無事だったね』


 『……そういえば、こっちに来た直後に数時間気絶してました』


 『へー、そのくらいで済んだんだ。じゃぁ、もし君がこの魔法陣で故郷に帰る時も大丈夫だね』


 思わぬ言葉にはっと息を呑む。


 『ーー確かに、そうですね。ありがとうございます』


 言うだけ言って満足したのか、彼女は背中を見せながら手を振って離れていった。

 彼女なりに気を使ってくれたんだろうか。少し元気が出た。


お読み頂きありがとうございました。

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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