表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
158/480

第158話 後遺症

すみません、またまた遅れてしまいました。明日は時間通りに更新できるはず……


「ふぅ…… いや〜、すまなかったぁ。おいらがヘマしちまったばかりに、お前らにばっかり頑張らせちまったぁ」


 しばらく人面獅子(マンティコア)の死体を睨んでいたダフネさんがやっと残心を解き、僕の方を見て申し訳なさそうな表情を見せた。


「ははは…… 最後はちゃんと決めてくれたんだ。それでチャラさね。さすが魔窟都市最強の冒険者だよ」


「はっはっはっ。そうかい、ありがとよぉ。さて、お〜いお前ら、こいつらに手を貸してやってくれぇ」


 彼女の号令に合同パーティーの面々が動き始め、僕をはじめとした怪我人が一箇所に集められた。

 あれだけの強敵と対峙して死者が出なかったのは本当に幸運だったけど、僕も含めて多数の重症者が出た。

 僕、キアニィさん、そして別パーティーのリーマさんは、骨折や内臓の損傷などがあり、一人で起き上がれないくらいの重体だ。

 ちなみにヴァイオレット様は、打撲とちょっと骨にヒビが入ったくらいで済んでいた。うーん、まだまだ敵わないや。

 そして僕らと同じく、シャムもまだ起き上がれずにいた。

 

「すみません、まだシャムちゃんの治療が、終わっていないのに……」


 僕の隣に横たわるシャムの脇で、ロスニアさんが荒い息をあげている。どうやら魔力切れらしい。


「気にしないで、欲しいで、あります。きっと、注入された毒の量が、多かったんであります……」


 シャムがぐったりした様子で辿々しく喋る。微かに体も震えていて、まだ毒の症状から回復しきっていないようだ。


「けふっ。シャム、大丈夫かい? 痛かったり苦しかったりしないかい?」


「タチアナこそ、大丈夫でありますか? シャムは、全身の筋肉の制御に、不全があるでありますが、痛みは無いであります」


「そうかい…… アタイの方は大丈夫さ、直ぐに治癒薬で治るさ。シャムもきっと良くなるよ。今はゆっくり休みな。帰りはアタイがシャムを背負うからさ」


「わかったで、あります……」


 そう言って、シャムは目を閉じ、穏やかに寝息を立て始めた。

 その後、僕達怪我人は治療薬で怪我を治した。中々の重症だったので、全員強い疲労感や倦怠感に襲われてしばらく動けなかった。

 できれば、体力や魔力を消耗しない神聖魔法を頼りたかったのだけれど、ロスニアさんも魔力切れでぐったりしてたのでそうも行かなかったのだ。






 僕ら怪我人組がぐったりしている間に、他の面子は人面獅子(マンティコア)から素材を剥ぎ取ったり、出口や魔窟の本体を掘り起こす作業をしてくれた。

 そして諸々の作業が終わり、怪我人組が動けるくらいに回復したところで、魔窟の本体を破壊することになった。

 本体を破壊された魔窟は、しばらくすると自壊を始めるため、その時中にいる生き物は生き埋めになってしまう。

 この『しばらく』の時間が結構ギリギリで、規模の大きい魔窟ほど長く形を保っているけど、モタモタしていると普通に間に合わなくなってしまうのだ。


「よぉし、そんじゃぁ本体をぶっ壊すかぁ。青鏡に覆われてっから、これだけでも大仕事だなぁ。ヴィー、お前さんも手伝ってくれや」


「承知した、ダフネ殿」


 この合同パーティーのツートップが魔窟の本体に向おうとした所で、カウサルさんが口を開いた。


「--ちょっと待て、その前に一つ確認させろ。タチアナ。お前、万能型だってことをなんで黙ってやがった?

 それがわかっていれば他に作戦の立てようもあったろ」


 カウサルさんの言葉に、合同パーティーの全員が僕を見た。そりゃそうだ。

 魔法使いだと名乗ってたやつが、青鏡級の魔物の身体強化を槍でぶち破っていたのだから、疑問に思わない方がおかしい。


「--それについては本当にごめんよ。事情があって、アタイが万能型だってことは隠す必要があったんだ」


「あぁ? それで納得するわけねーだろ。たまたま死人が出なかっただけで--」


「リーダー、待ってくれ。俺たち冒険者は脛に傷のある奴も多い。隠し事の一つや二つあって当然だろ。

 タチアナは俺の命を助けてくれたし、万能型の事を隠してたお陰で人面獅子(マンティコア)の不意を付けたみたいだった。ここは矛を納めちゃくれねぇか?」

 

 カウサルさんのパーティーの黄金級の戦士、僕が砂嵐から助けたモニカさんが庇ってくれた。

 カウサルさんは数秒ほどモニカさんを睨んでいたけど、不承不承という感じで頷いた。


「--ちっ、わかったよ。 ……ウチのもんが世話になったことについては礼を言っておくぜ」


「こっちこそ恩に着るよ、二人とも。みんなも、黙ってて悪かったね。お詫びに、打ち上げ費用はアタイに持たせてくんな」


「おぉ、太っ腹だなぁ。こっから急いで帰ってもまた一週間以上はかかるからなぁ。二週間ぶりの酒はぜってぇ旨えぞぉ」


「ダフネさん、ちょっとは遠慮してあげてくださいよ? あなたこの間は樽一つ丸ごと飲み干してましたよね?」


「おいリーダー、あっちのリーダーは随分と器がデケェみたいだぞ?」


「--うるせぇ、黙ってろ」


 よかった…… かなり糾弾されると思ったけど、どうやらみんな許してくれたみたいだ。 --あれ。でも今、樽一つ飲み干すとか聞こえてきたぞ?


 それから、気を取り直したヴァイオレット様とダフネさんは、魔窟の本体に猛然と攻撃を加え始めた。

 彼女達が持っているの武器は青鏡という常識はずれに硬い金属でできていて、この魔窟の本体もその青鏡に覆われている。

 普通なら破壊できたとしても武器がお釈迦になる所だけど、彼女たちは強装(きょうそう)延撃(えんげき)といった技を操る高位冒険者だ。

 彼女達が十数分攻撃を続けたことで、魔窟の本体を覆う青鏡の外殻は破壊され、中身の石筍のような本体も叩き壊された。

 その瞬間、(ぬし)の部屋に吹き込んでいた風が停止した。本体が破壊されたことで、魔窟の呼吸も止まったのだ。


 僕らは魔窟の本体の素材を回収した後、地表を目指して全速力で走った。もう万能型とバレてしまったので、動けないシャムは僕が背負って走った。

 そしておよそ一週間後、行きよりも数日早く、僕らは無事に魔窟を脱出することができた。さらに数日後、僕らが見守る前で魔窟の入り口が崩れ去った。






「皆さん! お待ちしていました!」


 時刻は夕刻。魔窟都市の冒険者組合に戻ってきた僕らを、カサンドラさんは受付カウンターから出て迎えてくれた。


「おぉカサンドラ。もう聞いてると思うが、依頼の魔窟の討伐に成功したぞぉ。いやー、中々に骨の折れる仕事だったぜぇ」


「はい。伝令の方から、本体討伐の知らせは頂いています。では、詳しい話は別室で伺いましょう。

 こちらへ-- シャムちゃん……!? ど、どうしたんですか!?」


 カサンドラさんが、僕の背中でぐったりとしているシャムに気付き、悲鳴のような声を上げた。

 魔窟から帰ってくる最中、ロスニアさんに繰り返し解毒魔法を掛けてもらったのに、彼女の症状は一定以上良くならなかった。

 呼吸や食事もできるし、何かに掴まりながらならゆっくりなら歩くこともできる。でも、走ったり、ましてや武器を扱ったりはできない状態だ……


「詳しくは後で話すけど、(ぬし)の魔物が毒持ちで、それにやられちまったんだ。色々試して、ロスニアにも頑張ってもらったんだけどね。完全には治らなかったんだよ……」


「すみません、私の力不足です…… 今は症状が落ち着いているので、明日の朝一番に教会へ行って、司祭様に診て頂こうと思います」


「カサンドラ、ただいまであります。強い神経毒で、体がうまく動かないであります。でも大丈夫、きっと良くなるであります…… きっと……」


 背負っているのでシャムの表情は見えないけど、とても不安そうな声色だ。その声を聞いた瞬間、後悔で胃の辺りがずんと重くなった。

 ダフネさんが人面獅子(マンティコア)に刺される場面を見ていたというのに、僕は全く同じ状況でシャムが刺されるのを防げなかったのだ。とんだ無能だ……


 カサンドラさんは僕に近づき、背中にいるシャムの顔に手をふれた。そして、数秒ほど心配そうにシャムの瞳を覗き込んだ。


「--ええ、シャムちゃん。きっと良くなりますよ。

 ロスニアさん、タチアナさん。明日、シャムちゃんを必ずお二人で教会に連れて行ってくださいね。

 それと、是非、礼拝も行ってみて下さい。私から聖職者の方にお話するのは憚られますが、創造神様は敬虔な信徒には慈悲を与えて下さいます」


「は、はい、もちろんです。ありがとうございます、カサンドラさん」


 念を押すようなカサンドラさんの言い方に、ロスニアさんはやや戸惑いながらも答えた。

 なんだろう。シャムを心配しているせいか、彼女の雰囲気がいつもと違うような気がする。


「よろしくお願いしますね。 --すみません皆さん。別室にご案内いたしますね」


 いつもの調子に戻ったカサンドラさんが、組合の奥の方を指して僕らを先導した。

 合同パーティーのみんなが、チラチラと心配そうな視線をシャムに送りながら歩いていく。

 --ともかく明日だ。きっと司祭様ならシャムを治してくれるはずだ。

 僕はなるべく衝撃を与えないよう、慎重にシャムを背負い直してみんなの後に続いた。






***






 ピーーー。


【外部機能単位から観察対象に関する報告…… 個体名「シャム」について、魔物との戦闘時に強力な神経毒に暴露した模様……

 現地の解毒薬、およびに第一位階治癒魔法では完治せず、重篤な麻痺の症状が残留……

 エラーコードから、人工神経網に障害が発生していると推定、有機人類を対象とした治癒魔法では完治の見込み無し……】

【上位機能単位へ対応を請う……】


【……】


【上位機能単位へ、再度対応を請う……】


【上位機能単位から返答…… 個体名「シャム」の機能回復を目的とした作戦を実行……

 外部隷下組織「聖教会」の拠点にて、観察対象と同行している組織構成員に対して抽象位階での情報転送を実行……

 観察対象を現地表記「聖ドライア共和国」の中枢へ誘導すること……】






  9章 魔窟都市ミラビントゥム 完

 10章 四八(しよう)戦争:序 へ続く

 

9章終了です。ここまでお読み頂きありがとうございましたm(_ _)m

先日も書かせていただきましたが、累計Pvが3万を超えました。これを糧に、これからも更新を続けて参ります。

10章は、明日の19時から投稿予定です。

よければまたお付き合い頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ