第151話 未管理魔窟の討伐(2)
すみません、投稿が遅れました。
魔窟とは呼吸する洞窟である。彼らは特殊な魔物であり、地中深くに魔核を持ち、ある程度成長すると地表に向かって何本もの洞窟を形成する。
形成した洞窟から外の大気を吸い込み、魔素を濾しとって排気するため、魔窟の内部は魔素の濃度が高い。
そこは魔物にとって居心地がいい環境のため、多種多様な魔物が生息し、生態系まで形成される。
そしてこの呼吸の周期が長いほど、歳を経た成熟した魔窟である傾向がある。
以前、王国の開拓村ベラーキ付近にも魔窟が出現したことがあったけど、呼吸周期は一分ほど、階層も五階層ほどの若いものだった。
それでも放っておくと、大量の魔物が魔窟から溢れてくる狂溢が発生してしまうため、慌てて討伐したのだ。
それが今回は推定100階層以上の成熟した魔窟か…… かなりの大事だ。
「そいつはまずいねぇ…… 100階層以上となると、魔核を守る主は確実に青鏡級以上だろうね」
僕の相槌に頷いたカサンドラさんは、すっとこちらに顔を寄せた。
「はい。組合としても同様の推定をしています。現在は辺り一帯に魔素が多く、魔物も活発になっています。
もしこの状況で100階層以上の魔窟から狂溢が発生したら、この都市はおそらく持ちません。
しかし今ならまだ、皆さんも含めたこの都市の戦力で、ギリギリ討伐可能であると組合は判断しました。
魔窟がこれ以上成長する前に一刻も早く討伐する必要があります。
今回は以前の鱗鎧猿の依頼と比べても危険度は非常に高いですが、もちろん相応の報酬を用意させて頂きます。どうか、ご協力を」
彼女の囁くような言葉に、僕は一瞬考え込んだ。階層数と主の脅威度からして、確かに非常に危険な依頼だ。
以前潜った数十階層ほどの鱗鎧猿の魔窟にも、青鏡級の魔物は居た。しかし、それは管理された魔窟だからだ。
素材調達に有用な鱗鎧猿は半ば養殖のような状態になっていて、階層の割に位階の高い個体が多くなるよう調整されている。弱らせた魔物を嗾けて、特定の個体の成長を促進させたりするそうだ。
遭遇した際には分からなかったけど、あの青鏡の鱗鎧猿達も野生のものより弱いらしく、すでにこの都市の最強パーティーによって討伐されているそうだ。
やっぱり危険だよなぁ。でもまぁ、こも街を見捨てるのは忍びないし、どっちにしろ時期的にまだこの都市から動けない。
僕はみんなの方を振り返った。
「みんなどうするね? まぁ、聞くまでも無いと思うけど」
「受けましょう……! ここには孤児院の子供達もいます」
「そうですわねぇ。あの子達を見捨てるわけにはいきませんわぁ」
ロスニアさんとキアニィさんを筆頭に、全員が力強く頷いた。
「決まりだ。カサンドラさん、その依頼、受けさせてもらうよ」
「ありがとうございます……! 実は、すでに他の有力なパーティーには快諾頂いています。早速ですがこちらに来て頂けますか?」
カサンドラさんについて打ち合わせ部屋に入ると、中には二つのパーティーが居た。
「お。お前らも受けてくれたかぁ。おいらの睨んだ通りだなぁ」
「ダフネの旦那、やっぱりあんたも受けてたのかい」
笑顔で迎えてくれたのは、緑鋼級パーティー『黒の鉄槌』のリーダー、牛人族のダフネさんだ。黒髪を後ろに撫でつけた柔和な顔立ちに対し、大柄で見事な筋肉質の体躯をしている。
『黒の鉄槌』はこの都市最強の冒険者パーティーと言われていて、青鏡の鱗鎧猿を討伐してくれたのも彼女達だ。
六人パーティーで、ダフネさんの他は緑鋼級の土魔法使いが一人、黄金級の戦士が二人と弓士が一人だ。
「ダフネ殿、待たせてしまいすまない。この非常時だ。討伐には我々も参加させて頂く」
ヴァイオレット様がとても丁寧な態度で応じた。ダフネさん自身は青鏡級の戦鎚使いで、その実力には彼女も一目置いているらしい。実際、扱いの難しい戦鎚を手足のように扱う様は圧巻だ。
「ふん。その非常時にモタモタしてんじゃねーよ。これだから若い奴は……」
対照的に攻撃的なのは、緑鋼級パーティー『紅き砂塵の旋風』のリーダー、猿人族のカウサルさんだ。赤毛の短髪で中肉中背、面長で神経質そうな顔つきをしている。
ふわふわの体毛にスタイリッシュな長い手足、キュートな尻尾を生やしているので是非とも仲良くしたいのだけれど、どうも僕らは嫌われているらしい。
『紅き砂塵の旋風』もこの都市の有力な冒険者パーティーで、彼女の強力な風魔法を中心とした連携に定評がある。
彼女達も六人パーティーで、カウサルさんの他は緑鋼級の戦士が一人、黄金級の戦士と弓士各二人だ。
「まぁまぁ、そうカリカリすんにゃよカウサル。その若いウチらが先輩を助けてやるにゃ!」
「ちっ……」
ちなみにカウサルさんは、我がパーティーが誇る最強の陽キャ、ゼルさんのことが苦手のようだ。
どんな皮肉を言われても気にせずグイグイ行くからなぁ、ゼルさん。
「カサンドラ、討伐に参加するのはこの三つのパーティーで全部でありますか?」
「はい。今回は三パーティーの少数精鋭で、迅速な討伐を目指す方針です。
できれば他の都市からも応援を呼びたかったのですが、この暑さではそれも命懸けになってしまいますし、今はとにかく時間が惜しいです。
早速ですが、依頼について説明させて頂きます」
カサンドラさんによると、問題の魔窟の入り口は街から一時間ほどのところにできたらしい。めちゃくちゃ近所じゃないか……
僕らはそこから魔窟に潜り、可能であれば主を討伐、魔核を破壊して欲しいとのこと。
ただこの規模の魔窟になると、主が青鏡級を超えた紫宝級に至っている可能性もある。
そうするとこの戦力でも討伐は困難なので、次善の策として主と魔核には手を出さず、可能な限り魔窟内の魔物を減らしてから戻ってきて欲しいとのことだ。
ざっと説明を受けた僕らは、すぐに魔窟に潜る準備を整えて街を飛び出し、その日の昼には魔窟の前に立っていた。
砂漠のど真ん中に忽然と大きな盛り土のようなものが出現しており、そこに鱗鎧猿の魔窟のものよりさらに一回り巨大な入り口がぽっかりと空いていた。
空気が魔窟の中に向かって流れ、ゴォォォ…… という不気味な風音も聞こえる。まるで僕らを誘い込んでいるかのようだ。
「流石に100階層以上はあるね。入り口からして風格が違うよ」
「そうだなぁ。おいらもこの規模の魔窟に挑むのは初めてだぁ」
「へっ、ビビってんのかよ。そろそろミラビントゥム最強の座を後進に譲った方がいいんじゃねぇか?」
「がっはっはっはっはっ! そうかもなぁ。けんど、譲る先がないと話になんねぇ」
ダフネさんは全員を見回すと、柔和な表情を少し引き締めた。
「みんな。急ぎの依頼だが、焦っておっ死んじまったら元も子もねぇ。無茶せず、確実に進んでいこうなぁ。
よし、そんじゃ行くぞぉ!」
「「応!!」」
ダフネさんを筆頭に、三パーティー総勢18名は巨大な魔窟の入り口に入って行った。
お読み頂きありがとうございます。
よければブックマークや評価、いいねなどを頂けますと励みになります。
また、誤字報告も大変助かります。
【月〜土曜日の19時に投稿予定】
※ちょっと下に作者Xアカウントへのリンクがあります。




