第015話 調査隊(1)
僕がヴァイオレット様からボコられて三日目の昼過ぎ、ついに調査隊が来た。
ちょうど村長と村の門の近くにいたところ、見張り台にいた冒険者の人が声をかけてくれた。
僕も見張り台に上がらせてもらったところで、蹄の音を響かせて馬人族らしき人達が10騎ほどと、馬車2台が村の正門前に到着した。
そう、馬車である。普通に馬っぽい生き物が車体を引いていて、只人が操っている。
馬人族のような人たちがいるのに合理的じゃない気がするけど……
村の門が開けられ、ヴァイオレット様ともう二騎が入ってきた。
隊の大部分は外に待機させるみたいだ。
近くにいた村の人達と一緒にお出迎えしていたら、ヴァイオレット様が僕らに気づいて近づいてきた。
あ、耳に翻訳機がついてる。僕と村長がつけてるものの他に在庫があったんだな。
『やぁ村長、騒がせてすまないな。タツヒト殿も元気そうで何よりだ。その様子では、何も問題はなかったようだな』
『こんにちはヴァイオレット様。タツヒトは大人しいもんでしたよ』
ヴァイオレット様と村長とのやり取りが聞こえる。はい、大人しくしてました。
翻訳機をつけていれば複数人でも会話できるのか…… 便利だな。
僕も挨拶しておこう。
『はい、ヴァイオレット様。快適に過ごさせて頂きました。あと、治療費と滞在費の件はありがとうございました。無一文だったので本当に助かりました』
最敬礼でお辞儀する僕に、ヴァイオレット様が微笑む。
『それは良かった。金の件は気に召されるな。謝礼と見舞い金だと思ってくれ』
そこで彼女は後ろを振り、後ろに控えていた二人に目配せした。
二人とも翻訳機をつけてくれている。
『紹介しよう。まず私の副官のグレミヨン卿だ』
『オリアーヌ・ド・グレミヨンだ。今日は調査任務と聞いている。よろしく頼もう』
『初めましてハザマ・タツヒトです。よろしくお願いします』
グレミヨン様は藍色のショートカットの馬人族のおねさんで、かなり体格に恵まれている。
脱いだらきっと素晴らしいバルクとカットをしているのだと思う。
真面目そうな顔つきも相まって、気さくな上官に対して堅物な副官て感じだ。
『ふむ…… わらべのような顔立ちだが、かなり鍛えているようだな』
僕の全身を見ながら何度も頷くグレミヨン様。
……ちょっと変わった人かも。
『副長、また男性に対してそのような…… まぁ良い。そしてこちらは、領軍魔導士団から出向いていただいたロメーヌ卿だ。見ての通り山羊人族だ』
『……ロメーヌだよ。面白いものが見られるらしいね。期待してる』
声ちっちゃ。
『よろしくお願いします。面白いかは分かりませんが、しっかり案内させて頂きます』
と、冷静に返したけど、山羊人族の人には初めて会ったので、内心かなりテンションが上がっている。
馬人族の人たちと同じく、人の上半身と山羊の首から下がくっついてる感じだ。
馬人族の人たちが鎧を着ているのに対して、濃い茶色のローブ着て豪奢な杖を持っている。
背の高さは160cmの僕と同じくらいなので、馬人族の人たちに比べてかなり小さく見える。
彼女の額のからは二本の角、頭頂部付近からは山羊耳が生えている。かわいい。
……あれ、山羊のメスってツノ生えてたっけ?
彼女の髪型は真っ白な長髪を三つ編みにしていて、なんとメガネをかけている。
じと目で気だるげに喋るの感じがなんとなく年上っぽいな。
『よし、顔合わせは済んだな。ではタツヒト殿、早速案内を頼もう。道中は我々が護衛する』
『承知しました、ヴァイオレット様。では村長、行ってきます』
『おう、気をつけて行けよ。ヴァイオレット様たちもどうかご無事で』
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」
村を出てから30分ほどたっただろうか、僕たちはボスゴブリンがいた洞窟の前に到着した。
最初は僕が歩いて調査隊を先導していたのだけれど、徒歩だと1時間以上かかりそうだったので、僕の方から走っていくのを提案した。
僕はちょっと息が上がってしまったけど、馬人族の方々は流石のものでほとんど呼吸が乱れていない。
僕はほぼ手ぶらで彼女達は鎧と武具を装備しているのに…… 只人と亜人の体力差エグいな。
「ゼッ、ゼッ、ゼッ…… オェッ」
いや、そうでも無いかも。
山羊人族のロメーヌ様はへたり込みそうになってる。
あ、しかもこっちを睨んでる……
『えっと、帰りは歩きで行きましょうか』
『……そうした、方が、君の、ためだね。 ……ふう、これで面白いものがなかったら、君に面白くなってもらうよ』
こ、怖い…… 一体何をされてしまうんだ。
ちなみにロメーヌ様は、同じく種族の部下を数人連れてきているけど、彼女達はそんなに辛そうにしていない。
あーあ、というような視線をロメーヌ様に投げかけている。
種族差とかじゃなくてロメーヌ様が運動不足なだけっぽい。
『……最近は外に出る仕事がなくて鈍ってしまったのだよ。文句は私じゃなく、仕事を割り振っている魔道士団長に言ってくれ』
『そ、そうですか』
『ははは、早速打ち解けているようでよかった』
僕らのやりとりを見ていたヴァイオレット様が笑っているけど、ロメーヌ様は憮然としている。
『タツヒト殿、この洞窟の奥に魔法陣が?』
『はい。中は入り組んでいますが、道順はメモしています。魔法陣の部屋にたどり着くまで一時間もかからないと思います』
『ふむ…… この洞窟に入るにあたって、何か注意すべきことはあるかな?』
『そうですね…… 洞窟の壁に光る鉱石が含まれているみたいで、中は明かりがなくても進めると思います。
道幅は…… 二人並んで通るのが難しいような狭いところもあるので、あまり大人数で入らない方が良さそうです』
『ほぉ、なるほど了解した。参考にさせてもらおう』
それから、ヴァイオレット様は副長さんから意見を聞きながら調査隊に指示を出し始めた。
どうやら隊を洞窟調査組と待機組に分けるみたいだ。
調査組は僕、ヴァイオレット様と只人の兵士4名、ロメール様と部下2名。
待機組は副長以下残りの人達だ。
地球の常識からすると少し驚きだけど、只人の兵士を含めて全員が女性だった。
洞窟に入る直前、ヴァイオレット様はランスを待機組に預け、腰に下げたブロードソードに問題が無いか確認してた。
なるほど、洞窟の中だとランスは邪魔だもんな。
ちなみに、まだスパイ容疑の晴れていない僕は丸腰である。
『副長、後を頼む。そうだな…… もし夕刻まで私達が戻ってこなければ、決して洞窟には入らず領都から応援を呼ぶように』
『はっ、復唱いたします。我々は隊長が戻られるまでここを確保、夕刻まで戻られない場合は洞窟に入らず、領都へ応援を要請します』
『よろしい。では行ってくる』
待機組の人たちに見送られ、僕らは洞窟の中に入っていった。
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【日月火木金の19時以降に投稿予定】
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