表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
147/479

第147話 新装備

今日は間に合いました! ちょっと長めです。


2024/06/15 タイトル変更

2025/06/26 戦闘時の状況描写を微修正


 全員の装備品を発注してからおよそ二週間後、全ての武器と防具が出来上がった。

 僕らは早速それらを装備し、軽い慣らしを行った後、都市の近くにある管理された魔窟に向かった。

 カサンドラさんに見繕ってもらったその魔窟、通称『蠍の巣』は、防具や薬の材料になる虫型の魔物の巣窟だ。

 今は魔物が少し増えすぎているらしく、討伐報酬がちょっと増額されているのだ。


 全員で魔窟に潜って数時間程。続々と出現する虫型の魔物を蹴散らしていくと、開けた窪地のような場所に魔物の群れが屯しているのを発見した。

 全員で岩陰に身を潜めながらその姿を観察すると、多尾蠍(マルダースコル)という巨大な蠍型の魔物だった。

 年を経て位階が上昇するごとに尻尾の数が増えていき、九つの尻尾を生やしたものになると体高数m、体長は十数mに達し、青鏡級の実力を誇るという。

 目の前にいる数十匹の群れには、見た感じおそらく赤銅級から黄金級の個体が居る。普通の黄金級パーティーなら逃げ帰るところだけど、僕らはちょっと腕に自信がある。

 僕はみんなに目で合図した後、懐から砂利を一掴みし、最近開発した火魔法の詠唱を始めた。

 

『--爆炎弾エクスフラム・ブレット!』


 手のひらの中の砂利を高圧の炎が包み、ソフトボール大の火球となって高速で飛翔。魔物の群れの中心に着弾した。 


 バァンッ!!


「「ギュィィィィィッ!?」」


 着弾地点にいた数匹が吹き飛ばされ、少し離れていた個体の甲殻を砂利が突き破った。


「よし……! 前衛組突貫! ヴィー、一番でかいのは任せたよ! 後衛組はここから各自援護を!」


「「了解!」」


 混乱する魔物の群れに目掛け、岩陰から前衛組の三人が飛び出した。


「うにゃにゃにゃにゃ!」


 緑鋼の双剣を乱舞させてゼルさんが群れの中を疾駆した後、その通り道にいた魔物等が一瞬遅れて細切れになった。


螺旋岩(スピラル・サクスム)!」


「シッ!」


 バキャキャッ!


 ロスニアさんが放った高速回転する岩塊が、大きめの個体の胸部を貫く。新調した筒陣(とうじん)の調子は良いみたいだ。

 そして胸に大穴を開けた魔物の陰からキアニィさんが飛び出し、強烈な蹴りで別の個体の頭部を吹き飛ばす。

 強力な脚力を誇る彼女の足には、緑鋼製の鋭い衝角と刃のついた脛鎧が装備されていて、その攻防一体の性能を存分に発揮していた。そして。


「--ぜぁっ!!」


 ギィンッ……


「ギュッ……!?」


 体長10m程、尻尾の数が五本もある群れのボスらしき多尾蠍(マルダースコル)は、ヴァイオレット様の一撃によって真っ二つにされてしまった。

 青鏡製の斧槍を振って血油を落とす彼女の後ろから、間髪いれず別の個体が襲いかかる。

 反射的に魔法で援護しようとしたけど、彼女の方が速かった。


「させないであります!」


 バガンッ!


 シャムの放った矢が、その個体の頭部を吹き飛ばした。まるで対物ライフルみたいな着弾音と威力だ。

 負けてられないな。僕は手近にいた魔物に次々と魔法を放った。






 みんなの奮闘により、多尾蠍(マルダースコル)の群れはものの数分ほどで殲滅された。

 周囲に僕ら以外に動くものが無くなり、僕が残心を解いた段階で、弓を持ったシャムが嬉しそうに飛び跳ねる。


「タツヒト、やっぱりこの複合弓はすごいであります! 小型なのに矢に込められる仕事量がとても大きいであります!

 引き切った時に小さい力で弦を保持できるので、命中精度も向上したであります!」


「そりゃよかった。シャムが頑張って考えてくれたおかげだよ。よしよし」


「えへへ……」


 頭を撫でてあげるとニコニコと嬉しそうにするシャム。可愛い。

 シャムが使っているのは、いわゆるコンパウンドボウだ。

 緑鋼や竜の腱などの高性能材料で構築した弓の両端には、特殊な形状の滑車がついていて、彼女が今言ったようなとても優れた特性がある。

 僕が持っていた知識は、なんかこういう構造にすると強くて命中精度の高い弓を作れるらしい、くらいのあやふやなものだった。

 でもシャムは、その抽象的な知識から具体的な構造や寸法を算出し、部品図面にまで落とし込んでしまった。

 めちゃくちゃ高度なAIにざっくり指示したら、一瞬で実用レベルの設計図が出力されたような印象だ。

 機械人形の種族特性なのか、それとシャムの才能なのか…… どっちにしろ凄すぎる。

 ちなみに、今回ははしゃいでいるのシャムだけじゃない。前衛組の三人も少し浮ついた雰囲気でこちらに戻ってくる。 


「ヴィー。やっぱりあなた、短槍より斧槍の方が良いみたいね。なんだか楽しそうでしたわよ?」


「うむ! 以前立ち会ったことがある騎士を真似てみたのだが、存外私に合っているようだ。

 キアニィの脛鎧も良いようだな。君の特性によく合っている」


「ええ。これで決定力不足を補えそうですわぁ」


「ロスニア! おみゃーの魔法、すげー威力だったにゃ! やっぱり高けぇ装備は違うにゃぁ」


「ええ、こんなに違うものなんですね。ちょっと怖いくらいです…… ゼルの新しい双剣もいい調子みたいですね。格好良かったですよ!」


「にゃはは! もっと褒めるにゃ!」


 冒険者の(さが)なのだろう。集合したみんなは、全員新装備について嬉しそうに話し込んでいる。

 楽しそうで非常に微笑ましいのだけれど、一応ここは魔窟の中だ。僕はパンパンと手を叩いた。


「みんなお疲れ様! 新しい装備は良いみたいだね。感想戦はその辺りにして、素材を剥ぎ取って早いところ街に帰ろうさね」






 魔窟を出た後、もう夕方なのにまだ灼熱の砂漠をひぃひぃ言いながら移動し、僕らは魔窟都市ミラビントゥムに戻った。

 街の中は日陰が多いせいもあるだろうけど、外よりかなり涼しく感じる。ここの領軍の魔法使いによってある程度気温が操作されているらしい。

 ちなみに、こういった大規模な魔法を使う際には、以前僕らが組合に収めた島蛸(クラーケ)のもののような大粒の魔核を使用するのだそうだ。魔核が魔法の威力を増幅してくれるらしい。

 小粒の魔核も、魔法陣を構築するのに使ったり、治癒薬の材料になったりするそうだ。魔核が高値で売れるわけだ。


 街に入ってからまっすぐ冒険者組合に戻ると、カサンドラさんが笑顔で待っていてくれた。

 本日の成果を素材を提出しながら報告すると、彼女は感嘆の声を上げた。


「みなさんお疲れ様でした。たった一日でこの討伐数、さすがですね。これでしばらくはあの魔窟も落ち着くでしょう。こちらが報酬です」


 カウンターにどちゃりと置かれた硬貨の山に、組合の受付スペースで屯している他の冒険者等の視線が刺さる。

 街にきた最初の頃は絡まれたりしたけど、主にヴァイオレット様が力の差を見せつけたことで、厄介な人達は寄ってこなくなった。


「ありがとさん。また良さそうな依頼が合ったら紹介しておくれ。みんな、報酬を分配するよ」


「やったにゃ! シャム、計算頼むにゃ」


 均等割した報酬をみんなに手渡すとゼルさんが嬉しそうに笑った。

 希望により、彼女だけ返済額を天引きした四分の一の額を渡している。


「了解であります! --ゼルの現在の借金は、158万ディナであります」


「ありがとだにゃ。たった二週間で2万ディナも返せたにゃ。にゃふふ、このパーティーは稼げていい感じだにゃ〜」


 借金増えてんじゃねーかというツッコミがとんできそうだけど、装備を整えた分なのでしょうがない。


「むぅ…… このペースなら5年くらいでゼルが借金を返し終えてしまうであります。

 --ゼル、ここの賭博場はすごく規模が大きいらしいでありますよ?」


「こらシャムちゃん、何て事教えてるの! ゼル、あなたもそんなに目をキラキラさせないで! 全然懲りてないじゃないですか、もう……」


「わ、わかってるにゃロスニア…… この首輪にも誓ったし、もう賭けはしないにゃ! --借金を返し終えるまでは」


「--何か言いました?」


「なんでも無いにゃ!」


 ゼルさんとロスニアさんがまたコントのような会話を繰り広げている。

 外すのに結構費用や手続きが必要らしく、ゼルさんも完済まではつけたままがいいと言うので、まだ彼女には隷属の首輪が着いている。そして、対になる主の腕輪も僕の手首に着いたままだ。

 僕が特定のキーワードを発することで、ゼルさんに激痛を与えたりできるだけでなく、僕が死ぬと首輪が締まって彼女の首が千切れ飛んでしまうそうだ。

 万が一にもこれらの機能を使いたく無いので、正直早めに外してしまいたい。


「む。そういえば前回から一週間経ったのか。カサンドラ殿、すまないが判定装置を貸してもらえるだろうか」


「ええ、構いませんよ。どうぞ」


 ヴァイオレット様は位階の判定装置を借りてくると、みんなに自身の位階を確認させ始めた。

 位階はそう簡単には上がらないので一週間毎に確認する必要は無いのだけれど、何か確かめたい事があるらしい。

 前回、一週間前には、なんとシャムとロスニアさんの位階が黄金級に達していた事が判明した。

 二人とももうすぐ上がりそうな状態だったけど、青鏡級のヴァイオレット様によるパワーレベリングの効果もあるだろう。

 僕も含めてみんなさほど位階に変化が無いことを確認していくと、最後の一人、キアニィさんが驚愕の声を上げた。


「--え!?」


 キアニィさんが持つ判定装置、位階に応じた色に輝くはずの水晶球が、黄緑色に輝いていたのである。


「キアニィ、やったな! この色は間違いなく緑鋼級だ!」


「え、ええ。でも、どう考えても早すぎますわぁ。あと数年はかかると思っていましたのに…… まさか、本当に……?」


「あぁ、おそらく間違い無いだろう。これは我々にとって福音だが、慎重に取り扱うべき情報でもある」


「そうですわね……」


 ヴァイオレット様とキアニィさんは、僕を凝視しながらなんとも要領を得ない会話をしている。


「おめでとうキアニィ。でも、なんだか視線が怖いよ…… 何がわかったんだい?」


「ええと、なんでもありませんわぁ。そうだ、今日の夜はちょっと良いお店で食べましょうよ。お祝いして欲しいですわぁ」


「そ、そうかい? まぁ、めでたいのは確かだね。よし、この間の個室の店なんてどうだい」


「良いのではないか? 早速向かうとしよう」


 何か釈然としないものを感じながら、僕らは組合を後にした。


お読み頂きありがとうございます。

よければブックマークや評価、いいねなどを頂けますと励みになります。

また、誤字報告も大変助かります。

【月〜土曜日の19時に投稿予定】


※ちょっと下に作者Xアカウントへのリンクがあります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ