第146話 大人買い
度々すみません、投稿が遅くなりました。
昼頃に始まった宴会は夕方頃まで続いた。色々な不安から解放され、束の間の休暇に入ったことで、僕とシャム以外は結構よっぱっぱな状態になってしまった。
みんなが船を漕ぎ始めた段階で、二人で苦労して酔っ払い達を店から引き摺り出し、宿まで運んで寝床に転がした後、その日は僕らも早めに休んでしまった。
そして翌朝。泡銭もあるし、まずはみんなの装備をグレードアップさせようという事になり、僕らは全員で武器や装備品の店が立ち並んでいるという通りに向かっていた。
「うにゃぁ〜…… 頭痛いにゃぁ。ロスニア、解毒の魔法使って欲しいにゃ」
「ダメです…… 創造神様の恩寵たる神聖魔法を、二日酔いなんかに使えません。
--使うべきでははないんですが、うっぷ。今日は神もお許しになる気がしてきました……」
「二人とも、まだお酒くさいであります!」
「あれだけ飲めば当然ですわぁ……」
昨日、特にはしゃいでいた約二名は、二日酔いに苦しんでいるようだ。ふらついているし顔色も酷い。
宿を出る際に朝食を殆ど食べてなかったので、よっぽど酷いんだろうな。
「無理せず寝ててもいいのに。別に急ぎじゃないんだからさ」
「いやー、パーティー加入初日に二日酔いで寝てるってのは流石にカッコ悪いにゃ。大丈夫だにゃ、多分昼くらいには動けるようになるにゃ」
「うぅ〜…… ずるいです」
身体強化は内臓、この場合は肝臓による解毒作用も強化する。なので戦士型の冒険者は、身体強化を弱めた状態で酔って、身体強化を強めて二日酔いから回復するという方法が取れる。
しかし、ロスニアさんのような魔法型の冒険者は身体強化が行えないため、その方法が取れない。
「ふむ…… ロスニア殿。装備を整えたら、少し近くの魔窟で慣らしをするのがいいと思う。
それに備えて神聖魔法を使用するのは、魔窟の魔物を減らして狂溢を防ぐ上で必要なことだろう。神もお許しになるのでは無いだろうか?」
少し戯けたようなヴァイオレット様の言葉に、ロスニアさんが目を見開いた。
「そ、それです! あ…… いえ、全くもってその通りです。では失礼して--」
彼女はその場で詠唱を始め、解毒の魔法を自分にかけた。みるみる内に彼女の顔色が良くなっていく。
「--ふぅ。あぁ神よ、感謝致します」
神の恩寵たる神聖魔法により二日酔いから復活した彼女は、すっきりとした表情で祈りを捧げた。
「ず、ずるいにゃ! ウチにも掛けて欲しいにゃ!」
「うふふ。全く、仕方がありませんねゼルは」
「すごい手のひら返しだね……」
「ふふっ、やはりゼル殿とロスニア殿がいると賑やかでいいな」
目的の通りに着くと、冒険者らしき人々でかなり賑わっていた。この辺りでよく見られる、淡い茶色の四角い建物がたくさん軒を連ねている。
普通の市場と違い、店先にかかっている絨毯に剣や鎧が刺繍してあって、それが看板代わりのようだ。
「予算は潤沢だし、よっぽど高価じゃなければ一番性能の良いものを買う事にしないかい?」
「賛成だ。まずは…… 全員の防具を良いものに替えてしまおう。特にゼル殿の防具は最優先だ。今は殆ど防御力がないからな」
「にゃはは。流石にこの格好では魔窟に入りたくないにゃ」
ゼルさんは、今は街の人の普段着のような格好なので、魔物と対峙するには確かに心許ない。
全員でいくつか防具やを冷やかしていき、品質と価格のバランスが一番良かった店で店主さんと交渉を試みた。
六人分の防具のまとめ買いという大口発注に、店主さんは笑顔で値引き交渉に応じてくれた。
全員の採寸と、戦い方に応じた防具の修正案を提示してくれた後、店主さんは急ぎのゼルさんの分の防具をその場で造り始めてくれた。
元からあった防具を修正している様子だったけど、かなり手際がいいように見えた。どうやらいいお店に出会えたみたいだ。
そして小一時間後、ゼルさんの防具が完成した。
「土竜の革鎧に緑鋼の部分鎧かにゃ…… 奴隷落ちする前より遥かにいい防具だにゃ。うん…… 動くのに邪魔になんないし、熱もこもらないにゃ。気に入ったにゃ!」
ゼルさんは、その場で腕を回したり跳ねたりしながら鎧の具合を確かめた。側から見ても動きやすそうな様子だ。
胸、前腕、下腿の辺りは緑鋼の部分鎧、それ以外のお腹なんかの重要な部位は土竜の革鎧になっている。
鎧の下に着ている服や手袋なんかは、なんと蜘蛛人族の糸から造った頑丈な代物らしい。
「うむ。良いようだな。もう少し部分鎧の面積を増やしても良さそうだが…… いや、砂漠や雪山のような環境での運用を考えると、この辺りが限度だろうな」
「金属の比率が多いと、熱中症や凍傷の危険性が高まりますからね」
残りの分は後日取りに来る事にして防具屋を後にした僕らは、武器屋を片っ端から梯子した。
まずはゼルさんの双剣とロスニアさんの戦鎚。こちらは既製品で緑鋼製の業物があったので、その場でお買い上げした。
戦鎚はよく聖職者の冒険者が使う獲物なので、筒陣を仕込めるスロットが開いていた。
驚いたことに、このスロットの大きさは魔導士協会によって規格化されているらしい。
キアニィさんとシャムに関しては、だいぶ特殊な鎧と弓を注文したので、受け取りは後日になる予定だ。
そしてヴァイオレット様は、獲物を短槍から斧槍、いわゆるハルバートに変えるようだ。
彼女は以前王都で行われた御前試合で、ハルバートを持った強敵と対峙している。それが影響しているのかもしれない。
彼女の位階は青鏡級に上がったので、刃先に青鏡、他の部分は全て緑鋼製という大変贅沢な品を特注していた。
僕はというと、魔導手甲に仕込む筒陣を強力で使い手がいいものに替えたかったのだけれど、この通りでは手に入らなかった。おそらく街のどこかには扱っている店があるはずなので、後日探してみよう。
さらに消耗品なんかも購入し、一通り装備を揃え終えたら昼過ぎになっていた。そして気づいてみると、今日だけで百数十万ディナ、日本円で1億数千万円ほどを使っていた。大人買いである。
かなり高品質で高価な装備品を人数分買ったから、そのくらいいくのはおかしくないか……
しかし、普段と全く違うお金の使い方をしたので、金銭感覚が狂ってしまいそうだ。気をつけないとゼルさんのようになってしまう。
「ん? タチアナ、なんか用かにゃ?」
買ったばかりの双剣をニコニコと眺めていたゼルさんが、僕の視線に気づいてこちらを見た。
「いや、なんでもないさ。それより、早くゼルさんがそれを振るうところを見たいよ」
「にゃ! 任せるにゃ! そんでじゃんじゃん稼いで、早めに借金を返すにゃ!」
彼女は気合い十分と言った様子で双剣を握りしめた。うん、いい笑顔だ。でもこの人の場合、借金返したらまた賭け事に走る気がする……
ロスニアさんじゃないけど、なんだか放って置けない人だな、ゼルさんて。
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【月〜土曜日の19時に投稿予定】
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