第140話 ああ……それにしても金が欲しいっ……!!(2)
すみません、大遅刻してしまいました。。。
2024/06/18 冒険者パーティーの昇級条件を修正
カサンドラさんに依頼について相談する前に、僕らはまずパーティー登録をすることにした。
受付で彼女に必要事項を伝え、認識票を渡して暫し。奥に引っ込んだカサンドラさんが戻ってきた。
「お待たせしました。皆さんのパーティー登録が完了しましたよ」
彼女から返された認識票には、ぱっと見て何の変化もない。けれど、組合が持っている何らかの技術で記録がなされているらしい。
ちなみに、元暗殺者のキアニィさんも実は冒険者に登録していて、橙銀級だった。
後で聞いてみたら、登録していた方が得られる情報も増えて、仕事を進めやすかったらしい。
「ありがとさん。あと、ちょっと長くなるかも何だけど、少し相談してもいいかい?」
「はい、もちろん構いませんよ。あ、それでは個室でお話ししましょうか」
カサンドラさんは打ち合わせ用の個室に僕らを通してくれた。
そこでざっくりと経緯を説明し、お金が欲しいんですとみんなで切実に訴えたところ、彼女は困ったように眉を八の字にしてしまった。
「うーん、一週間で25万から75万ディナですか…… 普通の依頼では難しいでしょうね」
「うむ。それは承知している。なので、多少危険度が高くても実入の良い依頼を紹介してもらいたいのだ」
「お願いします。ゼルを…… 仲間を助けたいんです……!」
「そうですねぇ…… --あぁ、皆さんならもう上がれるのかも……」
カサンドラさんはしばらく虚空を眺めていたけど、何か思いついたようだった。
「皆さん、今は全員が橙銀級ですよね? まずは、その内の二名以上の方に黄金級になって頂きます。
そうすれば、皆さん『白の狩人』は黄金級のパーティーということになるので、実入の良い依頼もご紹介できると思います。
橙銀級のまま依頼を受けるより、間違いなく多く稼ぐことができるはずです」
「黄金級…… なるほど。確かに、みんなそろそろ功績点の条件を満たしていてもおかしくないですわねぇ」
「はい。先ほど認識票から確認させて頂きましたが、キアニィさんとロスニアさんは、以前からコツコツと功績点を積み上げて下さっていました。
タチアナさん、ヴィーさん、シャムちゃんの三人は、一ヶ月程前に急激に加点されていました。全員、功績点の条件は達成されています」
「一ヶ月前…… 群体樹怪であります!」
シャムが口にした魔物の名前に、カサンドラさんは眉を顰めた。
「あれかぁ。あの時は組合側もかなり困ってたみたいだから、功績大って所だったんだろうね。
あぁ、そう言えばカサンドラさん。紹介状、すごく助かったよ。あれのおかげで割りの良い依頼を受けられたんだ。
まぁ、今シャムが言ったみたいにとんでもない化け物と戦うことになったけどね」
「お役に立てて良かったです。でも群体樹怪ですか…… 皆さんは何というか、強力な魔物と縁があるのかも知れませんね。
えっと、少し話がそれましたが、あとは位階を確認させてもらって、試験を突破して頂ければ皆さんは黄金級に上がることができます。
そうですね…… 準備があるので試験は明日になってしまいますが、いかがでしょう?」
僕がみんなの顔を見回すと、全員カサンドラさんの提案に頷いてくれた。
「わかったよ。手間をかけるけど、その案で頼むよ」
翌日。僕、ヴァイオレット様、キアニィさんの三人は、無事黄金級に上がることができた。
シャムとロスニアさんは位階の確認の段階で弾かれてしまったけど、あともう少しで黄金級に到達しそうな状態らしい。
やっぱり島蛸を一体直接討伐し、大渦竜が他の三体を屠る現場に居合わせたことが大きいみたいだ。
位階を上昇させるには、一人で、直接魔物を倒すのが一番効率いいことが経験的にわかっている。
しかしそれ以外にも、魔物が討伐される現場の近くに居合わせるだけでも位階が上昇する。
あまり魔物に直接攻撃を行わない聖職者は、主に後者の方法で位階を上げるようだ。
もちろん直接倒した方が位階は上昇するので、聖職者の人は他の冒険者よりも位階が低い傾向にある。
ちなみに、前衛組の試験内容は、なんとカサンドラさん相手に組み手をするというものだった。
試験ということもあり、もちろん誰も本気を出してはいなかったけど、カサンドラさんの底知れない実力を垣間見た気がした。
レイピアで的確に隙を突く姿は堂に入っていて、確実に黄金級以上、もしかしたら青鏡級に至っているかも知れなかった。
魔法使いの僕はというと、カサンドラさんの前で螺旋火の魔法を撃ったら一発合格だった。
試験後。カサンドラさんはまた僕らを個室に通してくれた。
「さて、これで皆さん『白の狩人』は黄金級のパーティーということになります。
ここに、黄金級から受けられる『多少危険度が高くても実入の良い依頼』をいくつか持ってきました。まずはみていただけますか?」
カサンドラさんがテーブルに幾つか依頼の紙を広げてくれた。
みんなで顔を寄せて依頼を確認していくと、一際目を引く依頼があった。
『依頼名:緑鋼を纏った鱗鎧猿の素材納品
推奨等級:黄金級以上
報酬:最大50万ディナ(素材の量、状態による)
備考:納品素材として脱皮後の鎧も可とする』
「ヴィー、これ!」
「うむ! カサンドラ殿、こちらについて教えてもらえるだろうか?」
「やはりその依頼ですか…… 承知しました。まず鱗鎧猿ですが--」
カサンドラさんによると、鱗鎧猿とは、鉱石や金属の鎧を纏った大型の猿のような魔物らしい。聞いた感じはゴリラに近い印象だ。
彼らは鉱石を好んで食し、それを体内で精製して体表面に集めることで、まるで鎧のように鉱石や金属をまとうのだそうだ。
そして、その嗜好や位階に応じて単一の鉱物を食すため、討伐に成功すれば純度の高い金属を一気に大量に得ることができる。
緑鋼を纏った個体の場合は確実に緑鋼級の実力を有しているそうなのだが、彼らは成長や位階の上昇に伴い鎧を『脱皮』することがある。
運よくその抜けらがを見つけることができれば、労せずして依頼を達成できるというわけだ。
これが黄金級でもこの依頼を受注できる理由だろう。
もちろん良いことばかりではない。鱗鎧猿はこの都市の近郊にある管理された魔窟の一つに居るのだけれど、危険度はそれなりに高いらしい。
この魔窟内には、石や鉄、緑鋼の鱗鎧猿だけでなく、青鏡を纏った強力な個体も徘徊しているらしい。
もし青鏡級の鱗鎧猿の群れに囲まれたら、いくら僕らでも助からないだろう。
「なるほど…… 確かに、『多少危険度が高くても実入の良い依頼』だね。でも、ここまで高額な依頼は他に無いね。だったら--」
僕がパーティーメンバーの顔を見回すと、みんな、特にロスニアさんが力強く頷いた。
「カサンドラさん。受けさせてもらうよ、この依頼」
「--わかりました。では、受注処理をしておきます。
鱗鎧猿がいる魔窟は、黄金級以上のパーティーでないと入れない決まりになっています。
皆さんの黄金級の認識票はまだ発行できていませんが、こちらの書類を門番の方に提示すれば入れるはずです」
カサンドラさんがくれた紙を受け取った僕らは、誰ともなく椅子から立ち上がった。今はとにかく時間が惜しい。
「ありがとう、ほんとに助かるよ。それじゃ、慌ただしいけどアタイらはもう行くよ」
「はい。皆さん、どうかお気をつけて」
心配げに見送ってくれるカサンドラさんを残し、僕らは鱗鎧猿が待つ魔窟へ向かった。
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