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第135話 どっちも好き

ちょっと長めです。


 目が覚めると、記憶が飛んでいた。やっぱりダメだったか…… あ、でもちょっとだけ覚えてるぞ。

 ベッドに寝そべったまま、視線を天井に向けて思い出す。ヴァイオレット様の果実酒は確かに飲みやすく、正直ジュースみたいだった。

 で、しばらくは三人で気分よくおしゃべりしてたところまでは覚えている。うん。以前に比べたらはるかにアルコールに強くなった気がするぞ。

 小鳥の囀りと日差しの感じからして、まだ早朝のようだ。二人はまだ寝てるのかな?


 そう思って右を見たら、同じベッドの上に、裸のヴァイオレット様が眠っていた。

 その瞬間、背中が冷や汗でじっとりと濡れた。

 --まだ大丈夫。僕がヴァイオレット様とこういった事をするのは全く問題ない。相変わらず女神のような美しい寝顔だ。

 僕は祈るような気持ちでゆっくりと左を見た。そこには、同じベッドの上に裸のキアニィさんが眠っていた。目を閉じていても妖艶で整った顔立ちだ。

 やってしまった……


 冷や汗をダラダラと流しながらしばらく思考停止していると、二人が身じろぎをした。

 僕は一瞬でベッドを抜け出すと、床に正座して二人が起き上がるのを待った。


「ふぁ…… あぁタツヒト、おはよう。 --なぜ床に座っているんだ?」


「うぅん…… あ、タツヒト君…… その、おはようございますわぁ」


 同時に起き上がった二人に対し、僕はその場で土下座した。


「--申し訳ございません。甚だ不誠実ではありますが、昨晩の記憶がありません。

 ですが状況的に、僕はキアニィさんにも手を出してしまったものと思います。その、本当にすみません……」


 怖くて二人の表情が見られず、ひたすらに頭を下げる。昨夜の迂闊な自分を殴り飛ばしたい。強い後悔の念に内臓がひっくり返りそうだ。


「ま、待てタツヒト、まずその姿勢をやめてくれ。何かこちらの方が申し訳なくなってくる」


「そうですわ。こちらに座って下さいまし」


 僕は反論する気力もなく、二人に促されてベッドに座った。両脇にはヴァイオレット様とキアニィさんが座っている。

 めっちゃ近い。というか、二人とも肌が触れてしまっている。


「すまないタツヒト。酒に弱いと訊いていたが、まさかあのような状態になるとは…… 今回のことは、キアニィと話して私が企んだのだ。

 計画では、酒が入って良い雰囲気になった段階で私は離席し、君とキアニィを二人きりにする予定だったのだ。

 だがその、君の勢いに押されて私も参加してしまったのだ。二人ともすまない」


「--へ? な、なぜそんなことを……? というか、僕は一体どんな状態だったんだ……」


 野獣のように襲いかかってしまったのだろうか……?


「決まっている。君とキアニィをくっつけるためだ。以前私は、君に私以外の相手ができても良いと言っただろう? 

 そしてキアニィは、元々君に好意があって我々の仲間になることを決めたのだ。

 タツヒトさえよければ三人で付き合おうと、事前に二人で話し合いも行っていた。淑女協定というやつだな」


「--うぇ!?」


 し、知らなかった…… 僕がすぐ隣のキアニィさんをみると、彼女は頬を染めてゆっくりと頷いた。


「キアニィさんは…… 本当にそれでいいんですか?」


「--最上ではありませんが、より良い選択ができたと思いますわぁ。

 もちろんタツヒト君を独り占めにできたら最高ですけれど、わたくしはヴァイオレットにも友情を感じていますの。

 昨夜のことがなければ、わたくしはいつまでもタツヒト君への思いを隠したまま、でも離れることもできず生きていくことになっていましたわぁ。

 それは、とても辛いことだと思いますの…… ですから、その、三人でこういう関係になれて、今はとても満ち足りていますわぁ」


 キアニィさんは、僕に腕を絡めながら穏やかに微笑んだ。

 その笑顔に胸が跳ねる。なんてことだ、僕はヴァイオレット様を愛しているのに、同時にキアニィさんのことも好きなようだ。

 地球世界の倫理観によるものか、誰かが僕を「クズ野郎!」と罵る幻聴が聞こえる気がする。

 でも、ここは異世界で、しかも二人ともこの関係で良いと言ってくれている。こんな僕を、好きと言ってくれているのだ。

 目の前の好きな人達と地球世界の常識、どちらが大切かなんて、考えるまでもない。


「--わかりました、僕も腹を括ります。責任は絶対に取ります」


「うふふ。それはわたくし達の台詞でしてよ?」


 あ、そうか。この世界では亜人の方が強いので、地球世界と男女の貞操感が逆転している節がある。けれど--


「それでもです。順番がおかしいですがキアニィさん、僕もあなたの事が好きです。その、三人で付き合っていきましょう」


「えぇ、喜んで!」


 キアニィさんが僕を抱擁し、ヴァイオレット様は満足げに頷いている。


「うむ! 良いところに収まったな。しかし、私は君のことをよく知っているつもりだったが、それは驕りだったようだ。

 あんなに激しく求めてくれるとは…… 是非また酔った君に会いたいものだ」


「それは…… ちょっとしばらくは勘弁して下さい……」


「あら、しばらくしたらまた会わせて下さいますの?」


「あ、あはははは……」


 そんな感じで穏やかに話していると、突然ノックの音が響き、部屋の中にいた全員が弾かれたようにドアを見た。


「あの…… おはようございます、ロスニアです。起きてますか?」


「お、起きてるよ! ちょっと今立て込んでるから、開けないでもらえるかい!?」


 僕は上擦った声で返事をしながら、慌てて服を着始めた。隣も二人も同じようにバタバタしている。


「あ、はい。朝食に呼びにきただけですので。それで、その…… 言いづらいんですけど、夜のお声は、もう少し押さえて頂いた方がいいと思います……

 シャムちゃんは寝ていましたけど、わ、私には一晩中聞こえていたので…… で、では、先にシャムちゃんと下に降りてますね!」


 扉からロスニアさんが遠ざかっていく気配。僕らはお互いに目を見合わせてしまった。

 そ、そりゃそうか、隣の部屋だもんな。でも、あれ……? これ、僕が男ってロスニアさんにバレてないか……?






***






 ベルンヴァッカ帝国の領土は、メディテラ海を挟んで南北に分かれている。タツヒト達は山脈を超えて帝国の北側領土に入り、東の港湾都市から船で南側の領土に渡った。

 その際キアニィは偽装を施し、自分がタツヒト達を追って北側領土内を移動しているように見せかけていた。

 タツヒト達を追う暗殺組織はキアニィの巧妙な工作により、、現在北側領土内を集中的に捜索している。しかし、捜索を行う側も工作や偽装に長けた者達だった。


「隊長。やはりこの街も痕跡が妙です。対象に関する噂を辿ると、すべて旅人に行きつきます。定住者が直接目撃したという証言が得られません。

 『緑の85番』が残したと思われる符号も、微妙に状況と食い違います。思い返せば、港湾都市を出てから同じ状況が続いています。

 ここまで続くと、何らかの偽装工作を疑わざるを得ません。そしてこの手法は、我々のものに酷似しています」


 窓を閉め切った宿屋の一室に、十数人の()人族が詰めかけている。その中の一人が今行った報告に、全員が押し黙った。

 特に一団の隊長、黄色い()人族は眉を寄せて険しい表情をしている。


 ここは帝国北側領土の南端付近の街だ。宿に詰めた一団は、キアニィが点々と残した手がかりを追って、ようやくこの街に辿り着いた。

 一団の隊長は、街に到着して強まった違和感について部下に調査を命じ、今し方報告を受けた所だ。

 そして数秒の沈黙の後、隊長が口を開いた。


「なるほど、報告ご苦労…… 考えにくい事だが、どうやら貴様らの隊長、『緑の85番』は、組織を裏切ったようだな。

 さて、ここで俺は考えてしまう。組織を裏切った者の部下を、果たしてこのまま生かしておいて良いのかと」


 隊長が皆から少し離れて立つ二人を睨むと、彼女達は目に見えて狼狽えた。


「わ、私には裏切りの意思はありません!」


「私もです! 『緑の85番』からは何も聞かされていません!」


 彼女達は『緑の85番』、キアニィの元部下である。キアニィが領都でタツヒト達の痕跡を見つけた際に、王国へ伝令に走らせた者と、領都で待機を命じた者だ。

 

「貴様らの意見は聞いていない。また捜索を撹乱されては敵わん。今の内に--」


 コン。ココココン。コン。


 隊長の殺気が強まった瞬間、宿の扉が変わった間隔でノックされた。

 隊長は視線を二人に向けたまま乱暴に言い放った。


「入れ」


 扉を開けて入ってきたのは、息を切らせた旅装の()人族だった。彼女は隊長を見つけるとその近くまで歩み寄った。


「はぁ、はぁ、はぁ…… で、伝令です。『黄の72番』、およびその部下は直ちに王都へ帰投すること。以上です」


「--この大規模な捜索作戦を切り上げてか? 今、組織から裏切り者が出たことまで判明したのだが、それでも戻れと言うのか?」


「はい。いかなる状況においても帰投せよとのことです」


「そうか…… この状況で戻れと言うのは、陛下の身に何かがあったか、それとも国そのものが危ういか、またはその両方か……」


「……」


 一団の隊長、『黄の72番』が伝令に語りかけるが、彼女は押し黙って何も話さない。


「ふむ…… 了解した。不本意だが、組織の命令は絶対だ。お前達、急いで戻るぞ。あぁ、貴様ら二人の処分もひとまず不問としておここう。どうやら、人手が必要なようだからな」


 隊長がそう言って宿の一室を出ると、残りの隊員達が音もなく彼女に付き従った。

 時期を同じくして、王国から派遣された暗殺組織の人員は、そのほとんどが帝国北側領土から姿を消した。






 8章 鉄鎖と海原 完

 9章 魔窟都市ミラビントゥム へ続く


8章終了です。ここまでお読み頂きありがとうございましたm(_ _)m

本話で、やっとタツヒト君を明確なハーレム状態に出来ました。いつも読んで下さる皆様のおかげです。タツヒト君に代わり、感謝申し上げます。

9章は、明日の19時から投稿予定です。

よければまたお付き合い頂けると嬉しいです。

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スプリットタンは上級者向けと思います(小並感) キアニィほんまよかったね涙
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