第134話 勧誘と宴の始まり
度々すみません、大幅に遅れていしまいました。明日は時間通りに投稿いたします。
「あれ? みなさんどうしたんですか?」
「なんか忘れ物かにゃ?」
僕らが港まで走って戻ると、ロスニアさんとゼルさんが不思議そうに僕らを見た。
どうやらまだ奴隷商の人は来ていない様子だった。
「ふぅ…… うん。忘れ物っちゃあそうだね。 --単刀直入に言うけど、ロスニアさん、アタイらのパーティーに入らないかい?」
「え……? あの、お話はありがたいのですけど、私はゼルについていくと決めたので……」
申し訳なさそうに断るロスニアさん。だが、ちょっと待ってほしい。
「まぁまぁ、もうちょっと話を聞いておくれよ。アタイら、少し戦力を強化することにしてね。今、機動力のある前衛と、神聖魔法が使える後衛を探してるんだ。
それで、ちょうどよく実力も人柄も知ってる人が近くにいるじゃないか。ただし、前衛の方を雇うのはちょっと高くつきそうだ。
アタイらもある程度金は持ってるけど、足りるかわからない。不足分を稼ぐにも、後衛の方には今からパーティーに加わってもらった方がいい。
どうだいロスニアさん。そんな訳で、ウチらのパーティーに入ってみないかい?」
「--あの、それって、助けてくれるってことですか……? ゼルを買い戻すのを……」
ロスニアさんは、呆然とした表情で呟いた。
「助けるってのはちょっと大袈裟だね。二人には世話になったし、ちょっとした手伝いがしたいだけさ。後ろのみんなも納得済みだよ」
僕は後ろを振り返ると、ヴァイオレット様達も頷いてくれる。
「あなた達は頼りになるからな、是非とも迎え入れたい」
「ゼルを助けるのであります!」
「あぁ…… あぁ、神よ…… 皆さん、ありがとうござ--」
ロスニアさんは目に涙を湛えて、僕に抱きつく勢いで迫ってきた。が、その寸前で動きをとめ、何やら顔を伏せてもじもじと後退してしまった。
そして僕の後ろにいたキアニィさんに目を留めると、彼女の方に抱き着いた。蛇が蛙を捕食するシーンを想起させるような、素早い動きだった。
「ありがとうございます!!」
「ひぅっ……!?」
抱きつかれたキアニィさんは、体を硬直させて今にも死にそうな声を出した。あらー……
「にゃ? よくわからにゃいけど、おみゃーらがウチを買ってくれるってことかにゃ?」
黙って話を聞いていたゼルさんが、首を傾げながら訊いてくる。
「そうなるね。まぁ、本当に買い戻せるかまだわからないけど、やるだけやってみるさ」
「そうかにゃ! タチアナ達がウチを買ってくれるなら安心だにゃ!」
今度はゼルさんが抱き着いてきたので、抱き止めていつものように耳裏やら背中やらを撫でて差し上げた。
「もし買えなくても、気にしないで欲しいにゃ。そんで、そのままロスニアを連れてって欲しいにゃ。ウチに付き合わせるのは流石に悪いにゃ」
ゼルさんが耳元で囁く。
「--わかったよ。でも、アタイらはきっとゼルさんを買い戻すよ」
「--うにゃ〜、ゴロゴロゴロゴロ……」
ゼルさんがより強く抱きしめるので、僕もそれに答えて強く抱き返した。
僕らがゼルさん達に合流した少し後、奴隷商の上役の人が来た。僕らは早速ゼルさんの買取交渉を持ちかけたけど、ここから南の魔窟都市で競りにかけるから、そこで正規に落札しろと言われてしまった。
ではそこまでの護衛に僕らを雇ってはどうかと提案したところ、これにも難色を示されてしまった。
よく考えたら当然か。あんたが持ってる奴隷が欲しいと言ってる余所者なんて、護衛の途中で野盗に早変わりする可能性の方が高い。
取り次ぐ島も無く難儀していたら、船長が助け舟を出してくれた。彼女は僕らがゼルさんを買い戻そうとしているのを甚く感心してくれたようで、僕らの腕が立つこと、信用できることを熱弁してくれた。
さらに交渉事に強いキアニィさんの力もあって、ついには奴隷商の人も折れてくれた。きちんと冒険者組合を通して、指名依頼という形ならと承諾してくれたのだ。
明日の朝には出立すると言うことだったので、船長にお礼を言い、ゼルさんにはまた明日と伝えてその場は解散となった。
ロスニアさんを加えた僕らは、先ほど入ろうとしていた宿にとって返して食事を摂った。
食事の席ではみんな明るい表情をしていた。ロスニアさんは希望が見えたため、僕らはひとまず胸のつかえが取れたおかげだと思う。
ちなみに食事中に気づいたのだけれど、ロスニアさんの舌は二つに割れていた。蛇人族故の天然のスプリットタンである。大変魅力的だったので思わず凝視してしまった。
いかんいかん。その、気が抜けてしまったのと、最近ヴァイオレット様とそう言った事をできていなかったので、つい……
食事の後は部屋に引っ込んですぐ休むことになったのだけれど、部屋割りで一悶着あった。ヴァイオレット様曰く、二人部屋と三人部屋が空いてたそうだ。
僕とヴァイオレット様が二人部屋かと思ったのだけれど、それだとキアニィさんとロスニアさんが同部屋になってしまう。
ロスニアさんは目を輝かせていたけど、キアニィさんが顔を青くしていたので、今日はロスニアさんとシャムで二人部屋に泊まってもらうことになった。
「危ないところでしたね。キアニィさん」
「え、えぇ。抱擁された瞬間、一瞬本当に意識が飛びましたわぁ…… やはりまだ慣れませんわね」
三人部屋に引っ込んだ僕らは、それぞれベッドに腰掛けながら談笑を始めた。けれど、何かキアニィさんがソワソワしている気がする。
「種族特性故のことだ、仕方がないだろう。 --ところでタツヒト、先ほど、宿の主人から良い酒を手に入れたのだ。比較的度数の低い果実酒で、なかなか飲みやすいそうだぞ。寝るまでの間、少しどうだろうか?」
ヴァイオレット様は、どこからともなくお酒のビンを取り出して言った。
「お酒ですか…… いやー、前に話したかもですけど、僕ちょっと酔い方が酷くてですね……」
「ふむ…… もちろん無理にとは言わないが、少しなら良いのでは無いか? 島蛸との戦いを経て、君の位階も上がっているはずだ。酒精に対する耐性も上がっていよう。
それに、私はまだ君と一度も酒を酌み交わしたことが無い。できれば君と一緒に酔ってみたいのだ。ダメだろうか……?」
悩ましげに小首を傾げるヴァイオレット様。そんな表情でお願いされてしまっては、さすがに断れない。
「わ、わかりました。少しでしたら……」
「そうか……! 嬉しいよ、ありがとう! では早速--」
「あ、あの! 先に体を清めてもよろしくて……? ちょっと今日は汗やら潮風やらでベタついている気が致しますの……」
お酒をコップに注ごうとしたヴァイオレット様を制して、キアニィさんが上擦った声を上げた。確かに僕も肌がベタつく気がする。
「うむ、よかろう。では、下から水と布を借りてこよう」
宿の人から水桶などを借りた僕らは、濡れタオルで体の汚れを拭った。もちろん、ヴァイオレット様とキアニィさんが体を拭いている間は僕は部屋の外に出ていた。
その間、二人は中で何やら話していたみたいだけど、よく聞き取れなかった。
さっぱりした僕らは、ちょっと行儀が悪いけど一つのベッドに集まり、お酒を飲み始めた。今回は大丈夫だといいけど……
「では気を取り直して、乾杯!」
「「乾杯!」」
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【月〜土曜日の19時に投稿予定】
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