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第013話 異世界入門(1)


 翻訳機を着け終わった村長が僕の方を見て、自身の耳に手を当てた。


 『……あー、あー、どうだ?聞こえるか?』


 『……はい、聞こえてます。初めまして、ハザマ・タツヒトといいます。タツヒトの方が名前です』


 『おっ、おぅ…… ヴァイオレット様は貴族じゃねぇとおっしゃっていたが、貴族みてぇな名前と喋り方だな』


 『ど平民なのでご安心ください』


 『そうか…… なら安心だな。俺はボドワン。一応ここの村長ってことになってる。こっちは妻のクレールだ』


 山賊の親分、ではなく村長さんはそう言ってニヤリと笑った。

 なんというか、想像していた通りの喋り方だ。

 僕はボドワン村長と並んで座るクレールさんにも目を合わせながら、ぺこりと頭を下げた。

 

 『ボドワン村長と、クレールさんですね。ひとまず三日間お世話になります』

 

 『おう、よろしくなタツヒト。腕怪我してんだろ? まずそれをなんとかすっか』

 





 外に出るよう促されて、ボドワン村長と二人、隣にあるという教会にお邪魔した。

 木造で、なんとなくキリスト教の教会っぽい造りをしているけど、掲げてあるシンボルの形が違った。

 十字架ではなく、くの字と、くの字を真ん中で左右反転させたものを重ねたような形だ。


 教会には妙齢のケンタウルスのお姉様がいて、僕たちを穏やかな笑みと共に迎えてくれた。

 服装は、上半身は…… キャソックというだっけ? 親戚の結婚式でみた神父さんの服を黒くしたような印象だ。

 下半身、というか馬体の方は、こちらもゆったりとした黒い布を羽織っている。

 村で見かけた他のケンタウルスの人達も、色は違うけど同じような布を羽織ってたな。


 村長がおねえさまに頭を下げながら声をかけた。

 その後二人で少し会話してからこちらを振り返った。


 『こちらはソフィ司祭様。こーんな辺鄙な開拓村に来てくださった慈悲深いお方だ』

 

 村長に紹介してもらったので僕も挨拶しておく。

 

 「初めましてソフィ司祭、狭間立人と言います」


 こっちの挨拶の仕方がよくわからないので、しっかり45度のお辞儀をしてみた。

 ソフィ司祭は少し驚いた表情を見せた後、お辞儀を返してくれた。


 「*****、*******、******」


 『ボドワン村長、司祭様はなんと言ってますか?』


 『歓迎するとよ』


 村長、翻訳が大雑把すぎでは……

 絶対もっと喋ってたよ。翻訳してくれるだけありがたいけどさ。


 その後、司祭様に促されて椅子に座らされた。

 僕の正面に司祭様が立ち、横に村長という位置取りだ。


 『よし。それじゃ司祭様に腕をお見せしろ』


 言われた通りに両腕を司祭様に差し出すと、彼女は僕の腕に手をかざしながら何事かを呟き始めた。


 「*****、*******……」


 すると彼女の手のひらから僕の体に、ほのかな橙色の光が降り注ぎ始めた。

 驚いてみていると、ちょうどひびが入ったかなと思っていた左の前腕が赤く光り出した。

 その後、司祭様が袖をめくって赤く光っている患部を確認し、手を当てながらさらに何事かを呟いた。

 するとポーションを使った時の感覚がくすぐったい感覚が走り、数分もすると痛みは全くなくなっていた。


 『どうだ? 治ったろ?』

 

 村長が治らないわけがないといった感じで訊いてくる。


 『は、はい。もう全く痛くありません。すごいですね…… 司祭様にお礼を伝えてください』


 司祭様にもう一度深々とお辞儀をしたら、やはり柔和な笑みで頷き返してくれた。

 少し疲れた表情をしているようにも見えるので、今の魔法は結構大変だったのかもしれない。

 うーん、聖職者。

 と思っていたら、ボドワン村長が司祭様に硬貨っぽいものを差し出した。

 司祭様は、先ほどはまた違った良い笑顔でそれを受け取ると、テキパキと僕らを教会から送り出した。

 ……すぅ〜〜〜、えっと…… うん、お金は大事だよね。


 村長宅に戻る途中、恐る恐る村長に訊いてみる。

 

 『あのー、ボドワン村長。実は僕、無一文でして、さっきの治療はおいくらでしたか……?』


 『ん? あぁ、金のことは気にすんな。お前さんの滞在費込みでヴァイオレット様から貰ってっからな』


 『えっ、ほんとですか…… ヴァイオレット様には頭が上がりませんね』


 『がはは、そうだろうとも。辺鄙なこの開拓村も、人には恵まれてるよな』


 山賊のような面構えだけど、そう言って笑みを浮かべている彼はちゃんとした村長に見えた。






 『さて、行ったり来たりで落ちつかなかったが、ひと段落だな』


 『そうですね…… あの、村長、いくつか質問してもいいですか?』


 村長宅に戻った後、僕はこの世界に来てからたまっていた疑問を村長にぶつけた。


 まず、ここはイクスパテット王国のヴァロンソル侯爵領に属する開拓村で、名前をベラーキというらしい。

 ヴァイオレット様みたいな馬人族が支配する国だそうだ。

 彼女は領主様の次女でマジの大貴族だった…… なんで開拓村の見回りなんかしてるんだろ?


 訊いてみると、この世界には馬人族以外にも山羊人族や蜘蛛人族なんて種族もいるらしかった。夢が広がる……!

 ただ、ヴァロンソル侯爵領とも接する森の奥にある蜘蛛人の国とは、森の扱いをめぐってかなり険悪らしい。

 会ってみたかったなぁ、蜘蛛人。

 あと、馬人や蜘蛛人のような人達は総じて亜人、村長やエマちゃんのような人達を只人というらしい。

 僕も、多分只人ということになるんだろうな。


 そして魔物。やはりこの世界の人類の一番の脅威は魔物で、この開拓村もできたばかり頃にかなり手ひどくやられたらしい。

 さっき治療してもらったように魔法も当たり前に存在しているけど、使える人は少ないみたいだ。

 司祭様の他には、村に常駐している冒険者の中に一人使える人がいるとのことだった。

 冒険者か……ワクワクするね。


 あと気になって暦を訪ねたら、今は聖暦1254年の秋で、もうすぐ収穫やら種蒔きの忙しい時期に入るらしかった。

 ちょっと地球時間より遅れてるかな……?

 いや、そもそも異世界だから日本の四季を基準にするのがおかしいか。

 もっと詳しく聞きたいところだけど、ひとまずざっくりとした内容はきけたかな。

 あ、そうだ。


 『村長、そういえば馬人族の男の人が全く見当たらないんですが、出稼ぎにでも行ってるんですか?』


 『はぁ? 馬人族の男なんているわけねぇだろ』

 

 『……え? 今ここにここに居ないという事ではなく、存在しないって事ですか?』


 『あぁ。馬人族どころか、男がいるのは只人だけで亜人は女しかいねぇ。何当たり前のこと訊いてんだ?』

 

 「えっ!? 何それ最高じゃん!!」


 『……何だって?』


 思わず日本語で叫んでしまった。


お読み頂きありがとうございました。

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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