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第012話 ケンタウルスの騎士(2)


 僕はヴァイオレット様にこれまでの経緯を話した。

 自分がおそらくこことは別の世界の世界から来たこと、そこでは普通の学生だったこと、そしてこの世界に来てからのことなどだ。

 スマホで魔法陣の写真を見せたところかなり驚いていた。

 一応、我が祖国日本や主要な国の名前なども出してみたけど、ヴァイオレット様は知らない様子だった。

 僕が話し終わった後しばらく目を瞑って黙っていた彼女だったが、体感で一分ほど経った後、やっと口を開いた。


 『……にわかには信じ難い話だな。特に別の世界云々については寡聞にして聞いたことがない』


 『そう、ですか…… 僕も魔物を見るまでは、異世界に来たとは信じられませんでした』


 この世界に転移した人は僕が初めてなのかも。

 それか、過去に居たとしてもこの国では知られていないか、人里に出る前に魔物とかに食べられたとかだろうな。


 『ふむ…… 一つ確かなことは、貴殿が当家の領民を助けてくれたことだ』

 

 腕を組みながらぴんと指を立てるヴァイオレット様。

 動作の一つ一つが絵になる人だな。


 『しかし、やはり貴殿が隣国の間者であったり、与太話で出身を誤魔化している犯罪者である可能性が捨てきれんのだ…… 侯爵領の軍人たる立場上な』


 『……確かに、それを否定できる材料を僕は持っていませんね』


 そういえば、翻訳機をつける前に多分複数の言語で話しかけられたな。

 あれは隣国とやらの言語に反応するか確かめていたのか。

 言語を知ってても反応しない訓練を受けてたり、出鱈目な言葉を喋ってるって可能性もあるからなぁ。

 うーん、旗色が悪い。

 

 『そこで一旦判断を保留することにした。貴殿が話していた洞窟の奥にある魔法陣や治療薬、それらの存在を確かめることができれば、先ほどの話に一定の信頼を置くことができる』


 あ、ちょっといい方向に行きそう。


 『魔法に詳しい者を呼ぶ必要があるな…… よし、タツヒト殿、三日の後に調査団を連れて戻るゆえ、すまぬがそれまでこの村に滞在していてくれ』


 『……っありがとうございます!正直本当に行く当てがないので、三日居させてもらえるだけでも助かります』


 『ふふっ、それはよかった。では私はそろそろお暇しよう。村長に話は通しておく。この装具も村長に預けるゆえ、彼を頼るといい』


 彼女はそう言ってから村長夫妻と話し始めた。

 いやーよかった。とりあえず三日は生き残れそうだ。

 ……というかやっぱりあるのか、魔法。

 こっちからも聞きたいことは山ほどあるけど、貴族様にあれこれ質問しない方がいいだろうな。






 村長夫妻とヴァイオレット様の会話を意味もわからず聞いていると、ドアをノックする音が響いた。

 夫妻の内、奥さんの方がドアを開けに向かうと、そこにはエマちゃんとお父さんがいた。


 「タツヒト***!」


 エマちゃんが嬉しそう駆け寄ってきたので、席を立って受け止める。

 よすよす。

 彼女の頭を撫でているとお父さんと目があったので会釈しておく。

 お母さんの方は体調が悪そうだったから、家で休んでるのかな。


 エマちゃんは満足したのか、次にヴァイオレット様達の方に向かっていった。

 4人で楽しそうに会話している。混ざりて〜。

 

 僕の視線に気づいたヴァイオレット様が、翻訳機をエマちゃんに渡した。

 不思議そうにしているエマちゃんに、ヴァイオレット様が何かを話している。

 どうやら使い方を説明してるっぽい。

 ヴァイオレット様の説明が終わった後、エマちゃんはいそいそと翻訳機をつけた。



 『……タツヒトお兄ちゃん、エマの声こきえる?』


 『……うん、聞こえるよ! こうして話せると嬉しいね、エマちゃん』


 花が咲いた。

 そんな比喩がぴったりな笑顔で笑った後、エマちゃんは飛び跳ねながら僕に突撃してきた。

 うぐっ。


 『エマも聞こえるよ! 助けてくれてありがとう、タツヒトお兄ちゃん! ……あ、ヴァイオレット様から怪我してるって聞いたけど、痛い……?』


 嬉しそうな顔から一転、エマちゃんは途端に目に涙を湛えた悲しそうな顔をした。

 やばい、泣いてしまいそう。


 『……っだいじょうぶ!これでも鍛えてるから平気だよ』


 嘘です。手に力は入るようになってきたけど、まだ腕全体が痛い。

 特に左の前腕は熱も帯びてきているので、ヒビくらい入ってる気がする。

 あとで村長さんに相談してみよう。

 

 『ほんと? 痛かったら司祭様に治してもらってね? エマもお小遣い出すから!』


 『……もしかして、その司祭様って魔法で怪我を治したりできるの?』


 『うん、そうだよ! やっぱり痛むの……?』


 『ううん、だいじょうぶだよ。でも念の為診てもらうことにするよ、ありがとう。そうだ、これ返しておくよ。エマちゃんのでしょ?』


 カバンから森で拾ったカゴを出してエマちゃんに渡すと、やはり彼女のものだった。

 想像通り、森に木の実を取りに来ていたところをボスゴブリンに襲われたらしかった。

 そういえば、この厳重な防壁の外にどうやって出たのだんだろう。

 聞いてみたら、どうやら防壁と地面の間に隙間ができていて、そこから出たということだった。

 雨か何かで土が流れちゃったのかな。隙間はすでに大人たちが埋めに行ったらしい。

 そこまでして木の実を取りに行ったのは、具合の悪いお母さんに食べさせたかったからとのこと。ええこやで。

 そのことでご両親からこってり絞られたみたいだけど……


 エマちゃんと戯れている間に、ヴァイオレット様と村長夫妻とのお話も終わっていた。

 その後は村人の皆さんと一緒にヴァイオレット様を見送った。

 見送りを強制されている感じは全くなく、また来てくださいねーという雰囲気だった。

 慕われているんだな、ヴァイオレット様。


 見送りの後、僕は再び村長夫妻宅にお邪魔した。

 エマちゃんは疲れが出たのか眠そうだったので、ご両親と一緒に帰宅してもらった。


 装具を耳に付けようとしている村長さんの立ち振る舞いを改めて見ると、引退してまもない凄腕冒険者って雰囲気だ。

 ヴァイオレット様から注意するよう言われたのか、今は頑丈そうな剣を腰に吊るしている。

 多分この強そうな村長さんがいるから、彼女は僕の処分を保留できたんだろうな。

 調査団がくる三日間で印象が悪くならないように立ち回らないと。

 村に入れたのにまだまだ安心できない…… しんどい!


お読み頂きありがとうございました。

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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