第103話 冒険者入門(3)
連日更新が遅れてしまってすみません。。。
「お、ようヴィー。昨日のオーク討伐、助かったぜ。あん時はばたついて礼も言えてなかったからなぁ。今度奢らせてくれや」
時間は朝、場所は地方都市レーリダの冒険者組合。僕らを見つけた犬人族の冒険者が声をかけてくれた。
「やぁおはよう。気にすることは無い、お互い様だ。だが奢ってくれるというなら歓迎するとも」
「へへっ、そうかよ。じゃぁ時間が合えば今日の依頼が終わったら声かけてくれや。おっと、もちろんそっちの二人もだ」
「シャムは牛の乳がいいであります! お酒は苦いであります」
「アタイも牛の乳がいいね」
「おいおいなんだよ、お子様ばっかりじゃねぇか」
「ふん。アンタの奢りで酒を飲んでもいいよ? でもアタイは酒癖が悪いからねぇ。建物がちょっとでも燃え残ればいいけど……」
「だー、わかった、悪かったよ。好きなもん飲んでくれ」
僕らのやり取りを聞いていた他の冒険者から笑いが起きる。この街にきておよそ2週間、討伐依頼なんかで助けたり助けられたりしてる内に、ここの冒険者の人達ともだいぶ打ち解けてきた気がする。
僕の帝国語はまだ少し怪しいけど、ヴァイオレット様とシャムのスパルタのおかげで、かなり喋れるようになった。
僕らは赤銅級に上がった後、定番のゴブリン討伐なんかの依頼をさくさくとこなして功績点を上げて行った。
ちなみに僕はホブゴブリンの知人がいる。なのであまりゴブリンを討伐したくなかったのだけれど、村の近くに巣を作られて大変らしかったので、やむを得ずというやつだ。
さておき、そんな感じで基準点を満たした僕らは、カサンドラさんに宣言した通り、登録から数日後には橙銀級に上がることができた。
橙銀級への昇級試験に際して、僕らは冒険者組合が持っている魔導具で位階のチェックを受けた。
この魔道具は水晶球に持ち手のついたような形状をしていて、握り込んで身体強化を使うとわずかに漏れ出る魔素を取り込んで増幅し、位階に応じた色に水晶球を光らせるという代物だ。
ここでもなるべく目立たないようにするため、ヴァイオレット様はチェックの際にだいぶ加減して身体強化を行なった。
結果、ヴァイオレット様は黄金級を示す黄色、シャムは橙銀級を示すオレンジ色に水晶球を光らせた。
シャムの身体能力から位階も黄金級だと思っていたけど、彼女は素の性能が高いらしい。さすが古代の機械人形。
一方僕は、以前試験官に魔法を使う際の黄色い放射光を見られていたので、今回はチェックは無かった。
なるべく目立たないようにと言ったけど、この規模の都市では黄金級の冒険者は数人しかいない。
黄金級の実力を持つ奴が二人もいる橙銀級パーティーとして、結果的に結構目立つ形になってしまった。
さておき、冒険者等級を橙銀級に上げたことで稼ぐ速度はかなり加速し、目標金額にもだいぶ近づいた。
今日も今日とて、稼げる依頼を探しに朝から組合に来ていたというわけだ。
「ふむふむ…… 食人鬼の討伐、これは黄金級からでありますね…… 四つ目狼の群れの討伐、ちょっと割安であります……
あ、これは良さそうであります! サビニャゴへの行商の護衛、往復で一週間ほどかかるでありますが、かなり依頼額が高いであります!」
もう帝国語の文字も完璧に読めるようになったシャムが、ボードからものの中から一枚の依頼書を差し示した。
僕も数字ぐらいは読めるので、確かに結構割のいい依頼な気がする。
「本当だね。でもシャム、上手い話には裏があるっていうよ。何か変なこと書いてないかい?」
「うーん。特に無いであります。タチアナは気にし過ぎであります」
「まぁ待て。こういう時こそカサンドラ殿あたりに相談してみよう」
「ではこの依頼書はシャムが持っていくであります!」
シャムがボードから依頼書を剥がし、カサンドラさんの方に向かうのに僕らもついていく。
今日も真面目そうに事務作業をしていたカサンドラさんが、窓口に来た僕らに気づいて顔を上げた。
「おや、おはようございます、皆さん。今日も早いですね」
「おはようカサンドラ殿。ちょっと尋ねたいことがあってな」
ヴァイオレット様が促すと、シャムが依頼書をカサンドラさんに見せた。
「カサンドラ。この依頼は内容に対して依頼料が高いよう見えるであります。何か裏があるのではとシャムは考えます!」
「なるほど、ちょっと拝見。あぁ、これですか。これは急ぎの護衛依頼で、魔物の領域の側を通って旅程を短縮するという、少々危険なものです。高いのはその危険手当ですね。
本来特記事項として記載すべきことなのですが、漏れていたようです。こちらの落ち度ですね。見つけてくれてありがとう、シャム」
「えへへ…… シャムにお任せなのです!」
得意そうなシャムの頭を、カサンドラさんが優しく撫でる。
この二人は二週間ほどでかなり仲良しになっていて、顔も見分けがつかないほど似ているし、もう殆ど親子だ。見ていて微笑ましい。
でも気づいたのは僕なんだけど…… まぁいいであります。
その後、僕らは危険度を理解した上でその依頼を受注した。
カサンドラさんの見立てでも、僕らなら達成できるだろうということだった。
急ぎの依頼らしいので、先ほどの犬人族の冒険者に一週間ほど留守にする旨を伝え、すぐに依頼者の行商人に会いに行く事になった。
確かサビニャゴは果物や養蜂で有名だった気がするから、今から行くのが楽しみだ。
***
王国の民が南部山脈と呼ぶ山々の近傍。ある開拓村の門の前に、フードを目深に被った女が来ていた。
女は背中に大きな荷物を背負っていて、行商人のようにも見える。
村の門を警備している冒険者達が警戒して武器を向ける中、彼女はゆっくりとフードをあげ、朗らかな笑顔と共に声をかけた。
「おはようございますわぁ。ちょっとよろしいかしら?」
彼女はとても妖艶な印象の蛙人族で、深い緑色の肌と肩にかかる程の長さのドレッドヘアが特徴的だった。
その妖艶な女は言葉巧みに村の中に入れてもらうと、老境に至った犬人族の村長の元を訪ねた。
「ふむ、なるほど。こんな辺鄙なところまで行商とは珍しいと思ったのじゃが、人をお探しでしたか。それで、どんな人をお探しで?」
「はい。若い馬人族と男性の二人ですわぁ。わたくし、以前お二人にすごくお世話になりましてぇ、お礼をするために探しておりますの。
馬人族の方は美しい紫色の毛並み、男性の方は小柄で可愛らしく、黒髪でしたわぁ。お二人とも、とてもお強いようでしたわぁ」
女がそういうと、村長の眉がぴくりと僅かに動いた。彼女はそれにめざとく気づいたようだった。
「……はて、心当たりはありませんなぁ。最近はあまり人も訪ねてきませんで」
「……わかりました。ここに来ていないと分かっただけでも助かりますわぁ。お邪魔したばかりで申し訳ございませんが、わたくしはこれで失礼させていただきますわぁ」
「お役に立てず申し訳ないですじゃ」
「いえいえ」
女は村長の家を出ると、あたりを見まわした。すると、広場で遊んでいる子供達に目を止めた。
彼女が子供達に向かって歩いていくと、子供達は少し警戒したように遊ぶのをやめて彼女を見た。
その様子に彼女はにっこり微笑み、懐から飴を出しながら尋ねた。
「おはようございますわぁ。君達、飴は好き?」
「え、くれるの?」
「やったー! ありがとう!」
子供達はすっかり警戒を解いてしまった様子で、彼女からもらった飴を舐め始めた。
「ねぇみんな、お姉さんちょっと会いたい人達がいて探しているんだけど、最近この村に誰か来なかったかしら?」
「うん! すごく強いお姉ちゃん達が三人来たよ!」
「あ、ばかっ! それ秘密だろ!?」
「あ!?」
両手で口を押さえてしまった子供に、彼女は笑みを深くして優しく言った。
「大丈夫よ。それは多分、わたくしの知り合いだから。紫色の馬人族のお姉さんと、黒髪の可愛らしいお兄さんが居たでしょ?」
「そ、そうなの? うん、馬人族のお姉ちゃんは居たよ。でも、黒髪のお兄ちゃんは居なくて、お姉ちゃんだったよ。あとは白い髪のお姉ちゃんで、僕らと一緒に遊んでくれたよ」
「あら、そうだったの。よかったわねぇ。その馬人族のお姉さんは、いつ頃ここに来て、どこに向かったかわかるかしらぁ?」
「うん。来たのはえっと、多分二週間くらい前で、レーリダに行くって村長さんが言ってた」
「そうそう、ここからあっちの方向行ったところにある大きな街だよ」
子供達が指を指す方向を確認した女は、とびきりの笑顔で懐から追加の飴を取り出した。
「ありがとう、とても助かったわぁ。これはみんなで食べてね。それじゃあ、お姉さんはもう行くわぁ」
「わぁ、ありがとう!」
「さよーならお姉ちゃん! 馬人族のお姉ちゃんにあったら、ありがとうって伝えてよ!」
「分かったわぁ。お姉さんに任せなさぁい」
女は子供達に手を振りながら村を後にした。
そして村から少し離れた場所で、子供達に教えてもらった方角を見ながら一人呟く。
「はぁ…… 山脈近くの開拓村を虱潰しにして、ようやく見つけたわぁ。黒髪のお姉ちゃんというのは対象の変装だろうけど、白髪のお姉ちゃんね…… 一体どこから連れてきたのかしら?
それに、結構時間が経ってしまっているわねぇ。まだ街にいるといいけど……
とりあえずそのレーリダという街に行って、ぐっすり寝て美味しいものでも食べて…… お仕事はそれからにしましょう」
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【月〜土曜日の19時に投稿予定】
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