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第102話 冒険者入門(2)

度々すみません、投稿が遅れました。


 都市の外に出た僕らは、街道を進んで魔物の領域近くの森まで来た。

 カサンドラさんから、薬草の形や群生している場所の特徴を聞いていたので、それらしいところに来てみたのだが……


「アタイらは場所を変えた方がいいわね」


「うむ。子供達の取り分を奪ってしまうわけには行かない」


 街道近くの森の淵のところには、僕らと同じ灰鉄級の認識票を首に下げた冒険者が数人、原っぱにしゃがみ込んで薬草を探してた。

 ただ、冒険者と言っても彼女達はみんな子供で、一様に痩せていた。

 登録は10歳からできるので、働き口の無い子供が冒険者になることもままあるらしいけど……

 彼女たちは、近寄ってきた僕らに怯えるような、あるいは警戒するような視線を投げかけている。


「見える範囲にいくつか該当する薬草があるでありますが、ここにいる全員が規定量を採取できる数はないであります。

 ここの群生地は街道からも近いので、ほとんど取り尽くされていると推測するであります」


「なるほどね…… というかシャム、アタイにはただの原っぱに見えるけど、ちょっと見ただけで薬草がどこにあるのかわかるのかい?」


「えっへん。はいであります。楽勝であります」


 ドヤ顔をするシャムが可愛かったので、頭を撫でてやる。

 この子の目と頭は特別性なので、高性能カメラで画像認識するような感じで薬草の場所が見えてるのかも。


「ふむ…… ではもう少し森の奥まで探索しよう。我々であれば少し分け入ったところにいる魔物に遅れを取ることはないだろ。

 それにシャムの目があればまだ手付かずの群生地を見つけられるかもしれない」


「ええ、そうしましょう」


 僕らは子供達を驚かさないよう、ゆっくりと森の奥の方に歩いて行った。


 森に分け入った僕らは、薬草は水気が適度に多い木陰に映えるそうなので、川の音の方向に向けて進むことにした。

 僕は拾えなかったけど、シャムと身体強化したヴァイオレット様は聞こえたらしい。

 捜索役のシャムを中心に、僕とヴァイオレット様が両脇を固める陣形でしばらく進むと、森に埋もれてしまったような小川を見つけた。

 シャムは立ち止まって辺りを見回すと、あっ、と声を上げた。


「あった! あそこであります!」


 そして彼女は川縁の草地に向かって一直線に走り始めた。

 しかし、森の浅い所とは言えどこに何は潜んでいるかわからない。僕は焦って静止の声を上げた。


「シャム、待って!」


 ガサッ!


 すると案の定、シャムのすぐ傍の藪から真っ黒い影が飛び出した。シャムはそれに驚いて硬直してしまっている。

 まずい! そう思って咄嗟に魔法を打つ前に、僕の隣から凄まじい速さで槍が射出された。


 ボッ!


「ブギャッ!?」

 

 槍は黒い影、真っ黒い猪のような姿をした魔物の心臓のあたりを見事に貫き、そのまま地面に縫い止めてしまった。

 猪は血を流しながらもがいていたけど、数秒もすると動かなくなった。


「ふぅ…… シャム。魔物の領域では少しの油断が命取りになる。今のように、見えないところに魔物が潜んでいることもあるのだ。無警戒に走り出してはいけないそ」


 猪から槍を回収しながら、ヴァイオレット様が落ち着いた声でシャムを嗜めた。


「ご、ごめんなさいであります」


 シャムがその場で固まったまま器用に肩を落とす。


「危なかったね…… でもシャム、群生地を見つけてくれたんでしょ」


「は、はいであります。あそこであります」


 彼女は先ほどのことを反省したのか、周り中に視線を巡らせながらすり足のように進んだ。

 ちょっと極端すぎて笑いそうになるけど、真面目にやっている様子なのでぐっと我慢した。


「シャムとタツヒトは薬草を頼む。ちょうど小川もあるので、私はこの魔物の処理をしておこう」


「わかりました。シャム、もうちょっと早く進んでもいいよ」


 シャムが見つけてくれた群生地には十分な量の薬草があったので、すぐに依頼にあった規定量を集めることができた。

 さらに周辺を探索することで、採集依頼にあった中型の鳥やら、薬効のあるキノコやらも手に入れることができた。

 これで赤銅級に上がるために必要な功績点は稼げたはずなので、僕らは早々に街道に戻った。






 街道に戻ると、最初の場所から少し移動していたけど、子供達はまだ薬草を探している様子だった。

 空を見上げると時刻はちょうどお昼、そして僕らの手には大きな魔物の肉の塊……


「ヴァイオレット様」「タツヒト」


 僕とヴァイオレット様は、同時にお互いに話しかけていた。

 僕らは同期したように少し驚いた表情になった後、にっこりと笑った。


「どうやら同じことを考えているようだな、タツヒト」


「ええ。手持ちに塩と香辛料はあります。串なんかはその辺の木から枝を貰えばいいし、火はいくらでも出せます」


「え、なんの話でありますか?」


 僕とヴァイオレット様が通じ合ってる中、シャムがキョトンとしている。


「いや何、時刻もちょうどいいし天気も良い。大きな肉の塊もあるので、ここで昼食にしようかという話だ。

 だがこの肉は我々だけでは食べきれない。シャム、そこにいる彼女達を一緒に食べようと誘ってきてくれないか?

 っと、彼女達には帝国語でないと通じないか。私が言ってこよう」


「ヴァイオレット、待つであります。ここはシャムにお任せなのであります」


 シャムはヴァイオレット様を止めると、すたすたと子供達の方に歩いて行ってしまった。

 僕とヴァイオレット様は顔を見合わせ、ひとまず様子を見ることにした。

 すると、シャムは子供達と普通に会話できている様子で、すぐに彼女達を連れてきてくれた。


「任務完了であります!」


「すごいじゃないかシャム。アンタ、いつの間に帝国語を話せるようになったんだい?」


「今日組合を出るころには、おおよそ話せるようになっていたであります!

 帝国語を話す人達を観察し、会話に必要な情報を収集していたであります」


「なんと…… 王国語と文法は同じとは言え、たった数日で習得してしまうとは」


「えっへん、であります!」


 僕らが王国語で話し込んでいると、シャムに連れてこられた子供達が不安そうにし始めた。


「おっと。シャム、その子達と一緒に、この辺りに座って待っていてくれるかい?

 アタシは肉捌いて焼いてしまうからさ。ヴィー、悪いけど、串やら肉を乗せるための葉っぱやらを準備してくれるかい?」


「うむ、承った」


 シンプルな味づけで作った猪の直火焼きは、春だというのに油が乗っていて美味しく、子供達にも大人気だった。

 シャム曰く、肉はもう何日振りか分からないらしく、彼女達は泣きながら貪るように食べていた。

 最初は警戒心丸出しの硬い表情だったのに、食べ終わる頃には満ち足りた様子でいい笑顔を見せてくれた。

 一万人の餓死者を見捨てた奴が何やってんだと、自分でも思う。だけど、やっぱり目の前の欠食児童は放って置けなかった。






 笑顔で手を振る子供達と別れて組合に戻った僕らは、採集してきた素材を提出した。

 無事功績点の基準を満たしたので、その流れでそのまま赤銅級の昇級試験を受けることになった。

 試験といっても、最初に受けた講習の内容に関する口頭試問と、試験管の前で武器を振ってみせる実技の簡単なものらしい。

 ちなみに、魔物の討伐依頼は赤銅級から受注可能なので、赤銅級への昇級試験に際しては位階のチェックが無い。


 口頭試問を全員がパスし、場所を組合の中庭に移して行われた実技では、ヴァイオレット様とシャムはもちろん一発合格だった。

 僕はというと、万能型であることや雷魔法が使えることがバレると目立ってしまう。

 火属性の魔法使いということにして、初歩的な火魔法である炎弾(イグニスフィア)を使って見せて無事合格した。

 本当は戦士型に徹した方が目立たないけど、戦力や利便性の点でデメリットが大きすぎたので、魔法型で行くことにした。


「皆さん、その日の内に赤銅級に上がるなんて早いですね…… 準備が間に合わないので、赤銅級の認識票は明日のお渡しになります」


 受付のカサンドラさんに合格を伝えると、少し呆れたように驚いていた。


「ははは、すまないね。アタイらは多少腕に覚えがあるからさ。

 そういえば、アタイらはひとまず橙銀級に上がりたいんだけど、早い奴だとどのくらいで上がるんだい?」


「橙銀級ですか…… そうですね。元兵士だったり、村の自警団だった人の中には、登録から数日ほどで橙銀級に上がることも珍しくないですね」


「へぇ、そうかい。じゃぁアタイらも多分そのくらいで上がるから、今の内に認識票を用意しておいておくれよ」


「……なるほど。皆さんであれば、そうしておいて方が良さそうですね。上に掛け合っておきましょう」


 僕が言った軽口を、カサンドラさんは真剣に検討している様子だった。

 この人、顔だけじゃなく、真面目なところもシャムそっくりだなぁ……

 

お読み頂きありがとうございます。

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【月〜土曜日の19時に投稿予定】


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