表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/479

第101話 冒険者入門(1)


 翌朝。ぐっすり寝て元気いっぱいのシャム、やたら肌艶の良いヴァイオレット様、そしてちょっと萎れぎみ僕は、朝食後すぐに冒険者組合に向かった。

 イクスパテット王国から放たれているであろう追手から逃れるため、王国からより遠くに行くための路銀をこの都市で稼ぐ必要がある。

 ここベルンヴァッカ帝国に不法入国した僕らの場合、手っ取り早く稼ぐには冒険者という職業が一番良いのだ。


 宿から出て数分ほど歩くと、道を行く人たちの中に冒険者らしき人たちが増えてきた気がする。

 種族は犬人族、猫人族などの他に、この国の皇帝と同じ黒牛人族らしき人もちらほらいる。

 表面上は取り繕っているけど、いろんな亜人が見られて僕は結構興奮していた。

 一応他人の目があるので、僕はタチアナを演じながらヴァイオレット様に話しかけた。


「ヴィー。アタイ達が泊まっていた宿は、冒険者向けのものじゃなかったみたいだね」


「ああ、そのようだ。何やら勘違いされていたようだったからな…… よく考えたら価格も少し高めだったような気もする。

 組合の者に、冒険者向けのいい宿でも聞いてみよう」


 雑談しながら歩いている内に、昨日ぶりの冒険者組合の建物についた。改めて大きい建物だ。

 ふと、なんだかシャムが静かなことに気づいた。

 彼女の方を見てみると、帝国語で喋る周りの人間をじっと観察している。


「どうしたタチアナ、入るぞ?」


「あ、うん。今いくよ」


 ヴァイオレット様に促されて組合の中に入ると、朝だと言うのに中は冒険者らしき人達で一杯だった。

 種族は犬人族、猫人族などの他に、この国の皇帝と同じ黒牛人族らしき人もちらほらいる。もちろん只人もいるけど、女の人が多めだ。

 彼女達の何人かは、入ってきた僕ら、特に馬人族のヴァイオレット様をチラチラ見ている。

 ふむ。よそ者でこの辺ではあまり見ない馬人族だけど、騒ぐほど珍しくもない。そんな雰囲気だ。

 僕らの先頭を行くヴァイオレット様は、そんな視線を気にする素振りもなく、受付待ちらしい行列に並んだ。


 並ぶことしばし、前の人の手続が終わって受付の人の顔が見えた時、僕は目を見開いてしまった。


「****…… おや、王国の方でしょうか?」


 その受付の人は、ヴァイオレット様を見てすぐに帝国語から王国語に切り替えてくれた。

 とても親切でありがたいのだけれど、僕らの驚きは別の場所にあった。

 似ている…… 僕とヴァイオレット様は、ほぼ同時に後ろを振り返った。僕らの後ろにいたシャムが不思議そうに僕らを見つめ返す。

 やはり似ている。受付の人の顔立ちが、家のシャムにものすごく似ているのだ。


 彼女の耳は長く、肌は透き通るように白い。おそらく話に聞く妖精族の人だろう。

 髪は銀色の短髪で、ちろん顔にはシャムのようなパーティングラインも無い。だが、顔立ちだけが他人とは思えないほど似ていた。


「あ、ああ、助かる。 --すまない、昨日は居なかったようだが、あなたはここに勤めて長いのだろうか?」


「いえ、帝都本部からの出向で、本日からここで働いております。それがどうかされましたか?」


 ヴァイオレット様の問いに、彼女は愛想の良い営業スマイルで返答した。


「そ、そうか。いや、あなたの顔立ちが連れの者にとてもよく似ていたもので、驚いてしまったのだ」


 そう言ってヴァイオレット様が傍に避けたことで、受付の人とシャムは初めて対面した。


「……っ!」

 

「あ…… タ、タチアナ、ヴィー! シャムが…… シャムがもう一人居るであります!」


 受付の人は目を見開いたまま無表情になり、シャムも混乱している様子だ。やっぱり似てるよねぇ……


「ねぇお姉さん。このシャムは最近アタイたちの仲間になったんだけど、ちょっと昔の記憶が無いみたいでねぇ。

 種族が違うけど、この子は他人とは思えないくらいお姉さん似ているよ…… 何か、心当たりは無いかい?」


 お姉さんはしばらく無言のままシャムを見つめていたけど、僕の問いかけにすぐに元の営業スマイルに戻った。


「……いえ。とても良く似ていて私も驚いてしまいましたが、心当たりはないですね。身内に行方不明の者もおりませんし。

 こちらの、シャムさんとはどこで出逢われたんですか?」


「そうかい…… この子とは最近、南部山脈のあたりで出会ったのさ。

 何もわからない様子だったから、忍びなくてねぇ。こっちのヴィーと話して連れて行くことにしたのさ。

 おっと、あたしはタチアナ、よろしくね」


「そうでございますか…… そうすると、やはり私ではお力になれないと思います。確かによく似ていますが、きっと偶然でしょう。

 申し遅れました、私はカサンドラと申します。それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」


「おっと、そうだった。この二人の冒険者登録をお願いしたい。私は昨日すませたので結構だ」


「承知いたしました。ではこちらの用紙に--」






 冒険者登録は、書類に名前と種族を書き、簡単な講習と少しばかりの登録料を支払うことですぐに完了した。

 発行された認識票は、一番下の等級の灰鉄級のものだ。鉄っぽい素材に、灰色で通し番号と、帝国語でタチアナと印字されているようだ。

 僕らは全員灰鉄級からスタートというわけだ。ここからまずは橙銀級を目指すのが当面の目標だ。

 なぜかというと、お金を稼ぐ上で効率的だからだ。


 実は昨日ヴァイオレット様がしたように、勝手に狩ってきた魔物素材でも、登録さえしていれば組合に買い取ってもらうことができる。

 でも、依頼をこなしながらの方が効率的に稼げるし、冒険者等級が上がれば宿に安く泊まれたり、鍛冶屋に優先的に依頼できたりと、特権が使える。

 もちろんもっと等級が上がればより稼げるようになるけど、橙銀級から黄金級に上がるには結構大変らしいのだ。


 登録の後、僕らはカサンドラさんに適当な依頼を見繕ってもらい、今は都市の門に向かって通りを歩いているところだ。


「登録自体は結構簡単にできましたね」


 周りに人がいないので、僕はいつもの口調でヴァイオレット様に話しかけた。


「うむ。どの国も魔物の脅威に晒されているからな。間口は広くとっているのだろう」


「なるほど。それで、まずどの依頼から片付けましょうか?

 功績点の高さで言うと、薬草の採集なんかが良さそうですけど、一回都市を出ないといけませんね」


 等級を上げるには、まず、依頼を成功させることで溜まっていく功績点と、素行などの素行点が基準を超えている必要がある。

 その上で、組合が持っているという魔導具で等級を判別し、試験を経てやっと上の等級に上がることができる。

 強いだけでは冒険者等級は上がらないということらしい。

 もちろん飛び級的な制度もあるみたいだけど、それをやると目立ってしまうので、僕らは使えない。

 目立たず、しかし最速で等級を上げる必要があるのだ。


「そうだな…… 速度優先としよう。通行税はかかるが、我々はあまり長くこの街にとどまるわけにはいかないからな。シャムもそれでいいか?」

 

「--え? あ、はい。それでいいであります」


 シャムは上の空な様子で返事した。カサンドラさんと会ってからずっとあの調子だ。


「--似てたね、カサンドラさん」


「はい。驚いたであります…… 彼女とシャムの相貌は98%一致し、ほとんど同一人物と言っても良い値であります。

 でも、彼女は妖精族で、心当たりもないということであります…… とても低い確率の偶然が生じたと考えるのが妥当であります……」


 シャムは肩を落としながら言った。

 そりゃそうだろうな…… シャムの立場からしたら、曖昧な自分の出自に関して、何か手掛かりが得られたかも知れなかったのだ。

 

「そうだね…… シャム、今日は宿で休んでいるかい? 依頼は僕とヴァイオレット様でやっておくよ」


「--いえ、シャムも一緒に依頼をこなすであります。落ち込んでいてもしょうがないであります!

 シャムは、行動こそが結果をもたらすと知っているであります!」


「ふふっ、そうだな。いい子だシャム。よし、では都市外に出るとしよう。

 採集依頼だが、もちろん魔物に出くわす可能性もある。気を引き締めていこう」


2025/07/01 カサンドラの髪色等を変更


お読み頂きありがとうございます。

よければブックマークや評価、いいねなどを頂けますと励みになります。

【月〜土曜日の19時に投稿予定】


※ちょっと下に作者Xアカウントへのリンクがあります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
カサンドラさん、そんなわかりやすい形で登場してええんか。 というかシャムが起動してること自体が想定外だった可能性もあるかな。 この辺は読み進めますねm(__)m
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ