■2■ 夢心地
「また、明日……」
去っていくルシアの背中を見送りながら、リムネッタはぽつりとつぶやいた。短い出来事だった。散歩の帰りに出会った、長い紅の髪を持つ快活な子、ルシア。彼女と別れてから、リムネッタはしばらくその場に佇んでいた。ルシアを初めて見た瞬間──紅の長い髪に、ぱっちりとした目、きゅっと結ばれた口元、明るい声、軽い身のこなし──その姿が、かつて聞かされた伝説の女騎士ヘレナ・ランカスターの幼少期の容貌と重なり、リムネッタは驚きで言葉を失ってしまったのだった。
「また、明日……」
もう一度つぶやいて、その言葉の意味を確かめる。また会えるんだと思った時、ふわふわとした不思議な感覚が、リムネッタの胸に少しずつ湧き上がってくるのを感じた。
「……」
少しの間、霧が晴れていくような感覚に身を委ねる。少しずつ現れていく感情が喜びだと気付いた時には、煌々とした一番星が東の空に輝いていた。
……
…
「ただいま」
町外れの大きな豪邸の扉を開け、リムネッタはゆっくりと入っていく。
「まぁ、リムネッタ様、どこへ行っていらしたんですか!?」
入り口から入ったリムネッタを、四十過ぎの使用人がすぐ見つけてリムネッタの元に駆け寄る。
「少し……お散歩」
リムネッタは、そのまま部屋へ戻ろうとする。
「そんな、一人で散歩だなんて……お待ちください、リムネッタお嬢様!」
「……」
引き止める使用人の声が聞こえたが、リムネッタは今日出会った少女のことで頭がいっぱいで、それどころではなかった。ボーッとしたまま、自分の部屋へと向かっていった。
ばさっと自分の身をベッドに投げ入れる。手の甲を額に当てると、少し熱っぽい気がした。
「ルシア……」
今日、初めて会った子だ。そもそも、今までは散歩と言っても庭に出るだけで、町に出たことはほとんど無かった。知り合いの同年代の少年少女は、パーティで顔を合わせるごくごく限られた人たちだけだった。
「明日も、会えるんだ……」
ただ、軽く自己紹介しただけの少女。初めて見る少女。外の世界の少女。甘いまどろみの世界に意識が落ちるまで、ルシアの姿がまぶたの裏に焼きついて離れなかった──