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6月23日 金曜日 上期防災訓練

 うぅ。緊張でおなかが痛くなってきました。


「ちょっとトイレに行ってきます。」

「また? 大丈夫ですか??」


 荒井さんの心配をよそにトイレに駆け込む私。。。もうすぐ防災訓練が始まります。本社管制の荒井さんと中町隊長がサポートできてくれています。小寺部長は椅子に座って形態をいじっていました。何しに来たんだろホントに。


 トイレから出ると、時刻は15時45分。まもなく訓練の開始時刻です。1時間ほど前から準備し、避難場所の目印や、消火訓練用の敷材設置を行いました。防災訓練、とりわけ避難訓練などはどの会社でもよくやっていますし、その都度、私たちのような警備会社がリーダーシップをとってやっていかなければいけないものですが、何度やっても緊張します。皆さんの会社や学校でも、防災訓練がありましたら、警備や防災の人たちはけっこう緊張しているのを思い出して、多少の失敗は笑って許してくださいね。


「亮さん。時間です。」


 中町隊長に言われ、私は警備室内にある放送設備のスイッチを入れました。


「訓練、訓練。緊急地震速報を受信しました。予想震度は5強、強い揺れに備えてください。落下物に注意し、身の安全を図ってください。繰り返します。訓練訓練、緊急地震速報を・・・」


 既定の文言を2度繰り返し、2分間待ちます。今は揺れている想定です。オフィスではみなさんが机の下に隠れたり、それぞれアクションを起こしているはずです。この2分間が永遠のような長さを感じます。意味もなく資料を見直してみたり、時計の秒針を何度も見たり、ドキドキの2分間です。


「亮さん。大丈夫、しっかりできてますよ。」

「は、はい。」


 中町隊長の言葉に、少しだけ緊張がほぐれたような気がします。そして、きっちり2分が経過したのを確認すると、私は再び放送スイッチを入れました。


「訓練、訓練。揺れが収まりました。従業員の皆様は、東側階段を利用して一次避難場所に避難を開始してください。繰り返します。東側階段を・・・」


 地震の際は、敷地内に定められた一次避難場所に避難したうえで様子を見て、必要であれば、自治体で定めた広域避難所と呼ばれる二次避難場所へ移動します。


 小森さんが、来客対応要員として警備室に来られました。それを合図に、PCから出力した出社状況一覧を持って、中町さんと荒井さんと警備室を出ました。オフィスの皆さんは、東側階段を利用して外に出て、警備室前の駐車場エリアに避難してきます。私たちが外に出るころには、先頭が外に出始めたところでした。


 私はハンディスピーカーを使用して集合を呼びかけます。


「避難した順番に並んでください。」


 小森さんが警備室にいるので、ここに避難をしてきたのは11名ですね。


「名前を呼ばれた方は返事をしてその場に座ってください。浜崎所長。」

「はい!」


 訓練らしくきびっとした声で浜崎所長が手を挙げて答えてから座られました。


「平尾副所長。」

「はいっ!」


 浜崎所長に習って平尾副所長も大きな声を出して座られます。そうやって11名の点呼を終え、全員が座ると、避難開始からの時間を計測していた荒井さんが、


「3分12秒です。」


 と、伝えてきてくれました。


「皆さん。今日は防災訓練にご参加いただきありがとうございました。避難開始から全員の点呼完了まで、3分12秒でした。この時間を基準に、次回は1秒でも早く避難ができるようにしていければと思います。」


 私が説明している間に、中町さんが消火栓訓練のために敷材をセッティングしてくれています。その状況を見ながら、この後の消火訓練を説明しました。まずは自分たちが『展示』という見本訓練を行い、そのあと、社員の皆様に放水体験をしていただく手はずです。


 中町さんから準備ができたとの合図が来たので、私はハンディスピーカーを荒井さんに渡しました。


「皆さんお疲れ様です。関東セキュリティサービスの荒井と申します。ここからは、地震の影響で、1F計器室内で電気がショートし、置いてあった資材から出火したという想定で訓練を行います。まずは、警備室の山盛警備員と、本日、サポートできております。弊社、CAMAZON埼玉警備隊長の中町で展示といって、消火手順の模擬訓練を実施します。その後、皆様には実際に消火栓を持っていただき、放水体験を行っていただきます。」


 中町さんが所定の位置に立ちます。


「消火隊、集まれ!!」

「よし!」


 私は中町さんの正面5メートルに立ちます。警備会社によって、警察式、自衛隊式、自社式など、いろいろな『型』がありますが、関東SSは本社指導担当が消防庁出身の方なので、消防式で『型』を行っています。そんなに大差はないのですが、掛け声だったり、若干手順が違っていたりするんですね。


「気を付け! 出火点は1F計器室内、消火器による消火は不能、電源を落としたため、これより消火栓を使用した消火に入る。消火栓操作、始め!!」

「よし!」


 中町隊長と呼吸を合わせて、オフィス1Fの通用口内にある消火栓へ駆け出します。その動き一つ一つに、荒井さんが説明を加えていきます。


「起動ボタン、よし!」


 起動ボタンを押して、消火栓BOXの扉を開放します。消火栓はバルブを開けただけでは水は出ません。皆さんが認識しているいわゆる『非常ボタン』が、水をくみ上げるポンプの起動スイッチになっています。ですので、消火栓を使用するときは、まずは起動ボタンを押して、赤い非常灯が点灯から点滅に切り替わったのを確認してからホースを伸ばします。この点滅が、『ポンプが起動して水が出せる状態になった』という目安になります。


 消火栓には大きく2人用の1号消火栓と1人用の2号消火栓があります。最近の建物は、一人で操作できる2号消火栓や、1人でも使用できる易操作1号消火栓が増えていますが、八王子管理センターの建物は1号消火栓が設置してあります。


 消火栓BOX内のホースの半分弱を外に放り出し、残ったホースと筒先を中町さんが脇に抱えます。


「(ホース準備)よし!」


 中町さんの合図を聞いて、私は放り出したホースを腰に抱え両腕でしっかり握ると腰を落とし、


「(ホースの補助)よし!」


 と声をかけます。私の役割は、ここでホースを支え、中町さんが引っ張っても消火栓本体に衝撃を与えないようにすることです。


 ホースは2本を繋いで1セットになっていますが、その中央の結合部が落ちると、


「放水、始め!!」


 と、中町さんが指示を出しました。ホースを伸ばし切り、放水姿勢になったのを確認すると、私は支えていたホースを降ろし、真っすぐに右手を上げ、


「放水始め!」


 と、復唱し、バルブを全開にしました。水の流れる音とともに、ホースが膨らんでいくのがわかります。


「(バルブ開放)よし!」


 回れ右をして、中央の契合部の決着を確認し、中町さんの放水補助に入ります。放水は、15メートル離れた場所に『火点』と表示したカラーコーンを置き、そこに向けています。


「鎮火! 放水、止め!!」


 中町さんの指示を受けて、補助していたホースを置くと、右手を水平に広げ、


「放水、止め!」


 復唱の後に、回れ右をして消火栓BOXに走り、バルブを全閉にしました。ほどなくして水は止まり、中町さんは水が出なくなったことを確認すると、筒先を地面に置き、私に向かって、両手を頭上で交差させました。


「収め!」

「収め!」


 指示を受けて復唱すると、私は集合場所近くへ移動しました。『収め』とは、使用した消火機材を片付けることを言います。ホースから筒先を取り外した中町さんが元の位置に戻ってきました。


「消火隊、集まれ!」

「よし!」

「気を付け! 直れ。異常の有無の報告!」

「異常なし!」

「よし! 別れ!!」

「よし!」


 私が敬礼すると、隊長役である中町さんが答礼し、中町さんが下げたら、私も敬礼を終わります。こうして、無事に展示訓練が完了しました。ふぅ、うまく言ってよかったです。私達の訓練を、荒井さんが逐一説明をしてくれていました。みなさんから拍手が起きた時には、少し肩の力が抜けた気がします。


「それでは、皆さんには順番に放水体験をしていただきます。思っているよりも水圧があるので、中町と山盛がサポートするのでみなさん移動をお願いします。」


 その後、順番に筒先を持っていただき、その都度、私はバルブの開閉を行いました。中町さんは筒先の社員さんに付き、体勢を崩した時に支えられるようにサポートしてくれています。私も、万が一の時はすぐに水を停められるようにバルブから手は離せません。


 17時前には、全員が体験を終え、浜崎所長からの訓示の後に解散になりました。みなさんはいったんオフィスに戻って、各々荷物を取ったらそのまま帰宅になります。後片付けは中町さんと荒井さんがやっているので、私はみなさんお帰りの見送りに警備室に戻りました。


「山盛さん。今日はありがとうございました。すごくいい訓練でした。次回もまた、よろしくです。」

「あ、ありがとうございます!」


 浜崎所長がそうおっしゃってお帰りになりました。右手を怪我しているのに、放水流行っておきたいと、支えられながら訓練に参加されて、皆さんに背中を見せていたのはさすがだと思いました。


「山~盛~さんっ!」

「新垣さん。訓練、お疲れさまでした。」

「お疲れ様です。山盛さん、すっごくかっこよかったです! 見とれちゃいました。」

「はは。ありがとうございます。」

「おかげさまで安心して仕事ができます。」


 にっこり微笑んで手を振ると、新垣さんはお帰りになられました。


「山盛、鼻の下伸びてんで。」

「伸びてませんよ。」


 けっきょく、訓練にちょこっと顔出しただけで、何をしに来たか良くわからない小寺部長でした。新垣さんに褒められて嬉しいですが、はい。下心はありません。よ?


 消火栓の後片付けを終えた中町さんたちと合流しました。使用したホースは、西側の外非常階段の上から吊るして乾かします。それまで消火栓の中はホースが無くなるので、予備のホースを設置しておきます。


「ありがとうございました。」

「亮さん。お疲れ様です。無事に終わってよかったですね。」

「じゃあ、打ち上げ行きましょうか。」


 社員様が退勤され、在館者がいないことを確認すると、機械警備に切り替えて敷地を出ました。明日は休みなので、今日は四人で飲みに行くことになっています。今夜のお酒は美味しいものになりそうです。





警備日誌 06月23日 金曜日 曇り


 本日、16:00より、2023年上期の防災訓練を実施。


 訓練補助として、小寺部長、中町、荒井が入構。


 地震からの火災想定での避難と消火栓放水訓練を行う。


 今回の避難時間は、03分12秒。


 訓練は無事終了する。


 ほか、異常なし。

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