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6月14日 水曜日 侵入事案発生!

 本当に何だってんだ! ってくらい雨の多い今年の梅雨でございます。降るだけならいいんですが、昨今の日本は温暖化なのか気候変動なのか、6月も暑い日が多いですよね。それに加えて連日の雨で湿気はマックス、楽器はサックス、斧はアックス、税はタックス、、、すみません。そんな馬鹿なことを考えつつ、真面目に不真面目な私でございます。


 しかし、雨だと警備室に籠もるしかないので、事務仕事は進んだりします。おかげさまで防災訓練のシナリオはバッチリ完成いたしました。何度も見直して不備がないことを確認し、八木沢様にメール報告しました。


 これでようやく一息つけるような気がします。私はコーヒーを入れると、シトシト降り続ける雨を眺めながら小休憩を入れました。


「ふぅ。」


 警備室の受付窓を開けましたが、ジメッとした空気が入ってくるだけだったのですぐに閉めてしまいました。その瞬間、警報音が鳴ったのでビックリしてモニターを確認しました。警備をやっていると、まれにこうやって自分の何かの動作と警報が同時になることがあります。よくよく考えれば、受付窓にセンサーはないので警報なんてなるわけないのですが、ドキッとしてしまいますね。


 モニターを確認すると、そこには見知らぬ作業服を着た男性が映っていました。侵入者です。慌てて防弾防刃チョッキを着こみ、特殊警棒を装備すると、内線用の携帯電話をポケットに突っ込みながら警備室を飛び出しました。場所は北側通用扉です。


「警備室山盛です。」

『平尾です。どうされましたか?』

「北側通用扉から見知らぬ作業服の男が侵入しています。オフィスを施錠して外に出ないようにしてください!」


 そう言うと、建物の角を曲がり、一直線に通用扉へ向かいます。扉の前では、まだ作業服の男がきょろきょろとあたりを見回していました。


「すみません。警備室の者ですが。」

「はい?」


 男は30歳前後、身長175センチくらいのやせ形。紺色の上下の作業着。明らかに東都ガスの人ではないことがわかります。


「ここは関係者以外立ち入り禁止の場所ですが、何かありましたか?」


 一定の距離をあけて話を続けます。不用意に近づき、急に攻撃されるのを防ぐためです。警備には「3歩6歩の原則」というのがあり、昼は3歩、夜は6歩の距離を最低でも取って対応する。というものです。


「すみません。隣の銀行に納品があったんですが、扉を間違えちゃったみたいです。」


 そう言うと、男は納品書を取り出して見せてくれた。八王子管理センターの北隣は、四井住留銀行の八王子支店があります。話を聞くと、銀行の通用口と境界にある通用扉を間違えたみたいです。納品物を台車で運んでいたので、建物の扉と通用扉と区別がつかなかったようですね。雨も降っていましたので。


 事情を聴いているときに、通用扉が開いて、眼鏡をかけた銀行の制服を着た女性が顔をのぞかせました。年齢は40歳くらいでしょうか。


「ちょっと、こっちは違いますよ?」


 怪訝そうに眼鏡を直すと、女性はそう言って男を睨みつけました。


「すみません。扉間違えちゃいました。」

「よく見ればわかるでしょう。」


 私は仕方なく女性に話をして、男が不審者ではないと証明していただき、報告書用に双方の名前を聞いてお戻りいただきました。この通用扉は銀行側のもので、こちら側からは鍵がないと開かないようになっています。そのため、扉にはドアセンサーが取り付けてあり、開閉すると警報が上がるようになっている仕組みです。


 施錠していただいたのを確認すると、警備室に戻りながら報告の連絡を入れた。


「お疲れ様です。警備の山盛です。」

『平尾です。大丈夫でしたか?』

「はい。銀行様に納品に来た運送会社が、扉を間違えて開けてしまったようです。銀行の方の確認も取れました。台車を押していた上に雨のために顔を上げられなかったので、どっちの扉かわからずに開けてしまったようです。」

『あー。そういうことでしたか。』

「はい。ですので危険はありません。通常業務にお戻りください。」

『わかりました。対応ありがとうございます。』


 電話を切るころには警備室に戻ることができました。ここのルールでは、不審者が侵入した場合、警備からの電話連絡か、警備室にあるオフィスへの通報ボタンを押すと、オフィスの社員が扉を施錠して立てこもれるようになっています。


 防弾防刃チョッキを脱ぐと、どっと出てきました。これと特殊警棒を装備するだけでも10キロ近く重さがあるので、けっこう疲れるんです。何年か前に、警備員が拳銃で撃たれて死亡する事件があってから、会社が現場用に用意してくれたものです。物々しすぎてあまり好きじゃないんですが。。。


 タオルで汗をぬぐうと、さっそく報告書の作成に取り掛かりました。



報告書 北側通用扉からの侵入案件

 11:18 北側通用扉のドアセンサーが発報。

     モニタで不審な男性が侵入しているのを発見する。

 11:20 警備・山盛が警備室より出動。

 11:21 平尾副所長に第一報報告。オフィスの世上を依頼。

 11:23 山盛、現地到着し、男性に声かけを実施。

     男性が四井住留銀行への納品業者であることを確認。

 11:26 通用扉より、四井住留行員が入場。

 11:29 状況を報告し、男性と銀行側へ移動する。

 11:31 平尾副所長へ状況報告実施。


 配送員

 ・名前  沢尻啓太 氏

 ・会社名 トミタ運送(阿川急便下請け)


 銀行員

 ・名前  福井京子 氏

 ・会社名 四井住留銀行八王子支店行員


 侵入の原因

 ・初めての来訪で、台車を押しているうちに向きがわからなくなった。

 ・雨のため、目の前にあった扉を開けてしまった。



 報告書を作成すると、すぐに平尾副所長へ報告メールを送信しました。過去の書類にも、北の通用扉からの誤っての侵入事案はあったのを確認しています。こちらからは開けられなくても、向こうからは開けられる造りってのがネックなんですが、これは仕方ないですからね。


 報告書を作り終えるころには昼休みの時間になったので、もう一度コーヒーを入れながらお弁当を開くのでありました。





警備日誌 06月14日 水曜日 雨


 11:18 北側通用扉にて侵入警報発報。


 銀行建物と勘違いした配送員が明けたためで異常はなし。


 四井住留銀行員から注意していただく。


 ほか、異常なし。 

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