5月30日 火曜日 第1回防災訓練打ち合わせ
会議は午後からだというのに、10時前に中町隊長はお越しになりました。
「お疲れ様です。先日は高尾山に付き合ってくれてありがとうございました。これ、差し入れです。」
「わざわざすみません。」
中町さんは日持ちするお煎餅やらスナック菓子をたくさん持ってきてくれました。
「亮さんの筋肉を破壊するものです。」
そう言って笑っていましたが、実際のところ、夕方退勤前になるとお腹が空いてどうしようもないこともあるので、実は結構うれしいです。
「会議は午後からでしたから、午前中はゆっくりされるのかと思ってました。」
「ええ。そうしようかとも思ったんですが、ここに来るのは初めてですので、現場視察も兼ねたいなと思って。」
中町さんは警備室内をチェックすると、敷地の中を見たいと言うので、一緒に巡回がてら外周を回りました。そこまで大きな敷地でもないので、外周を回っても15分ほどで戻ってこれます。私は、毎週月曜日は外周巡回を行っていることと、最終退勤者が出た後に、建物内の残留者確認を兼ねた最終巡回を行っていることを説明しました。
一通り回った後、警備室に戻って、地震や火災発生時の避難マニュアルを確認しながら、何か考えていらっしゃるようでした。
「亮さん。昨年までの防災訓練の記録ってありますか?」
そう言われ、書類棚から前年度までの訓練実績の記録書類を取り出しました。前任者が行っていたので私は初めてのことになります。一緒になって記録を見ると、地震や火災を想定して外に逃げる避難訓練は行っているものの、やっているのはそのくらいで、大したことはやっていないようです。
「亮さんの株を上げるとしますか。」
「へ?」
そう言うと、中町さんはPCを広げて何か書類を作り始めました。さすが元営業マンだけあって、書類の作成も早いですし見やすくまとまっています。途中、指示された資料を出してお手伝いしたいると、1時間ほどで立派な資料を作成してくださいました。
「これでよし。亮さん、平尾副センター長ってどんな方ですか?」
「副所長ですか? 人当たりがよくて、仕事も熱心で、丁寧な方です。」
「わかりました。ちょっと亮さんの仕事増やしちゃいますが、いい評価が得られるようなプレゼンをしましょう。」
その後、軽く昼食を取り、予定していた時間になると、平尾副所長と総務経理担当の八木沢様が警備室にお見えになりました。
「副所長の平尾です。」
「総務経理担当の八木沢です。」
中町さんは自己紹介を受け、慣れた手付きで名刺を取り出すと、
「関東セキュリティサービス警備防災部の中町と申します。今は物流警備課で課長代理として、埼玉川越物流倉庫警備隊長をしております。本日は、山盛の補佐としてまいりました。よろしくお願いいたします。」
営業で培ったスペシャルスマイルで切り出した。警備室内にあるテーブルに落ち着くと、さっそく資料を広げてのプレゼンが始まりました。中町さんの提示したことは、
1、クライアントの要望
2、防災訓練の見直し
3、地震、火災、救命など、想定を分けての訓練の提案
などでした。昨年度までは、防災訓練といっても、地震が発生したとか火災が発生したとかの想定を作り、館内放送を入れ、社員様が避難場所である警備室前の駐車場広場に集まることくらいしかしていませんでしたが、中町さんが提案したのは、それ以上の話でした。
八王子管理センターの警備は、ご存知の通り私一人だけです。一人の力は限度があります。なので、所属する社員様にも、防災の基礎を学ぶ機会を取って、災害時に自分を守るための行動ができるようにしてみてはどうか、ということでした。
想像していた打ち合わせよりも濃いものになったからでしょうか。平尾副所長も八木沢様も目を丸くされておりました。
「建設的な提案をありがとうございました。社員一人一人の防災に関しての知識は乏しく、中町さんのおっしゃるとおり、緊急時に警備さんにすべての負担をかけるのは危険だと感じました。」
「もちろん。山盛は知識、経験、共に豊富で、必要な資格なども取得しております。有事の際にはその能力をいかんなく発揮できると確信しておりますが、山盛としても、この施設での警備力、防災力を向上させる一環として、せっかくの防災訓練に、皆様になにか体験していただければと考えたいとのことです。そこで、今回のご提案をさせていただきました。」
中町さんの持ち上げに、少々気恥しくなってしまいますね。確かに、せっかくやるのでしたら、社員様にも有意義な時間を過ごしていただきたいです。
「この施設の警備は一人現場ですが、社内人事としては、警備隊長クラスの人材でないと一人現場は預けられないと考えております。その山盛が防災訓練に関しても必要な力を発揮してくれるはずです。」
いや、中町さん。だから持ち上げすぎです。あんまりハードル上げないでください。。。
「わかりました。弊社として、防災訓練にどこまで力を入れてよいか、今までの訓練の見直しのご提案も含めて、所長の浜崎と相談のうえ、ご返答させていただきます。山盛さん、来週もう一度打ち合わせをお願いできますか?」
「はい。かしこまりました。」
「貴重な時間をありがとうございました。」
お二人はそう言って警備室を出ていかれました。
「中町さん。ハードル上げすぎですよ。」
「亮さんなら大丈夫! いい訓練ができるようにしていきましょう。」
中町さんはそう言うと、提案できる防災訓練の内容をまとめてくださいました。ただ、確かに、緊急時に私以外にも社員様がある程度の動きが取れれば、迅速な対応も可能になりますし、対応の幅も広がります。
「現場にいてもお手伝いできるので、メールとMINEでやり取りしましょう。」
その後も軽く打ち合わせをしていたのですが、中町隊長の現場で問題が発生したとのことで、今日のところは引き上げていかれました。
防災訓練の見直し、そんなところまで頭が回っていませんでしたが、自社の評価を上げるための行動、確かに長い目で見ればだ時なことだと思います。
警備日誌 05月30日 火曜日 曇り
来月の防災訓練に先立ち、打ち合わせを実施。(別紙)
来週、第二回の打ち合わせ予定。
ほか、異常なし。
第1回防災訓練打ち合わせ議事録
・参加者 関東ガス 平尾副所長、八木沢様
関東SS 中町、山盛
1、クライアントの要望について
・特に考えていることはなく、昨年同様の避難訓練で考えている。
・昨今の自然災害の被害を考え、新しいことを取り入れてもよい。
2、防災訓練の見直し
・避難訓練だけでなく、消火器や消火栓を使用した消火訓練。
訓練キットを使用した救命訓練。
その他、希望があればそれに準じた訓練の実施し、
防災力の向上を図る。
・年2回の避難訓練時に実施するが、
必要であればそれ以外にも個別の訓練を実施できる。
3、想定を分けての訓練の提案
・地震、火災、急病人発生など、想定別の訓練を実施する。
・具体的な行動を学ぶことで、緊急時の生存率を上げる。
4、その他
・訓練日時は6月中旬以降を予定。
・訓練内容に関しては、
浜崎所長や関東ガス側で精査し、
取り組み内容を決定していく。
・来週、第2回の打ち合わせを実施予定。(日時未定)
以上