5月24日 水曜日 厳しい現実
先日の接触事故を受け、今日は運送会社の方がお見えになる予定です。昨日の雨は夜中のうちに収まったようで、今日が大雨じゃなくてよかったです。
午後になると、正門外のインターホンが鳴りました。モニタを見ると、二人の男性が待っています。予定通りタクシーでお見えになったようで、車はすでに帰った後のようでした。
「警備室の山森です。」
『小森様に面会のお願いをしております。西郷運送の西郷と申します。』
「今、正門を開けますのでお入りください。」
正門の開閉ボタンを押すと、二人の男性が敷地内に入ってきました。初老の男性と、もう一人は40歳くらいでしょうか、眼鏡をかけた細身の男性です。それはいいとして、驚いたのは社長さんと思われる初老の男性です。シルバーの髪を後ろに結わえ、その長さは背中の中ほどまであるくらいでした。一本の三つ編みに結わえたその姿は、某筋肉漫画の中国の超人を思い出させます。
「西郷運送の西郷と中岡です。」
「いらっしゃいませ。うかがっておりますので、ただいま小森をお呼びします。少々お待ちください。」
小森様へ来訪の連絡を入れると、すぐにお迎えに来てくださいました。そのまま建物の中へ入っていかれましたが、しかし、見事な髪でしたね。ただ、スーツとのアンバランスが、何とも言えませんでした。間違っても口にはできませんが。。。
1時間ほどして、小森様と平尾副所長が一緒に出てこられました。表情を見る限り、問題なく話し合いは終わったようですね。
「お疲れさまでした。入館証をお預かりいたします。」
二人から入館証を受け取り、私は引き出しにしまった。
「警備さん。」
「は、はい。」
突然声をかけられ、少し上ずった声で返事をしてしまいました。
「先日の事故の際、警備さんが事故の拡大防止のために、エンジンを止めさせたり、動揺する杉田を車から降ろしてくださったと聞きました。適切で迅速な対応に感謝します。」
そう言って西郷社長は頭を下げられました。
「い、いえ。警備の仕事をしたまでですので。」
「いや。事故の際に冷静な対応をすることはなかなか難しい。あなたのおかげで被害を最小限にできたと考えています。本当にありがとうございます。」
「い、いや。恐縮です。」
私もつられて頭を下げました。
「杉田はほかでも事故を繰り返しておりましたので、今回のことで引退を決意させました。今後こちらに伺うときは、きちんとしたドライバーを手配しますので、今後もよろしくお願いいたします。」
西郷社長はそう言うと、平尾さんたちにも頭を下げておかえりになりました。引退を決意させた。と言えば聞こえはいいのですが、あの運転手さんは、おそらく仕事を失うことになったのだと感じました。もちろん推測であって、真実はわかりませんが。。。
車を運転するということは、絶対に事故を起こしてはいけないという信念が必要になります。私の仕事も失敗は許されない仕事です。警備が失敗するということは、重大な事件や事故につながりかねません。それは即ち、人命に直結しかねないということです。しかし、運転手の杉田さんにとっては、厳しい処分となってしまったようです。今回の件を受けて、私も身を引き締めなければいけないなと強く思った次第です。
警備日誌 05月24日 水曜日 曇り
13:55 西郷運送株式会社の西郷社長と中岡氏が入構。
15:18 打ち合わせを終了し、二人が退出される。
メーカー点検、部品交換などの発生した費用は西郷運送が保証するとのこと。
ほか、異常なし。