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5月19日 金曜日 接触事故

 金曜日は総務様宛に次週用の備品が納品されたりします。備品というのは主にコピー用紙などの事務用品ですが、トイレットペーパーや洗剤などの清掃用品も納品されます。八王子管理センターにも、毎日9時から13時頃まで、清掃会社から清掃員が派遣されてきています。当施設に来られているのは、時田茂雄ときたしげおさんと、橋本美登里はしもとみどりさんのお二人です。お二人とも70歳を超えていますが、毎日元気いっぱいにお仕事されています。


「警備さん。」


 昼休み後に時田さんが警備室にいらっしゃいました。


「この後、備品納品で配送会社が来るんですが、初めてのドライバーさんらしいので案内をお願いしてもいいでしょうか?」

「はい。わかりました。」


 連絡を受けて、正門から公道が見渡せるように設置されている監視カメラを見ていると、それらしい4tトラックが接近してきました。ウインカーが出たのを確認して、正門を開けるスイッチを押しました。正門は社員様が出社された後は、防犯のために閉めていますが、来訪者や納品業者が来たときはここで開閉をすることになっています。


 それは一瞬のことでした。警備室にも聞こえてくるくらいの音がしたかと思うと、トラックは車体側面に正門を巻き込みながら入場してきました。私はあわてて正門の開閉を停止させると、警備室を飛び出してトラックへ駆け寄りました。そこでは、茫然とハンドルを握る年配の運転手が降りることもなく座っていました。


「運転手さん。とりあえず、危ないんでエンジン切ってください!」


 声をかけましたが、前を向いたまま茫然としているので、私は注意しながら運転席のドアを叩きました。その音で、ようやくこちらに気が付かれたようです。


「危ないのでエンジンを切ってください。」


 もう一度言うと、ようやく言われた内容が頭に入ったのか、運転手さんはエンジンを切ってくれた。


「ちょっと降りてお待ちくださいね。」


 そういうと、接触した右側面を確認しました。だいぶ派手に巻き込んだようで、鉄製の重い門がレールから外れてしまっていました。トラックの接触部分も大きくへこんで、そこにずれた正門本体が食い込んでいました。


 運転手がトラックから降りてきたのを確認すると、私は警備室に戻って平尾副所長に内線を入れました。


「警備室の山盛です。」

『お疲れ様です。平尾です。』

「つい今しがた、納品に来た4tトラックが正門に接触事故を起こしまして、現在、正門が車体に食い込んで開閉不可になっています。けが人はありません。」


 かいつまんで報告をすると、平尾さんは驚いた口調で、


『わかりました。小森と一緒にすぐに行きます。』


 そういうと内線を切られました。正門が空き始めて、半分も開けば10tトラックでも余裕に入ることができますが、今回はほんの2.3メートル分開いた状態で強引に入ろうとしたみたいです。


 現場に戻ると、運転手さんが接触した部分を見ながら落ち込んだように手を当てていました。私は軽く車体の下部などを確認し、ガソリンなどの油が流出していないことをチェックしました。滅多にありませんが、ガソリンなどが流出すると、何かの拍子に引火、爆発することもありえます。


 確認が済んだ頃に、平尾副所長と設備担当の小森さんがお越しになりました。小森さんは接触部をチェックしています。


 その後、物損事故ということで警察へ連絡し、現場検証が行われました。警察が到着するまでの間に少し時間がありますので、その間に納品物を下してもらい、時田さんと八木沢さんに引き取りをお願いしました。これが終わらないと時田さんも帰れませんからね。


 警察が到着し現場検証していただいた後、トラックを後進させて正門から外しました。幸い、動かせばすぐに外れたので良かったのですが、正門はレールから外れてしまっています。どうしたものかと思っていたら、


「押してみますか。」


 と、小森さんがおっしゃるので、平尾副所長と三人で正門を押し、とりあえずレールに戻してみました。結構力技でしたね。


「山盛さん。ちょっと、開閉していただけますか?」

「わかりました。」


 私は警備室に戻り、正門を動かしてみました。少しこすれるような音はしましたが、とりあえず開閉はできそうな感じでした。


「週明け、業者を手配しますので、入構の時は対応をお願いします。」


 そう言って、とりあえずは様子を見るということになりました。警察の方の話では、配達の時間に追われていて焦ってしまっていたのと、車幅感覚を見誤ったことが事故の原因ということになりました。修理に関しての相談は、後日運送会社と東都ガス様でやり取りするそうです。



 報告書 運送会社車両の正門への接触事故

 13:20 配達のため、ファイナルエクスプレスの車両(4t)、運転手・杉田氏が来訪。

 13:21 警備・山盛が正門を開ける。

     正門稼働中に車両が入構を試み、車体右後方側面を正門に引っ掛ける。

     けが人はいないが、正門本体がレールからの脱線。

 13:22 山盛、運転手の杉田氏にエンジン停止を依頼。

 13:24 関東ガス・平尾副所長に第一報を報告。

 13:25 車両周辺に危険がないことを確認。

 13:27 平尾副所長、設備担当・小森様が現場到着。

 13:28 山盛が物損事故発生を警察へ通報。

 13:42 八王子西警察署・高田巡査部長と西村巡査が到着。

 13:43 実況見分開始。

 13:57 実況見分を終了。

 14:00 高田巡査部長と西村巡査が退出される。

 14:03 小森様の指示で車両を後進させ、正門から放す。

 14:05 平尾副所長、小森様、山盛でずれた正門本体をレールに戻す。

 14:08 山盛、正門の開閉テストを実施。稼働に支障なし。

 14:11 杉田氏、退出する。

 14:13 小森様から、様子を見るように指示を受ける。


 事故原因

 ・杉田氏が配達時間に追われ焦っていたことと、

  車幅感覚を見誤ったことが原因と考えられる。


 今後の対応

 ・正門の稼働に支障はないが、来週、メーカー点検予定。


 その他

 ・この事故によるけが人の発生はなし。



 いやはや、私も普段車の運転はしないので、何とも言えないのですが、運送業者様の時間への締め付けがあらわになってしまったような気がします。しかし、けが人が出なくて本当によかったです。


 小森様からご連絡が入り、来週は正門のメーカー点検と、運送会社の方が謝罪にお見えになるとのことで、忙しくなりそうでした。小森様は、もろもろの報告書を本社に上げるために残業をするとのことで、私も今夜は残業対応です。





警備日誌 05月19日 金曜日 晴れ


 13:20 配送業者・ファイナルエクスプレスの車両が正門へ接触する事故が発生。


 この事故による被害やけが人の発生はなし。


 設備担当・小森様より、来週は正門の点検と配送会社の来訪があるとのこと。


 その手続きや報告書作成で小森様が残業のため、


 本日は20:30まで残業を実施。


 その他、異常なし。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大使館のある坂道で一人で誘導してたとき10tダンプが電柱にフロントがめりこんで、クラッチ少ししか繋がらなくなったんだけど、平地ならいいものの坂道だからバックするの苦労して道ふさいでた。結局3…
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