表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/366

5月11日 木曜日 部長来訪

 ふぁ~ぁ! ああ、眠いです。


「ナ~。」

「はいはい。ちょっと待ってなよ。」


 私は眠たい目をこすりながら湯を沸かすと、浜崎所長に教えてもらったように猫用のミルクを作り、哺乳瓶に入れて与えました。時計を見ると午前6時半、そろそろ起きるか。


 できれば4.5時間ごとにミルクを与えてほしいということで、浜崎所長と本社の許可を得て、昨夜は警備室に泊まりました。ここに宿泊したのは初めてですね。相変わらずいい飲みっぷりで、あっという間に平らげると、再びタオルにくるまって眠ってしまったようです。


「いい気なもんだな。」


 苦笑いをしながら後片付けをし、今日の食事の買い出しにでも行こうかと思っていたら、


「おはようございます!」


 と、外から声が聞こえました。受付を見ると、新垣さんがにっこり笑って立っていました。


「お、おはようございます。ちょ、ちょっと待ってくださいね!」


 急な宿泊に、用意していたジャージ姿だった私は、慌てて制服に着替えると、新垣さんを迎え入れました。


「失礼しました。」

「そのままでよかったのに。すみません、猫ちゃんの面倒押し付けてしまって。」


 申し訳なさそうに新垣さんは頭を下げた。


「いえいえ。私も猫は好きですし、ほっとけないですから。」

「山盛さんって本当にやさしいですよね。はいこれ、差し入れです。」


 そう言って袋を差し出してきてくれた。


「急なお願いをしてしまったので、食事どうしたか気になってて。食べてください。」


 中にはおにぎりやサンドイッチがたくさん入っていた。聞けば、今日の朝ごはんとお昼ご飯用らしい。お金を出そうとしたが、新垣さんはかたくなに断ってきた。まいったなぁ。


「ホント、気にしないでください。これくらいしかできないのがかえって申し訳ないです。」


 ほんとにいい娘さんですよね。感動で涙が出そうです。新垣さんは子猫の入った段ボールの中を覗き込み、寝ている子猫をニコニコと眺めていた。


 けっきょく、そのまま始業時間まで猫を見ながら雑談し、新垣さんは名残惜しそうにお仕事に向かいました。


 午後になると、予定通り本社警備防災部の小寺慎太郎こでらしんたろう部長と、荒井さんが一緒に来訪されました。


「お疲れ様です。」

「おぅ、お疲れさん。元気にやっとるかね?」

「はい。」


 小寺部長は関西出身で、私より3つ下の52歳とうかがっています。気さくすぎるのが玉に傷というか、めんどくさいというか。。。


 入構手続きを終え、警備室に入ってくると、警備室内やモニターの状況、防災盤、仮眠室やシャワーブースなど、一通り確認した後、


「なんや。猫を飼っとるんか?」


 と、段ボールの中を覗き見ました。


「シャーっ!」


 うん。子猫も人の良し悪しはわかるようですね。


「なんや、やるんかお前。」


 小寺部長はそう言って子猫を見下ろした。


「シャーっ! フゥーっ! フゥーッ!」


 子猫は段ボールの中で威嚇しながら動き回っている。


「部長、あんまり刺激しないでください。クライアント様からお預かりしている猫ですので。」


 私は簡単に事の顛末を報告した。あんまり刺激して、子猫の体調に影響が出たら大変です。幸いそのあと、すぐに八木沢様が来られたので、建物の会議室へ出ていかれました。


「ナ~。」


 甘えた声で鳴き始めた子猫の頭をなでながら、


「お前も人を見るんだねぇ。」


 と、話しかけました。小寺部長は優秀な方だとは思っているのですが、一方的というか、考えが足りないというか、現場に無理難題を吹っかけては放置する癖があるので、苦手に思っている人は多いみたいです。中町隊長なんかはよくケンカしているというのを聞いています。


 あいさつの後、小寺部長は敷地内をざっと見て帰って行かれました。何事もなくてよかったです。






警備日誌 05月11日 木曜日 晴れ


 13:21 小寺警備防災部長があいさつと現場査察に来訪。


 八木沢様にご対応をいただく。


 ほか、異常なし。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ