5月6日 土曜日 高尾山と禁断の・・・
午前08時、高尾山口駅前。中町さんからのお誘いで、私は朝から京王線を乗り継ぎ、高尾山へやってまいりました。今日は天気も良く、絶好の登山日和です。最近の中町さんは、ダイエットと気分転換に山登りをされるそうです。ゆくゆくは富士山に登りたいのだとか。近場なんで高尾山にはトレーニングがてらに来るみたいですね。
「亮さん!」
高尾山口脇の駐車場から中町さんが歩み寄ってきてくれました。
「おはようございます。」
「すみませんね。お休みにつき合わせちゃって。」
「いえいえ。身体動かすのは好きなんで。」
「さっそく行きましょうか。」
中町さんに案内されて、私たちは高尾山口駅の脇を通り抜け、お土産屋さんを通過すると、見えてきたのはケーブルカーとリフトの乗り場です。こちらを利用すると、中腹の展望台付近まで一気に行くことができます。
「亮さん。」
「はい?」
「まさか、ケーブルカーに乗ろうなんて考えてませんよね?」
あ、だめですかやっぱり。
「・・・てへ。」
「てへ。じゃない! 歩きますよ。」
そう言って、中町さんはケーブルカー乗り場を過ぎ、舗装路を登っていきます。しばらくすると、『六号路入口』という看板が見えてきました。その先は、しっかりと山道です。もちろん舗装もありません。
「ここ、行くんですか?」
「知ってる限り、一番ハードコースです。」
にっこり笑った中町さんに促され、私は山道への第一歩を踏み出しました。いや、けっこう普通に山道ですね。10分も歩くと、もう息が切れてきました。
「亮さん。私より鍛えているはずなのにもうバテましたか?」
「はは。」
中町さんは典型的なメタボ体系ですが、慣れているからか息一つ切らしていません。むむ。これは負けていられませんね。
六号路は山道を登り、全長3.3キロの登山コースだそうです。疲れはするんですが、時折聞こえてくる野鳥の鳴き声や、風にそよぐ森の木々たちのざわめきが、普段は人工物に囲まれて生きる私の心身を浄化してくれているようです。
「おはようございます。」
「あ、おはようございます。」
途中、山頂方面から降りてきた若いお兄さんに声をかけてもらいました。こういった山中での見知らぬ人とのコミュニケーションって、山登りの醍醐味ですよね。
「まだ先は長いですよ。頑張って!」
そうにっこり笑うと、お兄さんは速足で降っていきました。この時間に降りなので、朝早くから登っていたんでしょうね。中町さんの話では、ジョギングのように高尾山に登ってトレーニングする人もいるとか。
途中、何度か小休止を入れながら歩いていくと、小さな川に差し掛かりました。川と言っても、その上を歩けるくらいの浅くて小さな川です。
「この川が下の案内川に流れ込み、浅川を経由して多摩川につながるんですよ。」
そう説明してもらいましたが、もうけっこうバテてしまって、それどころではなかったです。川の中を滑らないように慎重に進むと、再び山の登り道に出ることができました。
「ここまで来たらもうちょっとですよ。頑張りましょう。」
「はい。」
水分補給をしながら、あと少しという言葉を信じて登っていくと、木を組んだ階段が見えてきました。最近新しくした階段だそうです。ああ、これで少し楽に登れるかな。
と、思った私が浅はかでした。山道からの階段はキツイ! これ、本当にきついです。
「中町さん。この階段、どこまで続くんですかぁ??」
「ははは。たったの350段くらいですよ。」
え? さっき、150って文字が書いてあったので、まだ半分も来てないってことか。これはきついぞ。
休み休み登り、ようやく最後の一段を登り切ると、少し開けた場所に出ることができました。膝がガクガクだったので、思わず設置してあるベンチに腰掛けてしまいました。
「はぁ。疲れました。。。」
「そんな亮さんにニュースがあります。いいニュースと悪いニュース、どっちから聞きたいですか?」
「あぁ。じゃあ、悪いほうから。」
そう言って、ペットボトルの麦茶を飲み干しました。ふぅ。
「残念ながら、ここはまだ山頂ではありません。」
「えぇーっ!」
階段を登り切ったことで、ここが山頂だと勝手に思い込んでいました。あぁ、疲れがどっと倍増する。
「・・・で、いいニュースって何ですか?」
絞るように言うと、中町さんは満面の笑顔で答えてくれました。
「山頂まであとちょっとです。」
私が思わず天を仰いで息を吐いたのは言うまでもありません。
「ほれ、行きますよ!」
中町さんに連れられて、私は改めて一歩を踏み出しました。しかし、中町さんのニュースは本当で、すぐにアスファルトの道に来たかと思うと、物の数分で山頂に到着しました。山頂には599メートルと書かれた柱が設置してあります。
「亮さん。記念撮影しようよ!」
中町さんに促されて、柱の両脇に立って記念撮影をしました。ここは見晴らしがすごくよくて、都心や横浜方向が遠くまで見通せました。裸眼でも、都心のビル群や横浜のビル群がわかります。
「いやぁ。空気がきれいだ!」
山としては入門編の低い山なのかもしれませんが、それでも山頂に到達したときの達成感は大きいですね。ここまで苦労した甲斐がありました。
しばらくここで休憩を取り、王道の1号路を降り、途中、薬王院でお参りをして下山しましたが、アスファルトの坂道を降っていくほうが、実は足に負担がかかったりします。中町さんはいろいろなルートで上り下りしているようですね。
高尾山口に戻ってくるころにはもうお昼前になっていました。登りに約90分、降りは60分くらいです。はじめてにしては上々ではないでしょうか。
「さて、お昼になりますから行きましょう。」
中町さんの車に乗り込むと、駐車場を出て八王子市街に移動を開始しました。そして、到着したのは。。。
「身体を動かしたらご褒美の焼き肉!」
連れてこられたのは、八王子市内にある焼き肉の食べ放題専門店。
「中町さん。。。」
「どしたの?」
「痩せるために山登り始めたって、そう言ってませんでしたっけ?」
「言ったよ。だって、ご褒美ないと頑張れないじゃん?」
御年45歳の中町隊長の少年のような微笑みに、観念して消費したカロリー以上のカロリーを摂取するのでした。しかし、久しぶりのお肉は、格別だぁ!!