3月8日 金曜日 下期防災訓練とその後
今日は防災訓練の当日です。八王子市内にある工業大学の生徒さんが3名、職場見学に来訪されています。ここで1日お仕事の体験をされるそうです。私の時代にはそんなことなかったので、すごくいい試みですね。
こちらも川室先任、内川先任、鈴林さんと南郷さん。そして荒井さんが集まってくれています。今日の訓練は前回とは違って火災想定になります。6月の上期防災訓練では地震想定の訓練でしたが、今回は1階の清掃員休憩室から失火し、火災が広まったという想定になります。八王子管理センターにも自衛消防隊というものがあって、消火隊長は谷本副所長が割り当てられています。いらっしゃらない時は小森様ですね。消火隊は社員様もう1名と警備防災、つまり私達になり、3名体制の消火隊になります。
予定通り、16時丁度に川室くんを促し、放送設備のスイッチを入れさせました。
「訓練、訓練。ただいま、1階休憩室より火災が発生しました。オフィスの皆さんは誘導員の指示に従い、西側階段を使用して一時避難場所に避難を開始してください。なお、建物内の階段は使用しないでください。繰り返します。ただいま・・・」
地震発生時と同じく、火災の時も一時避難場所は警備室前の駐車場広場です。上期防災訓練では東側非常階段を使用したので、今回は西側非常階段を使っていただきました。避難経路を通っておく、この経験も、被災時には生存率を上げてくれます。
「あ、、、」
3名ほど、建物の階段を使って中から出てきた社員さんがいらっしゃいますね。火災現場を突破してきたことになります。はい、アウトです。
「すみませーん。館内から出てこられた方は、負傷者役をお願いいたします。」
南郷さんが声をかけて、負傷者札を首からかけて救護場所へ移動させます。救護場所では救護班に割り当てられている藤田さんや新垣さんが応急手当を担当してくれます。もちろん、実際にケガをしたわけではないので何をするわけではないのですが。
川室さんはPCで在館者名簿を出力すると、集まったみなさんに整列していただいて点呼を始めました。
「点呼をします。平尾所長。」
「はい!」
「谷本副所長。」
「はい!。」
参加した15名の点呼を終えると、
「2分58秒です。」
と、タイムキーパーの荒井さんが教えてくれました。みなさん集合したので、私は前に出ると一礼しました。
「みなさん。防災訓練に参加していただきありがとうございました。上期の防災訓練では地震想定でしたので、今回は火災想定ということで訓練を行いました。火災発生、避難開始放送から、みなさんの点呼を終えるまで2分58秒。前回の訓練では3分12秒でしたので、14秒も短くすることができました。特に火災時は、安全にいち早く避難することが重要になります。火も煙も上へ行きますので、上階の人ほど、速く逃げる必要があります。」
だいたいの時間を3分と想定していましたが、今後はもっと短い想定で訓練をしてもいいかもしれませんね。
「ただし。本日は火災想定でしたので、残念ながら建物内の階段を利用した方は炎の中を突破してしまったことになります。と、言う訳で、アクション映画さながらの活躍でしたが、残念ながら負傷者3名になってしまいました。」
みなさんから笑い声が起き、負傷者役の3人はバツが悪そうに苦笑いしていました。
「失敗はいいんです。こうやって覚えていくことで、もしもの時には正しい判断と行動ができるようになっていきます。次回は放送をよく聞き、避難をしていただければ嬉しいです。」
私の説明の間、消火栓訓練の敷材をセッティングしてくれていた荒井さんと鈴林さんが合図を送ってくれます。
「それでは、引き続き消火訓練に入ります。前回は展示を行いましたので、今回は実際の消火隊3名で消火訓練をし、同じように、消火隊長、1番員、2番員に分かれて、皆様にも対応していただきます。」
谷本副所長には資料をお渡ししていましたが、なんせ練習する時間がなかったのでぶっつけ本番になってしまいました。所定の位置に谷本副所長が立ち、右手を挙げて集合をかけます。
「消火隊、集まれ!」
「よし!」
1番員の小森さんと2番員の川室さんが集合します。私は谷本さんの隣でサポートします。セリフはなかなか出てきませんの、隣でお伝えしていくのと、動きの指導ですね。
「気を付け! 出火点は1F休憩室。まずは消火器による消火を実施し、消火できなければ消火栓操作に移行する。消火作業、始め!!」
「よし!」
まずは消火器での消化対応です。一般的な消火器は、加圧式と蓄圧式がありますが、最近では扱いやすい蓄圧式が一般的になっています。みなさん消火器の操作方法はご存知でしょうか、おさらいをしておきましょう。
① まず、ピンを抜く。
② ノズルを持って火点へ向ける。
③ レバーを引いて、消火剤を放射する。
これだけです。あとは、火災現場全体を覆うように消火剤を撒いていきます。今日は訓練用の水消火器なので水しか出ませんが、粉末の消火剤はけっこう勢いよく出て、思いのほか早くなくなります。よく後輩に指導する時にお伝えするのが、
① 火点から3m~5mの距離で。
② 約15秒くらい。
実際はもっと遠くてもいいですしもう少し放射できますが、小さい消火器だとこんなものです。3×5=15(さんごじゅうご)と覚えてもらっています。
消火栓に移行した後も、スムーズに消火作業ができました。火点に設定したカラーコーンが倒れて消火活動完了です。
続いて、工業大学の生徒さんたちに同じように消火隊を体験していただき、順に社員様にも行っていただきました。最後の組になって、私の前に来たのは、
「山盛さん。お願いいたします。」
新垣さんでした。
「は、はい。隊長役、お願いいたします。」
新垣さんの隣に立ち、一緒に隊長の動きやセリフをサポートしていきます。さすが、ここまでのメンバーを見て、セリフとか動きが頭に入っているのですから、本当に優秀な方だと思います。一緒に動きながら、こうやって同じ時間を過ごすことももう僅かなんだと思うと、なんだかとても寂しいようにも思えてきてしまいました。
新垣さん達の訓練が終わり、平尾所長の挨拶を終え、今日の訓練は終了となりました。
「山盛さん。」
「新垣さん。お疲れさまでした。」
「はい。ありがとうございました。」
そこで言葉が続かなくなってしまうのは、私が女性経験が少ないからでしょうか。
「あ、あの。おかげさまで試験はばっちりでした。多分、大丈夫だと思います。」
「ふふ。それは良かったです。」
新垣さんはそう言って、笑顔のまま話してくれました。
「この間のメッセージは気にしないでくださいね。山盛さんがいろんな場所で活躍されるのは、私はすごく嬉しいんです。ただ、もうこうやって毎日会うことができなくなるからと思ったら、すごく寂しくなっちゃって。かまってちゃんですみません。」
「そんな。私こそ、まだはっきりとお返事もせずに、すみませんでした。」
不意に、周囲に人がいなくなります。誰かが気を利かせてくれたのか、自然の流れだったのか、それとも神様がそうしてくれたのかな。
「新垣さん。」
「はい。」
「私は、新垣さんを一人の女性として素敵だし素晴らしい方だと思っています。心から好きだと思っています。」
「はい。」
「でも、私は新垣さんの気持ちに応えることはできません。世の中には、年齢差があってもお付き合いされている方はいると思いますが、私は、先々を考えるとあなたを残せません。どう頑張っても、私は先にいなくなってしまいます。残りの人生を考えると、私の人生に、これから長い人生のあるあなたを巻き込むことはできない。」
このまま、もしも新垣さんとお付き合いして、もし結婚なんかして夫婦になったとしても、彼女と私の年齢差は埋まらない。80歳で私が死んだとしても、彼女はまだ47歳、人生をやり直すには少し遅く、残りの人生を過ごすにはあまりにも長い。この一瞬の幸福のために、彼女に長い苦労をさせたくなかった。
「・・・山盛さんなら、そう言うと思ってました。」
「本当に、ごめんなさい。」
「ううん。謝らないでください。私、こんなに誰かを好きになったのは初めてでした。まさか、こんな年上の方を好きになるとは思っていなかったですけど。でも、子供の戯言としないで、しっかり向き合って下さってありがとうございます。」
少し泣きそうな感じもしましたが、新垣さんは笑顔のままです。
「お付き合いは無理でも、年の離れた友人として、これからも連絡したりしてもいいですか?」
「はい。それはもちろん! 私も、また試験でわからないことがあったら頼っちゃいますから、覚悟しておいてくださいね。」
「ふふ。了解です。」
少し話をして、新垣さんはお帰りになるためにオフィス棟に戻られました。警備室に戻るころには、後片付けもあらかた終わっていたようで、川室さんが中心になって撤収の準備をしていました。
「お疲れ様です! 今日はありがとうございました!!」
元気よく、工業大学の生徒さんがお帰りになります。今日の3人がのうち1人が東都ガス様に入社し、1人が今日の訓練をきっかけに消防士になり、1人が消火設備に興味を持って消火設備のメーカーに就職したのは、また別のお話です。
いろいろあった1日が終わりました。なんだか、すっきりしました。結婚はタイミングと勇気、本当にそうですね。新垣さんが産まれてくるのが遅すぎ、私が産まれたのが早すぎました。なかなか難しいものです。でも、友人が増えたと言うのは、私の人生においては宝物の一つでしょうねぇ。
警備日誌 03月08日 金曜日 晴れ
職場見学会のため、工業大学生徒3名が来訪。
下期防災訓練を実施。
撤収作業のため18:30まで残業。
その他、異常なし。