2月14日 水曜日 バレンタインの衝撃
さてさて、皆様今日はバレンタインデーですね。バレンタインデーの起源には諸説あるそうなんですが、古いものでは古代ローマにまでさかのぼるそうです。
古代ローマ帝国の皇帝クラディウス2世は、家族を故郷に残すと士気が下がるとの理由で、兵士達の結婚を禁止していました。しかし、キリスト教の司祭であったヴァレンティヌスは皇帝に背いて多くの兵士達を結婚させたそうです。
それを知ったクラディウス2世は、改めて結婚禁止を命じ、ヴァレンティヌスに罪を認めローマ国教へ改宗するように迫りました。しかし、ヴァレンティヌスはそれを断り、自分の信念を貫いたために処刑されます。この処刑された日が2月14日だったそうです。そして、人々はヴァレンティヌスの殉教を悼み、この日をバレンタインデーとして行事を行うようになったのが最初だそうです。ということは、巷で恋人たちが気持ちを伝えあったりしている今日は、ヴァレンティヌスの命日でもあるんですね。
その後、キリスト教がヴァレンティヌスを愛の守護神と位置づけ、2月14日を『恋人の日』として取り扱うようになり、世界に広まっていったということだそうです。
また、海外のバレンタインデーの多くは、大切な人に愛や感謝を伝え、贈り物をする日として扱われ、女性が男性へチョコレートを送って告白したりするのは日本特有の文化だそうです。
「お疲れ様です。間もなく都築商事が来ますので、受付お願いします。」
作業服に着替えた小森様が警備室に来られました。
「はぁ。」
都築商事をお待ちしている間、小森様が何度かため息を吐かれます。
「具合でも悪いんですか? 大丈夫ですか?」
「え? ああ、大丈夫ですよ。」
小森様は30歳代半ばくらいの方です。仕事には真面目で誠実な方ですので、ついつい無理をしてしまうのかもしれませんね。
「あまりご無理なさらないでくださいね。作業立ち合いはおっしゃっていただければ私も買われますので。」
「大丈夫ですよ。身体の調子はいいですから、ただ、今日がメーカーの商業戦略に踊らされた哀れな愚民どもの祭典の日かと思うと、ちょっとした怒りがこみあげてくるだけです。あ、都築商事さん、お車こちらにお願いします!」
なんか、とんでもない一文が聞こえてしまったような気がしましたが、業者様がユニック車でお見えになったので、それ以上は聞くことができませんでした。
作業立ち合いは大丈夫とのことで、警備室で自分の仕事をしている合間に、バレンタインデーに付いて再度調べてみました。日本では、昭和30年代後半から40年代にかけて、お菓子会社や百貨店が行った広告やイベントによって、女性から男性へ想いを伝えるためにチョコレートを贈ると言う日本独自の文化が定着していったそうです。
「はは。小森さんの言ってたメーカーの商業戦略にって言うのは、あながち間違いではなさそうですね。」
西エリアの放置木材は、都築商事のお二人によって手際よく積まれて、予定よりも早くに引き上げになりました。
「じゃあ、終わりましたので引き揚げます。」
作業に来た都築さんと深川さんが頭を下げて報告してくださいました。
「こういう廃材はどうするんですか?」
「そうですね。乾燥させて燃料にしたり、細かくしておが粉にして再利用したり色々ですよ。今は環境に関して厳しい時代になりましたから、しっかり再利用させてもらいます。」
「なるほど。」
お車を見送ると、小森さんがため息を吐きながら、
「隊長。俺ってそんなに魅力ないかな。」
と、泣きそうな声でおっしゃいました。
「どうしたんですか?」
「実はね。」
お話を伺うと、この連休にお付き合いされていた方に振られてしまったとのこと。
「別に好きな人ができたんだってさ。そいつが美容師やってるメチャクチャイケメンでさ。世の中、金がすべてとかいう女が多いっていうけど、しょせん顔なんだよ顔! はぁ。」
だいぶ病んでますね。。。
「まぁまぁ。顔だけで異性を選ぶなんて大した人じゃなかったんですよ。結婚とかの前にわかってよかったと思いましょう。」
小森様は東都ガス一筋のはずですから、同年代よりも収入はいいはずです。仕事上でのお付き合いだけですが、仕事には真面目で、誠実な方とお見受けしております。きっと、これから良縁があると願っています。
肩を落としながらオフィス棟に引き上げる小森様の背中にエールを送るのでした。ルッキズムはいけないと言っても、どうしても女性はイケメンに目が行くでしょうし、男性も美人には目が行ってしまいます。ですが、小森様だって見た目はとっても素敵な好青年です。乗り換えた美容師さんってどんだけイケメンだったんでしょうねぇ。
そう言うことで、私にはバレンタインデーは縁のないものですから、いつも通りの平和な日常を過ごすのでした。。。と、思っていたのですが。
退勤時間になり、そろそろ占め作業に入ろうかと準備をしていると、
「山~盛~さんっ!」
帰り際に、新垣さんが警備室に寄ってくださいました。
「あ、お疲れ様です。」
「お疲れ様です。あの、山盛さん。」
なんだかモジモジしながら新垣さんが困ったような顔をしています。なんだろう、トイレでも行きたいのでしょうか。そんなことを考えていると、新垣さんはバックから包を取り出して、
「あの、これ。バレンタインのチョコです。受け取ってください!」
そう言って、ピンクの包装紙に包まれたお菓子を差し出してきました。
「ええっ! わたしにですか?」
いやぁ。身内以外の異性からバレンタインにチョコレートをいただくなんて何十年ぶりでしょうか。こんなおじさんに義理でも嬉しいものです。
「あ、ありがとうございます。すごく嬉しいです。ありがたく頂戴しますね。」
「・・・ですから。」
「え?」
新垣さんが何か言いかけたので聞き返すと、
「義理じゃないですから。これは本命チョコです!」
そう言うと、新垣さんは恥ずかしそうに足早にお帰りになりました。受け取った包を片手に呆然としていると、
「リア充め、爆発しろぉ。」
と言いながら小森さんがお帰りになりました。本命って、本命ってことですよね。新垣さんが? ええーっ!!
警備日誌 02月14日 水曜日 晴れ
都築商事2名がユニック車で来訪。
西側非常階段下の廃材の撤去を行う。
その他、異常なし。。。