表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
307/366

2月1日 木曜日 通夜

 代勤で来てくれた丸木くんに仕事の引継ぎをして、今日は昼過ぎには一度退勤しました。一回自宅に戻り、身なりを整えて葬儀式場へ向かいます。会場のある町田市は、八王子駅からJRで30分ほどの場所です。駅のロータリーには、中町さんが車を停車し、小寺部長と一緒に待っていました。


「お疲れ様です。」


 車に乗り込み、葬儀会場へ向かいます。ここから会場までは10分もかかりませんが、3人とも会話もなく無言でした。そのためか、到着までやけに長い時間に感じます。窓の外の景色が流れていくのを眺めながら、言いようのない焦燥感というか、重苦しいものが心にのしかかっているような気がします。


「着きました。」


 会場の駐車場に車を停め、私は車を降りると一度大きく深呼吸をしました。



『故 浜崎幹也 儀 葬儀式場』



 そう書かれた看板を見ると、もう、信じられないとか言っているレベルではないですよね。受け入れるしかないのですが、受け入れられません。


 式場内に入ると、新垣さんと藤田さんが受付をされていらっしゃいました。


「新垣さん。藤田さん。この度は、急なことで。」

「山盛さん。お越しいただきありがとうございます。こちらに記帳をお願いします。」


 泣きはらしたのだろう、目元が赤い。私は香典をお渡しし、記帳表に記名しました。小寺部長と中町さんも続いて記帳を済ませました。


 平尾所長や谷本副所長など、八王子管理センターの方々だけでなく、東都ガス官益者様と思われる方がたくさんいらして会場内はざわついていましたが、実に多くの方がお見えになっているようですね。それだけ浜崎様の人柄、人脈、功績が大きいということなのでしょう。


「あの。山盛さん、ですか?」


 声をかけられて振り返ると、そこには疲れを見せないようにと凛とたたずむ初老の女性と、背の高い青年が立っていました。


「はい。山盛はわたしですが。」


 そう言うと、2人は深々と頭を下げてくださいました。


「父がお世話になっておりました。息子の謙太郎です。」


 お聞きすると、浜崎様のご子息と奥様だそうです。お悔やみを申し上げ、少し話をさせていただきました。


「ご出勤最後の日が防災訓練の日だったのですが、まさかこんなに早くこんなことになるなんて夢にも思わなくて、本当に何と申していいか。」

「実は父が在職中、特に今まで警備の方を気にしたことはなかったそうなのですが、山盛様が赴任されてからは、現場のことをよく考えて提案や改善をしてくださったり、何より、毎出退勤時には必ず全員に元気にご挨拶をしてくださったとのことで、気持ちよく仕事ができているとうかがっていました。」

「そうですか。浜崎様がそのようなことを。」


 生前の浜崎様のことをお話ししました。奥様もご子息様も、おつらいでしょうに来訪者の対応を丁寧にされていらっしゃいます。


「謙太郎君!」


 親戚でしょうか、呼ばれて謙太郎さんは振り返りました。


「すぐ行きます! すみません。これで失礼いたします。どうぞ、父の顔を見てやってください。」


 謙太郎さん達を見送り、私は棺の前に進みました。何人もの方がお顔をのぞいては、手を合わせてその場を離れます。久しぶりにお会いした浜崎様は、なんとも安らいだお顔で、ただそこで寝ていらっしゃるかのような、今にも起きてきそうな、本当に穏やかなお顔でいらっしゃいました。


「あ、あれ?」


 手を合わせようとした時、なんだか視界がぼやけて可笑しいなと思ったら、頬を伝うものを感じました。私は構わず手を合わせ、心からご冥福を祈りました。


 通夜が始まり、焼香を終えると、御親類様の邪魔になってはいけませんので、そのまま引き上げることにしました。途中で軽く食事を取り、自宅近くまで送っていただき、家の中に戻った時にはドッと疲れが出てしまいました。明日は会議ですから早く休まなければいけないのですが、なかなか寝付けそうにないですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ