1月22日 月曜日 かわいい訪問者
受付から見える中央広場に、暖かな日差しが降り注いでいます。
「ふぁ。」
外周巡回を終えた午後の一息付ける時間、意外とこの14時くらいから17時くらいまでが長いんですよね。こういう時間を資料造りや試験勉強に充てているのですが、今日はなんだかのんびりしたい気分です。気温も15℃とこの時期にしてはだいぶ暖かいですね。呆けていると眠くなってしまいます。
何もしないでいるのも良くないと思い、つかの間のボケボケタイムを終えて、試験勉強でもしようかと教本を開いた時でした。正門横にあるインターホンが鳴らされました。
「はい。東都ガス八王子管理センター警備室です。」
インターホンに話しかけると、少し間があってから、
『あみです!』
と、女の子の元気な声が声が聞こえました。あみちゃん? ああ、ぬいぐるみの子かな。
「はい。警備の山盛です。」
『えーとね。あみのうさぎありがとぉ。』
ふふ、どうやらお礼を言いに来てくれたみたいですね。
「ちょっと待ってくださいね。」
私は制帽をかぶると、警備室を出て正門へ向かいました。正門には、自転車を停めて、お母さんと思しき若い女性と、小さな女の子が待っていてくれました。女の子は胸にウサギのぬいぐるみを抱きしめていました。
「こんにちは。」
「こんにちは!」
女の子が元気よく挨拶を返してくれて、お母さんは深々とお辞儀をしてくださいました。
「先日ぬいぐるみを拾っていただいた加藤です。この度は本当にありがとうございました。」
事情をうかがうと、保育園のお迎えに行った時に亜美ちゃんは眠かったみたいで、自転車の後ろの椅子に座らせていたところ、保育園を出る前にはもう寝てしまっていたみたいで、うっかりぬいぐるみを落としてしまったとのことでした。それを私が見つけたようですね。
「先生に伺いましたら、亡くなったおばあちゃんが作ってくれた手作りだったそうですね。」
「そうなんです。ですから、あの日、目が覚めてからギャン泣きで。翌日保育園に行ったら先生から渡されて、亜美もすごく喜んでいました、なんでも、洗濯までしていただいたそうで。本当にありがとうございました。」
「いえいえ。少し汚れてしまっていたので、お子様の物でしょうし、簡単にですが洗濯させていただきました。」
亡きおばあさまがかわいい孫のために丹精込めて作ったぬいぐるみ。きっと、この亜美ちゃんにとって大事な思い出の品となっていくことでしょう。
私はしゃがんで亜美ちゃんに目線を合わせると、
「もう落とさないように、大事にしてくださいね。」
そう伝えました。
「うん!」
亜美ちゃんはとびっきりの笑顔で頷いてくれました。お母さんに挨拶をしてお帰りになられましたが、亜美ちゃんはずっと後ろを向き、見えなくなるまで手を振ってくれました。小さな子が笑顔でいる。何よりも大事なことですよね。本当に良かったです。
警備日誌 01月22日 月曜日 晴れ
外周巡回実施、異常なし。
先日のぬいぐるみの落とし物の件で、
持ち主の加藤亜美ちゃんとお母様が来訪する。
その他、警備業務に異常なし。