12月16日 土曜日 物流倉庫の警備現場
さて、土曜日だと言うのに私はJR線を乗り継いで川越駅へと到着しております。
「山盛隊長!」
声をかけてくれたのは丸木くんです。周りの人が何事かと振り返ります。
「丸木くん。街中で隊長は周りの人がびっくりしちゃうから、ね?」
「あ、すんません。」
自衛隊や消防関係者、あるいは警備経験者の方は経験あるかもしれませんが、役職が『隊長』って、普通の会社じゃないですから、街中でうっかり声に出すと振り返る人がいます。(作者の実体験です。)
弊社では取り決まりはないですが、ある警備会社では、社内の呼び方と社外での呼び方を分けている会社もあるそうですね。隊長だったら課長、副隊長だったら係長とか。面白い話があって、中町さんのお子様が小学校の頃のことです。授業参観に行った時、お父さんが警備隊長だって言うのを聞いたお友達が、
「隊長って普通の会社だとどれくらいの役職なの?」
と聞いてきたことがあったそうです。その頃はまだ会社の規模も大きくなく、中町隊長のすぐ上の上司が当時の小寺課長だったので、
「おじさんの上司が課長だから、係長くらいじゃない?」
と答えたことがあったそうです。確かに、隊長って普通の会社じゃあどうなんだろうと言うと、なかなかムスカシイですよね。弊社では、中町さんみたいないくつかの現場を管理している統括隊長は課長代理待遇、私のように人現場の隊長は係長待遇です。それが決まったのも2.3年前なんですけどね。
「なんだ。隊長って、大したことないんだね。」
と、そのお友達が行ったことに苦笑いしたと言うのは笑い話です。
「お迎えさせちゃって申し訳なかったね。」
「いえ。私は午後出勤ですから。」
丸木くんの車で川越市外にある大手物流会社の大型倉庫に向かいます。私もここに来るのは初めてです。5階建て1棟丸々が中町さんの指揮する物流倉庫の施設警備現場になります。24時間稼働のここは30名の警備員が在籍していて、中町さんはここのほかに、隣の川島町にある20名の施設現場を預かっています。兼任当時、先ほどの話があって、
「50人の部下のいる係長ってのもおかしい話だよな。」
っておっしゃっていたのを思い出します。確かにですね。
「お疲れ様です。」
敷地に入ると、外受付の警備員が車を確認して誘導してくれます。
「第一ゲートから警備室。丸木さんと山盛隊長がお見えになりました。」
そんな無線のやり取りが聞こえました。きちんとしているのはさすが中町さんの人事教育の賜物でしょう。それに、山盛隊長と言われると、なんだか申し訳なくて緊張してしまいます。
車を降りて警備室へ、今日は小寺部長の許可を取って、他現場の視察という名目でお邪魔していますが、実は他にも理由があります。
「山盛隊長、お疲れ様です。」
川室先任が敬礼してお迎えしてくれました。建物に入ってすぐに警備室があり、ここでの受付を済ませないと建物の中には入ることができません。八王子管理センターとは違う厳重さですね。警備室に入ると、中町さんと副隊長の田内勝之さんと川邉明秀さんが打ち合わせをしておりました。川越警備隊は中町統括隊長筆頭に、3人の副隊長が現場を回しています。もう一人はお休みのようですね。
「お疲れ様です。準備したら倉庫内を案内しますよ。」
打ち合わせを終え、中町さんが倉庫内の各部署を案内して、各配置を説明してくださいました。大きな警備業務の一つが、搬出入の車両捌きですね。倉庫内のクライアント様と調整しながら、到着したトラックをどこに着けるか決めて誘導します。構内は原則一方通行で、万が一にも事故が起きないように警備員を配置し、車両と人の動きを監視します。
それ以外にも、倉庫内の商品が盗難に遭わないように、手荷物検査や倉庫内の巡回、来訪者の対応など、多岐にわたる業務を行っています。
「みなさん優秀ですね。それぞれがきちんと的確に動いていらっしゃる。」
私も元々は物流倉庫警備出身ですので、ここの皆さんがいい動きをしているのはわかります。
「ありがとうございます。さて、一通り回りましたから、休憩室に行きましょう。」
この倉庫には5階に休憩エリアがあります。日中はここの食堂で停職が安く食べられますし、営業時間外でも解放され、自販機などで購入した飲み物やお菓子で休憩することができます。窓からは川越の街並みが一望できるようになっているので、従業員様にも好評のようですね。クライアント様のお考えで、関係者は皆様使用することができるそうです。
「それで、相談ってどうしたんですか?」
「すみません。実は。。。」
そうなんです。昨日新垣さんに相談されたことを話しに来たのでした。お休みが合えばよかったんですが、近々出の休みが合わなかったので、現場見学を兼ねてここまで来たということです。
「なるほど。今のところは実害が出ていないので、警察は動かないでしょうし、そこまで心配しなくてもよさそうですが、本人にしてみたら気が気じゃないですよね。」
「そうなんですよ。ただ、ほっとくわけにもいかなくて。」
「はは。亮さんらしいですね。」
中町さんは状況を聞いて、携帯電話を取り出すとどこかへ電話をかけ始めました。
「おつかれ。今大丈夫? 実はさ、ちょっと相談があってな。」
しばらく話をすると、電話を切り、
「餅は餅屋に任せましょう。知り合いに探偵をしているのがいるから、手が空いたら亮さんに連絡させますよ。」
そう言ってくださいました。探偵の知り合いがいるなんて、すごい。明日にでも連絡をいただけるとお約束いただいたそうです。何とか新垣さんが安心できるようにしてあげたいですね。