10月6日 金曜日 10月隊長会議
私にとっては2回目の隊長会議です。会議室に入り自分の席に落ち着くと、
「山盛隊長。動画見ましたよ!」
「的確ないい動きでしたね。」
「うちも隊員に教育資料として見せました。」
と、今までかかわりもなく言葉を交わしたこともない隊長たちが声をかけてきてくださいます。
「あ、いやどうも。恐縮です。必死でした。」
警備という仕事は地味なものです。世間一般的には、誰でもできるとか、長時間労働の割に給料が安いとか、定年後に高齢者がやる仕事だとか、いろいろネガティヴなイメージを持たれがちです。ここに集まったみなさんも、少なからずそう言う思いがあるのではないでしょうか。
「定刻ですので始めますよ~。」
司会の中町隊長がマイクで声をかけます。今日は朝から小寺部長もいらっしゃるようですね。社長もいらっしゃっています。そう言えば弊社の社長は初めてでしたね。山本五十八社長は御年71歳。元海上自衛隊の二等海佐まで勤めた方です。今は退役しましたがかつて海上自衛隊護衛艦隊旗艦を務めた護衛艦しらねの艦長を務められ、退役後に弊社を立ち上げました。五十八という名前は、元日本帝国海軍にお勤めだったおじいさまが、日本帝国海軍を率いた名将・山本五十六さんの後を継ぐ者として、五十八としたそうです。ただ、山本姓が同じだけで、親戚でも何でもないと聞いた時には笑いましたが。
「それでは最初に、9月21日に東都ガス八王子管理センターまで発生した交通事故に際し、東都ガス社員様と協力して救助活動に当たった八王子管理センター警備派遣隊長、山盛隊長の表彰です。山盛隊長前にお願いします。」
「はい!」
緊張しながら前に出ると、みなさんから温かい拍手を送られました。今日は社長もニコニコです。
「八王子管理センター警備派遣隊長、山盛亮殿。社長賞。貴殿は、9月21日に発生した交通事故に際し、自らの危険も顧みず、被災者の救助と安全の確保に尽力し、警備業界全体の貢献に寄与しました。ここにその栄誉を称え、これを表します。令和5年10月5日、関東セキュリティサービス株式会社代表取締役社長、山本五十八。おめでとう!」
「ありがとうございます。」
私は社長から賞状を受け取りました。なんと、副賞として金一封もいただいてしまいました。これは飲み会には使えないお金ですね。
「ありがとうございました。なお、山盛隊長は八王子警察署と八王子北消防署より、感謝状を贈られることが内定しております。それでは山盛隊長、一言お願いいたします。」
突然の言葉に、何も考えていなかったので困ってしまいました。マイクを渡されて改めて会議室内を見渡すと、隊長の皆様がこちらを一斉に見ています。
「八王子管理センターの山盛です。社長賞をいただきとても光栄です。衝突音を聞いて飛び出し、あとは無我夢中で行動していました。とにかく目の前で事故に遭った方を助けなければいけない。その一心でした。幸い、事故に遭われた運転手様は命に別状なくご無事だったのが何よりでした。私が行動できたのは、以前より中町隊長にご指導いただいておりました、あらゆるシミュレートをしておくということです。そのおかげで、自分がその場で何をすべきかわかっていたのだと思います。中町隊長、ありがとうございました。」
私が頭を下げると、中町さんは嬉しそうに微笑んでいました。
「今後も、自分のお預かりしている施設からは絶対に犠牲者を出さないと言う信念のもとに、自己研鑽を続け、業務に取り組んでまいりたいと思います。この度は誠にありがとうございました。」
頭を下げる私に、再びみなさんの拍手を送っていただきました。表彰が終わると、いつものように隊長会議が始まっていきます。
隊長会議報告書(9月)
・出入記録
・常駐者出入人数
・東都ガス 入館 282名 退館 282名
・警備・他 入館 70名 退館 70名
・車両出入台数 入館 8台 退館 8台
・荷物出入個数 入荷 5件 出荷 8件
・先月の主な出来事
9/4 川室和志先任の代勤者研修
9/9 柳生リネンから警備の相談
9/15 荒井恭教の代勤者研修
9/21 正門前の県道で自動車事故
9/22 事故対応がネット配信される
9/29 救命講習実施。浜崎所長勇退。
・今月の主な予定
・10/1 東都ガス新人事体制スタート
・10/10 八王子警察署、八王子北警察署から表彰予定
・その他連絡事項
・特記事項なし
隊長会議後、中町さんに誘われて食事をしました。
「中町さんのおかげで動くことができました。昔の自分だったら、きっとオロオロして何もできなかったと思います。」
「亮さんは優秀な警備員ですよ。」
「あらゆるシミュレート。覚えていただいてたんですね。」
「もう癖になってますよ。暇なときは何が起きてどうすればいいか、今でもシミュレート癖がついています。」
中町さんの教えです。目の前でつまずいて転んだ人への対応から、隕石が落ちてきた時の対応まで、あらゆる事態の想定シミュレーション。今で言えばリスクヘッジとか、いろいろな言い方があると思いますが、大事なことだと身にしみました。
「褒めても腹しか出ませんて。はは!」
笑いながら焼酎のソーダ割を飲む中町さんも、今日はすごく楽しそうでした。私はいい上司、いい仲間に恵まれたと思います。明日からも頑張りますよ!




