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9月19日 火曜日 人事異動の季節です。

 4DXの興奮が残ったまま、週明けを迎えた今日は、秋雨前線(まったく秋らしくなっていないですが)の影響なのか、蒸し暑さの中の雨の日となりました。これでまだ気温が下がってくれればいいんですが、発表されている今日の最高気温は34℃。せめて30℃は下回ってほしいですよね。


 警備室に着くと、まずすることはエアコンを入れることです。もうこの半年ずっとそんな日々が続いています。


「おはようございます。」


 受付の準備が終わったころ、浜崎所長が出社されてきました。


「山盛隊長、急なことで申し訳ないのですが、今日この後、本社人事部から高木というものが来ることになっています。社員証で入稿はできるようになっているのですが、初めてここに来ますので、もしまごつくようなら案内をお願いしてもいいですか?」

「人事の高木様ですね。かしこまりました。」

「よろしくお願いします。


 そういって浜崎所長はオフィスに入っていかれました。東都ガス様人事部の方が来るなんて、


「あ、そうか!」


 来月は10月です。秋の人事異動の季節ですね。定年しそうな方はいないと思いますが、もしかすると、人事異動があるのかもしれませんね。


 それから30分くらいしてから、タクシーが敷地内の駐車場に入ってきました。車からはけっこう大柄な男性が汗を拭きながら降りてきました。


「お疲れ様です。」

「お疲れ様です。本社人事部の高木と申します。すみません、初めて来るので勝手がわからないのですが、まずはどうすればよろしいですか?」


 私は入構用のカードリーダーを案内し、


「こちらに個人IDカードをかざしてください。お帰りの際にはこちらの退勤用リーダーにスキャンをお願いします。」


 と、入構用のカードリーダーをご案内しました。高木様がIDカードをかざされたのを確認したので、


「では、オフィスまでご案内いたします。」


 と、警備室を出てオフィス棟をご案内しました。


「お仕事中にすみません。」

「いえ。これも業務ですのでお気遣いご無用でございます。」

「警備室いないと、誰か来たとき困るのではないですか?」


 高木様がおっしゃったので、私は携帯電話を取り出し、


「警備室不在中は、インターホンが鳴るとこの携帯に転送されてきます。巡回などに出ていてもすぐに対応ができるようにしていただいてますので大丈夫ですよ。」


 そう説明すると、そういうシステムがあるのかと、高木様は随分と感心なさっておりました。


「こちらがオフィスになります。」


 私は入り口でドアをノックすると中に入りました。その時には、所長席にいた浜崎様がこちらに気が付いたようで、すぐに歩み寄ってきて下さいました。


「お疲れ様です。高木様がお見えになりましたのでご案内いたしました。」

「ああ。隊長、ありがとうございました。」


 浜崎さんにその後の対応をお願いし、


「それでは、失礼いたします。」


 と、敬礼をして戻りました。案内一つでも、対応を間違えると評価を落とすことになります。できるだけスマートな対応を心がけていますが、やっぱり緊張しますね。


 警備室に戻ると、昨日が祝日だったため、外周巡回に出ました。雨の日の巡回はそれだけで億劫になるものですが、今日は雨に加えて湿度も気温も高いので、いつもよりも大変です。5mほどですが風も出ていたので、傘ではなくて雨具にしました。暑いです。


 一周して戻ってくるころには汗だくですよ。雨具を脱いで警備室内に入ると、エアコンで冷やされた涼しい空気が包んでくれます。一周頑張ったご褒美ですね。


 事務仕事をしていると、用事を済ませたのか高木様が浜崎所長と一緒に降りてきました。


「隊長。タクシーを呼んだのでもうすぐ来るはずです。ちょっと、ここで待たせていただきますね。」

「かしこまりました。よろしければ、雨が降っていますから中でお待ちください。」


 私はそう言って二人を中に招き入れました。受付前は庇がついているとは言っても、雨は吹き込んできますし、何といっても今日は蒸し暑いです。警備室の中にはモニターなど、機密事項もたくさんありますが、見ず知らずの方ではなく、所長同伴ということで言いにしてもらいましょう。


「いやぁ。中は涼しくて助かる。」

「なかなか涼しくはならないですからね。」


 パイプいすくらいしかないですが、タクシー到着まで座ってお待ちいただきました。幸い、物の数分でタクシーが敷地に入ってきたので、桶付け窓から身を乗り出して駐車場へ誘導します。


「助かりました。ありがとうございました。」


 高木様が深々頭を下げたので、


「い、いえ。お疲れさまでした。気を付けてお帰りください。」


 私は外まで出て、タクシーが動き始めたら敬礼して見送りました。


「隊長、ありがとうございました。」

「いえ。とんでもないです。」

「ちょっと中をお借りしてもいいですか?」

「はい。」


 浜崎署長のご要望があったので、警備室内に入りました。椅子を用意して、麦茶を入れてお出しすると、


「や。ありがとうございます。」


 そう言って浜崎所長は一気に飲み干した。


「実はね。今月いっぱいで退職になりまして。」

「え? どなたがですか?」


 突然の申し出にびっくりしていると。


「あ、私がです。」

「ええっ??」


 さらに驚いてしまいました。


「はは。別に驚かせるつもりはなかったんですが、すみません。おかげさまでめでたく定年となります。」

「ええっ??」


 今度の驚きは、浜崎様が定年退職ということです。ロマンスグレーな方だとは思っていましたが、私と同じくらいかもう少しお若いと思っていました。


「お若く思っていたのでびっくりしてしまいました。」

「はは。ほめても何にも出ませんよ。」

「そうでしたか。」

「後任は平尾が所長に昇格します。副所長として、谷本というのが来ますので、今後もよろしくお願いいたしますね。」

「かしこまりました。」


 まだ内密で。と、言いつつも、今後の人事の話をしていただき、所長はオフィスへお戻りになりました。春と秋は出会いと別れの季節。しかし、定年まで働ける会社というのは、ありがたいものなのかもしれませんね。





警備日誌 09月19日 火曜日 雨


 急遽、東都ガス本社人事部の高木様が来訪される。

 浜崎所長指示でオフィスをご案内する。


 浜崎所長より、10月に人事異動がある旨、

 ご連絡をいただく。


 外周巡回を実施、異常なし。


 他、異常なし。

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