9月9日 土曜日 ビジネスチャンス??
秋の風がさわやかですね。朝夕はだいぶ過ごしやすくなりましたし、日も短くなってきました。まだまだ日中は暑い日が続きますが、秋の気配を感じると身体がうずうずしてしまいます。
「おはようございます!」
「おはようございます。山盛さん、今日はなんだか元気いっぱいですね。」
ジムの受付の福原さんが出迎えてくれます。
「だいぶ過ごしやすい気候になってきましたからね。」
「そうですね。ようやく夏バテの日々から解放されそうです。」
挨拶をしてジムに入ると、よくご一緒する柳生さんがランニングマシーンで汗を流していました。柳生さんは会社経営者ですが、体力維持のために足しげく通っていらっしゃいます。
「おぅ、山盛さん。先週はさぼってましたね?」
開口一番、先週来なかったことを言われてしまいました。
「はは、お恥ずかしい。夏バテしたのか風邪で寝込んでました。」
「そいつはいけないですね。健康のためにジムに来ているのに、身体壊してたら笑い話になりませんよ?」
「そうですね。」
私もそう言って、柳生さんに並んでランニングマシーンで汗を流します。外を眺めながら走っていると、雲行きが何だか怪しくなっています。南海上では3つの台風が発生し、その進路に注目が集まっています。昔は5つの台風が同時に発生して、その配置から『五輪台風』なんて呼ばれたこともあったようですね。私が産まれる前のことですが。
「そう言えば、仕事は順調ですか?」
「ええ。おかげさまで、いろいろ忙しくなってきています。」
ジムにはずっと通っていましたが、八王子店には異動してから通い始めましたので、柳生さんとも最近の付き合いになります。私が警備員をしていると言うのはお話しした記憶がありますが、大した話はしていなかったですね。
「山盛さんの警備会社さんは、新規の案件なんかも取り扱ってくれるんですか?」
「ええ。現金や貴重品輸送の警備でなければ、施設警備でも、イベント警備でも、ボディガードでもやりますよ?」
「じゃあさ。」
柳生さんは言いかけて、ランニングマシーンを停めました。
「一つ、相談に乗ってくれませんか?」
ということでしたので、2時間ほどトレーニングした後、ジム近くの喫茶店に入って、昼食をしながらお話を伺うことになりました。
「・・・というわけなんですよ。」
なんでも、柳生さんのリネン会社は、八王子郊外の多摩川近くにあるそうです。3階建てのオフィスビルと隣接したリネン工場だそうですが、施設警備で入っている警備員たちが高齢化でまともに仕事ができていないと言うのです。先日の豪雨で多摩川が氾濫しそうになった時も、何も対応せずにのんびりしていたそうです。それ以外にも、体調不良者が出た時に救急対応が出来なかったり、施錠しなければいけないところを開けっぱなしにしてしまったり、何といっても仕事が覚束ないとのことで、定年退職者が出るのを機会に、次年度は警備会社を入れ替えようかと考えているそうです。
「わかりました。私はあくまでも一現場の警備隊長ですので、よろしければ本社の営業担当に事情をお話しし、柳生さんの会社に行かせますがいかがですか?」
「おお、そうしてくれるとありがたいな。」
改めて、私は柳生さんと名刺交換をしました。週明けに連絡させると約束して家路に着きました。警備業界もそうですが、年齢層が高めの業界は少なくないですね。周りでも、警備員が定年するので警備会社を入れ替えるとか、撤退するとかいう話は聞くことがあります。私ももう若い年齢ではないですが、業務に取りこぼしがないようにしなければいけませんね。
これがビジネスチャンスになるかわかりませんが、週明けに小寺部長にでも相談してみましょう。新しい契約になって、会社にも利益が出れば万々歳です。