8月23日 水曜日 代勤者勤務研修
今日は佐藤慎吾くんが代勤対応の研修で入られています。一通り業務の研修をして、今はお昼休憩中です。
「あの事故以来ですね、一緒に仕事するの。」
「そうですねぇ。」
あの事故の後、現場は解散してしまって、みんなバラバラの勤務になってしまいました。慎吾くんは事故の後、中町隊長のいる現場に配属されて鍛えられた方です。今では中町さんの現場で副隊長も兼任されています。
「先週、杉村のお墓参りに行ってきたんですよ。亮さんがここの隊長になった報告してきましたよ。」
「はは。」
慎吾くんは杉村君と仲良かったですからね。事故の後もショックだったと思いますが、私のように現場に立てなくなることもなく、しっかりやってるのはすごいことだと思います。
「ずっと言いたかったんですが・・・。」
慎吾くんは食べ終わったお弁当の入れ物をビニル袋にしまいながら、
「あの事故は亮さんのせいなんかじゃないですからね。しばらく現場に立てなかったじゃないですか、すごく心配したんですよ。」
そう言って目を細めた。ああ、私はなんていい仲間に恵まれているのでしょう。幾度となくいろいろな方からそう言っていただけました。中町さんからも、丸木くんや川室くんからも、あれは伊豆隊長の安全配慮の怠慢があったからで、私のせいではないと、みんなが必死にかばってくれました。
だからこそ、私は辞めることもなくまだ働いているのですから。
「ありがとう。もう、大丈夫ですよ。」
「それならいいんですが。」
「それよりも、慎吾くんや丸木くんが、辞めずに残ってくれていることの方が嬉しいですよ。」
そう、二人とも見た目はまだ幼さのあるかわいらしい青年ですが、心はしっかりタフガイなんですよね。
「中町隊長が厳しくしてくれますからね。」
中町さんとは事故のあった現場で一緒でした。まだ、新規立ち上げで業務も定まっていなかったときに、中町さんは転職してきて1ヶ月で警備隊長に任命され、あれこれ試行錯誤しながら警備隊を作っていったのです。厳しいことも言われましたし、中町さん自身もストイックな方ですので、みんなめきめき仕事の能力も、会社員としての能力も、人間力も上がったと思います。まぁ、それをすべてぶち壊したのが伊豆隊長だったわけですが。。。
「そう言えば、伊豆が逮捕されたって聞いてます?」
「へ??」
突然の情報に、思わず間の抜けた声が出てしまいました。
「何やったのあの人?」
「なんでも、うちを辞めた後、いくつか警備会社転々としたみたいなんですが通用せず、詐欺まがいなことに手を出したらしくて、それがらみで暴力沙汰起こして詐欺と暴行で逮捕されたみたいですよ?」
携帯をいじりながら、慎吾くんはその時の記事を見付けて見せてくれました。
『詐欺を仕掛けた相手にそれがバレて逆切れ! 42歳無職を逮捕。』
うわぁ、もうタイトル観るだけでしょうもないことがわかります。詐欺を仕掛けたことがバレて、相手に指摘されて逆上して殴るけるの暴行って。
「もう、やってることがまっとうじゃないですよね。会社も何であんな人を隊長にしちゃったんでしょ。」
「なんだか、インパクトすごすぎて何にも言葉がないですねぇ。」
もう、苦笑いしか出ません。お金に困っても、コツコツまっとうに働けば、生活できるくらいは稼げるものです。仕事だって、不況不況と言っても、必ず探せばあるはずなんです。あとは、そこでどうやって頑張っていくかなんですが、それができなかったんですね。
そんな話をしながら午後の業務を終えて、無事に慎吾くんの研修は完了しました。全く問題はないので、慎吾くんも代勤を任せても大丈夫そうですね。
それにしても、伊豆元隊長の件は驚きました。人生何がどうなって転落していくかわかりません。身を引き締めてやっていこうと思いました。
警備日誌 08月23日 水曜日 晴れ
佐藤慎吾警備員の代勤者研修を実施。
次回勤務は問題なしと判断。
その他、異常なし。