8月12日 土曜日 ジムの警報騒ぎ
台風の影響なんでしょうか、朝からどんよりした雲に覆われています。ただ、相変わらず蒸し暑いですね。エアコンの除湿をかけると、すぐに部屋の中は過ごしやすくなりました。天気予報を調べると、明日、明後日は晴れるようですが、15日から雨マーク続きですね。もう立秋も過ぎましたので、このまま涼しくなっていってくれればいいんですが、甘い考えでしょうねぇ。
折りたたみ傘だけ持って、毎週恒例のジムへ出向いていきました。そう言えば先週、自己ベストを出して気分が良かったんですが、なんとなく肩回りに違和感があったので、今日は無理をせずにトレーニングしたいと思います。もう若くはないんですからね。
「こんにちは。」
ジムの中へ入ると、福原さんや徳平さんが困ったような顔をして何かを話していました。
「何かあったんですか?」
声をかけた瞬間、受付の後ろにあるトレーナーさんたちの事務所で警報音が鳴りました。思わず身構えてしまうのは職業病ですね。
「まただよ。」
そう言いながら徳平さんが事務所に入っていきました。ほどなくして警報は治まったので、防災盤を操作したのでしょう。
「どうしました?」
「ああ、山盛さん。いえ、さっきから事務所の警報盤が火災信号受信して警報鳴ってるんですけど、どこも火事じゃないし、でも、しばらくするとまた鳴るしで、全然仕事になんなくて。警報がうるさくて集中できないって、帰っちゃったお客様もいるくらいで。」
なんとなく気になってしまうのは、防災を仕事にしている性なんでしょうか。
「あの。よかったら見てみましょうか?」
福原さんにそう言うと、徳平さんたちと相談して、防災盤を見せてもらうことになりました。案内された時に、再び警報が鳴り出しました。警報盤を見ると、プールとシャワー設備に面した通路の感知器が反応しているようです。
「ちょっと、現場を見てみましょう。」
通路に移動すると、途端にムワッとした空気に包まれました。ただの廊下なんですが、室内プールやシャワー設備に隣接しているので、湿気がたまりやすいのかもしれないですね。天井の煙感知器が鳴動したことを知らせる赤いランプが点灯していました。
「この湿気で誤作動しているかもしれないですね。あの感知器は設置して何年経ってますか?」
「いやぁ。わからないですね。」
いったん事務所に戻って、復旧をかけました。
「原因、わかりました?」
声をかけてきたのは松原久美子さん。このプラチナジム八王子のマネージャーさん。つまり店長さんですね。
「多分。湿気が原因の誤作動だと思うんですが、私も防災盤を使うことはあっても、感知器などは専門外なので何とも言えないです。」
「これが鳴りっぱなしで困ってるんですよ。業者さんも、連休中は来れないって言われちゃって。何かいい方法ないですか?」
私は思うところあって、松原さんたちに断わって電話をかけました。
『お疲れ様です。あれ、今日はお休みじゃないんですか?』
電話口に出たのはおなじみの中町隊長です。中町さんは勤勉な方で、資格もたくさんお持ちでいらっしゃいます。100の資格を目指しているとかで、資格保有が趣味みたいですね。たしか、消防設備士もお持ちだったはずなので、連絡をしました。
「すみませんお忙しいところ、実は・・・」
状況をお話しすると、
『亮さん。多分ですが、経年劣化と湿気のせいだと思います。プールやシャワー室に面した窓のない廊下なんですよね?』
そう答えてくれました。
「そうです。年数はちょっとわからないんですが。」
『ジムの人の許可が取れるんなら、発報している感知器を外してみたらいかがでしょう。』
「えっ? それだと非警戒になっちゃいますよ。」
『なので、通風のいい場所の同型の感知器と交換しちゃうんです。その代わり、本来は資格持ちじゃないとやっちゃいけない話なんで、ジムの人には早々に業者手配をするように言っておいた方がいいですね。』
「わかりました。話してみます。」
中町さんから言われたことをそのままお伝えすると、松原さんから許可が出たので、受付前の感知器と通路の感知器を交換することにしました。徳平さんが脚立を持ってきて交換してくれました。交換後、防災盤を復旧処理して、しばらく様子を見ていたのですが、どうやら落ち着いたようです。
まだ何とも言えないので、とりあえず様子を見ながらトレーニングをすることにしました。ランニングマシーンで汗を流していましたが、帰るまでの数時間、新たな発報はなかったようですね。
「山盛さんすごい! あれから一回も鳴っていないです。」
帰り際、福原さんが満面の笑顔でそう伝えてくれました。
「いや。私は何も、同僚に資格を持った方がいたので、その指示に従ったまでです。ただ、必ず早めに業者さんに診てもらってくださいね。」
福原さん達にそう伝えると、私はジムを後にしました。帰り道、ふと携帯を見ると、中町さんからその後どうなったかと心配するメッセージが届いていましたので、大丈夫だったこととお礼のメッセージを返信すると、『OK!』と言うかわいいキャラクターのスタンプが返ってきました。
後で聞いた話ですが、煙感知器と言うのは年数がたつと、どうしても中に埃がたまっていってしまうそうです。その堆積した埃が湿気と絡んで、感知器が煙と誤認することがあるそうなんですね。特に、マンションの壁のない階段や通路の感知器、古い建物の感知器、あとは、今日みたいに湿気が多いところでも、誤作動は起きるようです。
そう言った時は、古い物は交換したり、埃が詰まっているものは分解して清掃することで、正常になるそうですが、どちらにしても、素人ができることではないですね。これは、消防設備士でも4類の免許をお持ちの方ができるお仕事です。
中町さんはいつどこでどんな知識や技術が必要になるかわからないと話していたことがあります。本業でなくても、得た知識は活かさないともったいないですね。私も試験を受けることにしていますが、消防設備士の消火器点検の資格を取れたら、防災盤や消火栓と言った、他の種類の資格も勉強してみようかと思います。




