8月10日 木曜日 侵入監視システムの修理
午前3時、何度目かの巡回を終えるころに、ポツリポツリと来ていた雨が、すぐに本降りになってきました。先ほど、小森様がヘッドライトを付けて外に行かれたのですが、大丈夫でしょうか。回線を調べて、故障個所が見えてきたので、できるところは復旧させるとのことでした。
さすがに心配になってきたので声をかけると、
「予報じゃ朝までに止むみたいなんで、できるところまでやっちゃいますよ。」
そういってガッツポーズをしてくれました。回線を直すといっても、雨天では危険ですので、断線個所などを調べたのち、雨が止み次第に修理に入るとのことでした。明日の修理業者の手配もできているそうで、
「必ず連休取りましょうね!」
と意気込んでいらっしゃいます。そうでした。8月11日が山の日に制定されたために、明日からは三連休になるんですね。
小森様に感電に注意するようにお願いし、一度警備室へ戻りました。
「お腹空いたな。」
さすがにカップ麺一つでは、お腹が空いてきました。あ、そうだ。確か新垣さんからいただいたお菓子がまだあったはず。私は机の引き出しを探しました。あまりにもったいなかったのと多めにいただいていたので、大事に大事にとっておいた最後の一袋。甘いのがまた疲れた身体に染み染渡ります。
巡回時に小森様の無事を確認しながら、朝を迎えると、8時過ぎになって丸木龍太君が代勤で出社してきてくれました。
「お疲れ様です。朝早くからすみません。」
「お疲れ様です。初めてがいきなり実戦なんでちょっと緊張しています。」
本当だったら、何回か個別のOJTをしながら慣れていただく予定でしたが、状況が状況ですので仕方ありません。
「あ、これ差し入れです。中町隊長から頼まれました。」
そう言って、お弁当やおにぎりなどの食材を持ってきてくれました。あ、ありがたい。
「着替えたら丸木君に交代しますが、私は仮眠室で休んでますので、何かあればすぐに読んでください。」
「へ? 帰らないんですか。」
「さすがに、いきなり丸木君だけ残すのは心配ですし、業者の対応なんかもあるのでね。ここはシャワー室完備、仮眠室完備だから、食事さえ何とかなれば籠城できるんですよ。」
私はいただいたお弁当を食べて、丸木君に簡単に受付業務を任せると、社員様の出社を待ってからシャワーを浴びて仮眠室で横になりました。小森様が言うには、修理業者が来るのは13時過ぎらしいので、3時間ほど仮眠をしようと思います。
仮眠室で簡易ベットを広げて横になると、やはり疲れていたのかすぐに眠ってしまったようです。こんなに熱器がいいのはいつぶりでしょうか。
気が付くと時間は12時半過ぎでした。警備室に戻ると、丸木君がマニュアルを見ながら、修理業者の入構準備をしております。丸木君は勉強熱心ですね。
「お疲れ様です。」
「あ、おはようございます。」
「交代しますよ。」
「じゃあ、入構用の書類準備しておいたので、確認をお願いします。」
仮眠をしている間に、小森様から修理業者様の入構依頼が来ていたみたいですね。
・会社名 宇田川電機株式会社
・来訪者 1、小平晋平
2、鶴木一茂
3、多摩誠
・目的 侵入監視システム修理
・日時 8月10日(木)13:30~17:30
・来訪方法 車1台 相模 た 22‐34
完璧でした。
「問題ないです。丸木さんは飲み込み早いですね。」
「よかったです。」
時間通りに、宇田川電機の3名が来訪されました。小森さんが対応してくれていますが、さすがにお疲れのご様子ですね。
「大丈夫ですか?」
「オフィスの椅子を並べて寝たんですがなかなか寝付けなくて。それより、山盛さんはお帰りにならなかったんですね。」
「新人だけでは心配だったので。」
そうは言いましたが、警備だけ仮眠室があると言うのはなんだか申し訳ないですね。私も、この業界に来たばかりのころは、夜勤の時の仮眠がなかなか寝付けず、けっきょく一睡もできないまま次の勤務とか、しょっちゅうありました。今はもう慣れてしまったので、いつでもどこでも寝れるようになりました。寝るのも仕事のうちなんですよね。
宇田川電機の作業員さんたちは、手際よくセンサーやカメラの調整を進めてくれました。いくつか部品交換もあったようですが、何とか用意していただいた機材で間に合うようですね。
「山盛隊長! まだいらしたんですか?」
退勤時間になって、警備室の前を通りかかった平尾副所長が驚いたように声をかけてくださいました。
「お疲れ様です。休憩はいただいておりますので大丈夫ですよ。ありがとうございます。」
なかなか警備の長時間勤務は御存じない方は驚きのようで、平尾副所長もたいそう驚かれたようです。くれぐれも無理はしないようにとおっしゃってお帰りになりました。
時間はかかりましたが、20時前にはすべてのシステムが復旧しました。やはり落雷の影響で配線がダメになったり、カメラ本体がダメになった者も2台見つかりましたが、宇田川電機様の用意してくれた新しいカメラを取り付け解決しました。それ自体に時間はかからなかったのですが、問題は赤外線センサーですね。なんせ光軸をしっかり合わせないと発報しっぱなしになってしまいます。
「これがなかなか合わないんだなぁ。」
小平様がそう言いながら軸を治してくれていました。赤外線センサーは発光部と受光部にまっすぐ赤外線が伸びています。これが遮られることで、異常発報となって信号が警備室に上がってくるのですが、この高軸をまっすぐにセットするのがなかなか難しいそうです。なんせ、中途半端な合わせ方をすると、風でセンサー本体が揺らいだだけでも発報することになるので、繊細な技術が求められるそうですね。
それに時間がかかりましたが、20時半にはみなさん引き揚げられて行かれました。もし、誤発報が頻発するなら、また来ていただけるそうです。
「そ、それじゃ。私も引き上げます。山盛さん、お疲れっ様でした。」
「はい。長時間お疲れさまでした。帰りは気を付けてくださいね。」
「はは。それは山盛隊長もですよ。お互い、連休はゆっくりしましょう。丸木さんも急の出勤ありがとうございました。」
小森様を二人で敬礼して見送ると、最終巡回と施錠を一緒に行って、私達も引き上げることにしました。それにしても復旧してよかったです。一緒に、丸木さんのojtもできたので一石二鳥としましょう。
警備日誌 08月10日 木曜日 雨のち曇り
山盛の代勤として丸木警備員が出社。合わせてOJTを実施。
13:11 侵入監視システム修理の為、宇田川電機株式会社3名が来訪。
小森様立会いのもと、破損していた監視カメラ2台を交換。
赤外線センサーも復旧完了。20:24に3名が退出。
山盛は昨日より継続して21:15まで残業。
本日は侵入監視システムを起動し、通常業務に戻る。
ほか、異常なし。




