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8月9日 水曜日 広域停電発生!

 今日は長崎の原爆の日です。11時02分に投下された原子爆弾『ファットマン』が、一瞬にして長崎の人々を影に変えてしまった事件です。朝からそんなニュースが繰り返されていました。広島と長崎に原爆が使用されたのは人生最大の愚ですが、それ以降、実験を繰り返す愚は続いていますが、とりあえず、戦後78年もの間、悪意を持って都市に核兵器が使用されていないと言うのは、実にいいことだと思います。


 さて、平和を祈る一方、今日の八王子は平和ではありません。14時過ぎになって、急に暗くなってきたかっと思うとにわかに風が吹いてきて、ゴロゴロと雷が聞こえ始めました。そんなのが始まってわずか30分、身をすくめるような雷が鳴りました。


「うわっ!」


 思わず声が出るほどの鋭い雷鳴。擬音を用いると、『ゴロゴロ、ピカッ、ドーン。』みたいになると思いますが、本気にヤバい雷の時は。『ピカ』が『ピシャッ!』になるんですよね。以前、空が光ってから音がする時間で距離がわかるとお話ししましたが、今日の雷はゼロカウントです。光と音が同時ということは、ほとんど直上ということになります。


 何度目かの強烈な雷音の後、警備室の照明やエアコンなどの電気器具が一斉に止まりました。停電です。すぐにブレーカーを見に行きましたが、戻しても反応がありません。これは広域かなと思った時に、業務用の携帯電話が鳴りました。こういう時、携帯は電波なので便利ですね。


「警備室、山盛です。」

『設備の小森です。お疲れ様です。警備室も停電してますよね?』

「はい。先ほどの雷でやられました。」

『こちらもです。間もなく非常電源に切り替わるので、、、』


 そう言いかけた時に、電気が付き始めました。八王子管理センターにはデータサーバー室があるので、隣接する電気室には非常用のバッテリー電源があります。ただし、サーバー保護が主目的ですので、一部の電気とサーバー室内の電気くらいしか賄えませんが。


『切り替わりましたね。山盛さん、広域停電だと思うのですが、情報入るまで危険なので外には出ないようにしてください。』

「わかりました。」


 通話を終えた途端、光と同時に爆音が轟きました。雷とわかっていても、思わず身をすくめてしまいますね。とりあえずすぐに点検に出られるように雨具を用意し、小森様からの連絡を待ちました。そして、その間に本社管制に連絡し、今日の担当だった荒井さんに状況を報告しました。


 しばらくして小森さんからの着信が入りました。


『小森です。』

「お疲れ様です。」

『やっぱりここら一帯が停電みたいですね。復旧まで少し時間がかかるそうです。』

「侵入監視装置もやられていますが、巡回などはどうしましょう。」

『雷が収まるまでは待機でお願いします。電気が復旧したら、そちらに行きますので一緒に点検お願いします。』


 通話を切ると、自分の携帯電話を取り出して雨雲レーダーを表示しました。8ミリ以上の雨が降っていることを示す赤いエリアが、八王子市のけっこうなエリアにかかっています。これだけの降りになってくると、浅川が氾濫しないか心配になってきますね。


 停電ですので、当然エアコンも停止しています。10分としないうちに、警備室内は蒸し暑くなってきました。扇風機すら回せないのはつらいですね。電気が付いているだけでもまだマシですが、非常電源のことも考えて照明を切りました。


 受付の窓の外は相変わらずものすごい勢いで雨が降っています。バケツをひっくり返したような、というのはよく言った表現で、まさしくその通りの降り方です。ただし、こういう振りの時は止むのも早かったりします。雨雲レーダーを信じるのなら、もう30分もするとこの雨雲は抜けるはずです。それまでの間、警備室に置いてあったうちわで扇ぎながらなんとかしのいでいました。


 1時間としないうちに、豪雨は過ぎ去って小降りに切り替わりました。このころには汗だくで、肌着はびっしょりになるくらいでした。小降りになったからか、傘をさして小森様が警備室にいらっしゃいました。


「とりあえず、ピークは過ぎたみたいですね。東都電力に確認したら、もうすぐ復旧するということでしたけど、監視システムとかはどうですか?」


 警備室に入っていただき、一緒に監視システムを確認しましたが、外周カメラ15台のうち7台が移りませんでした。画面には『NO SIGNAL』と表示されているだけです。小森様と一緒にグルッと外周チェックに行きましたが、赤外線センサーも不稼働の箇所が4か所あり、思っていたよりも状況は悪そうでした。


「すぐに修理業者を手配しますが、今日中の復旧は難しいかもしれないですね。」


 小森様が困ったようにうつむきました。


「監視ができていないので、今夜は友人で警備しなければいけませんが、いかがいたしましょうか。」

「すぐに所長たちと協議してきます。」


 そう言ってオフィス棟に引き上げられたので、私は警備室に戻って、本社へ連絡を入れました。小寺部長は営業周りで不在だそうで、携帯もつながりませんでした。とりあえず、非警戒の個所があるのに変えるわけにはいきませんので、今夜は泊りになるのは濃厚でしょう。


 その後、協議を終えて小森様と平尾様が警備室に来られました。


「山盛隊長。急なお願いで心苦しいのですが。」


 改めて『隊長』と呼ばれると、慣れていないのでなんだか変な気分です。今はどうでもいい話ですが。


「はい。大丈夫ですよ。」

「よろしくお願いいたします。」


 その後、退勤時間近くになって、ようやく地域の電気が復旧したようです。小森様と協力して赤外線センサーがキチンと稼働しているか確認しましたが、やはり先ほどの4か所は無反応でした。つまり、残業決定です。


 東都ガス様は小森様が残られるということでした。その頃になってようやく小寺部長と連絡が取れ、明日の朝に代勤者を派遣するとのことでした。平尾様からのご要望としては、非警戒部分があるので、2時間に1回は外周巡回をしてほしいとのことでした。


「ふぅ。」


 一段落したので大きく息を吐き出し、私はロッカーに常備してあるカップ麺を取り出しました。不幸中の幸いは、電力が復旧してエアコンが聞いていることですね。ただ、今夜は赤外線センサー故障による警戒強化のための残業ですので、仮眠をとっている暇はありません。


「山盛隊長。すみません、よろしくお願いしますね。」


 19時半過ぎ、帰宅される平尾様が声をかけてくださいました。


「はい。お任せください。」

「なかなか仮眠する暇もないかもしれませんが、施錠をしっかりしてくだされば、休んでも構いませんので。」

「ありがとうございます。」


 とは言っても、がっつり眠るわけにもいきません。平尾様がお帰りになると、残ったのは私と小森様だけになります。小森様にはオフィス棟の施錠をしたことを報告し、外出するときは連絡してほしい旨を伝えて、とりあえずの業務は一段落です。



報告書

落雷に伴う停電の発生と警備強化対応について


 14:12 八王子市内で雷雨による広域停電が発生。

     同時刻、監視システムがダウン。

 14:13 設備担当小森様に状況を報告。

     雷が収まるまで待機の指示を受ける。

     同時刻、非常電源システムにより、一部電気が復旧。

 14:14 本社管制荒井氏に状況報告実施。

 15:02 雨が収まったため、小森様と外周巡回を実施。

     赤外線センサー4か所、監視モニター7台が不稼働となる。

 15:23 平尾副所長より、夜間の監視強化のため残業依頼が入る。

 15:36 本社小寺部長に状況報告。

 19:35 平尾副所長が帰社される。

 19:45 オフィス棟を施錠し、夜間警備体制に移行する。


原因

 ・落雷による広域停電。

 ・監視モニター7台、赤外線監視センサー4台が不稼働。


対応

 ・東都ガス様は設備担当小森様が夜間対応。

 ・山森が夜間警備強化のために残業。

 ・2時間おきに外周巡回で警備強化を実施。


その他

 ・明日、代勤者を派遣予定。



 報告書をまとめて、本社と東都ガス様にメール送信しました。時間は21時、もう雨は止んで、いつもよりかは涼しい風が吹く中、外周巡回を実施しました。まぁ、警備強化といっても、外部の方がここを見て監視システムが死んでるというのがわかるかというと、なかなか素人にわかるようなものでもないので何もないとは思います。しかし、もしも元警備会社の人間が、赤外線センサーの不稼働に気が付いて、たまたま東都ガス様に何らかの恨みを持つ人だったりしたら。


「あり得ない。なんてことはあり得ない。」


 警備室に戻って冷たい飲み物をいただきながら、ふとそんなことを呟いてみたりしました。よく言われたことですが、隕石が落下して家屋を直撃、ということが10数年に一度くらい起きたりします。起きたりしたということは、ここでないということは言い切れないので、そうなったときの対応をシミュレートしておく。そういったことの繰り返しで、実際の事案と経験を積み、有事に強い警備員が育つ。


 これは弊社の社長の考えでもあり、本社研修でも話すことであり、私が今まで受けてきた教育でもあります。


さぁ、とにもかくにも長い夜は始まったばかりです。頑張っていきましょうかね。





警備日誌 08月09日 雨一時雷雨


 14:12 落雷による広域停電発生。

 侵入監視システムに障害発生。(別紙)

 平尾副所長指示で夜間警備強化実施。


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