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7月21日 金曜日 代勤の取り決め

 いやぁ、朝から参っております。


「だからな。そこまで気にせんでも大丈夫やろ。」

「ですから。ここが初めましての代勤者が応援できたときに、火災や地震が発生したらちゃんと対応できると本気で思ってるんですか?」

「せやから、ベテラン配置すればいいだけや言うてんねん。」

「それで何かあったらだれが責任取るんですか。」

「俺が取ればいいだけの話だろう。」


 代勤者を何人か用意するための研修をやろうという話になって、さっそく、中町さんと小寺部長がお見えになったのですが、ここに来てからずっとこんな調子でケンカをしております。


「そもそも、何か起きたらマズいから備えるわけですよね。部長が言っていることは、警備防災の仕事を否定してませんか?」

「否定はしてへんやろ。そこまで考えなくてもええんちゃうか言うてんねん!」

「そこまで考えるのが僕らの仕事ですよね?」


 この平行線の戦いは、午前9時半からかれこれ1時間繰り広げられております。途中、取っ組み合いになるんじゃないかとヒヤヒヤしていましたが、ようは、よくよく考えれば、警備防災の名の下、プロに徹してあらゆる想定を考えようとしている中町さんと、大丈夫だろうで楽観的に考えている部長のつばぜり合いで、クライアントにしてみればどちらがいいかと言われれば一目瞭然なのですが。。。


「あの。そろそろクライアント様がお見えになりますので。」


 遠慮がちに言うと、しぶしぶ二人は黙り込み、椅子に腰かけた。しばらくすると、平尾副所長と、総務経理担当の八木沢様が警備室にお見えになりました。


「急にお呼び建てしてすみません。緊急の話ではないんですが、山盛に体調不良や急用ができた時の代勤について、取り決めをしておければと考えております。」


 小寺部長より、中町さんが先に話を切り出しました。


「そうですよね。今まで山盛さんお一人に頼りっぱなしで、山盛さんのお休みのことを考えておりませんでした。こちらから気がついてご相談するべきでした。申し訳ありません。」


 平尾さんはそう言って頭を下げられました。なんか申し訳なくなってしまいます。


「できれば、弊社としては時期を決めて、何名か山盛がお休みした時の代理で勤務できるものを用意したいので、ここでの研修をご許可いただければと考えております。」

「それはありがたいお話です。」

「それでは、セキュリティ面での相談ですが。。。」


 ここに入るにはIDカードが必要です。ただ、めったに入らない人員のために、いつでも出入りできるIDカードを作ってもいいものか、セキュリティ面で考えるとあまりよくはありません。かといって、IDカードがないと、敷地内にすら入れません。


 私が出勤するときには、正門前のスキャナーにIDカードを通し、通用扉を開けて入場します。その後に警備室に入り、機械警備の解除と正門の開放をして、社員様の出社を待つ段取りになっています。ですので、IDカードは必須になってしまいます。


「それでは、IDカードは予定者にお作りするとして、出社日が確定したところで、その日限定の権限を付与する。ということでいかがでしょうか。」


 平尾副所長はそう提案してくださいましたが、


「通常のお休みなどであればそれでいいかと思いますが、山盛が急病など、急な欠勤が発生した時の対応はいかがいたしましょうか。」


 中町さんのその指摘に、平尾副所長も困ってしまったようです。小寺部長は中町さんと平尾さんのやり取りを聞きながらずっと腕を組んでいます。これではどっちが部長かわかりませんね。


「あのぅ。」


 二人の会話に割って入るようで申し訳なかったのですが、私からの提案をお伝えしました。


「通常の、例えば私の私的に取得する遊休などは、あらかじめわかっているので、副所長のおっしゃったとおりに、事前にお知らせしてIDカードに権限付与をしていただいて、私が急病などで急きょ来られなくなった時には、しかるべき立場の人、例えば中町さんや本社の人間で代理ができる限られた者に、入場権限付のカードを用意するというのはいかがでしょうか。」


 ようは、代勤者用のIDカードを2種類にして、緊急で入れる権限付きのものと、事前に許可が必要なものと分けるということだ。


「それはいいですね。平尾副所長、いかがでしょうか。権限付きカードは、私や本社管制の荒井などが所持して、それ以外の応援者には事前申請が必要な通常のカードをお預かりするという方法になりますが。」


 この提案には、平尾副所長も八木沢様もご納得していただけたようでした。来月頭には人員を選抜し、3名ほど研修に入ることが決まりました。その時は、中町さんも荒井君も来ていただけるそうです。


 こうして、新たな取り決めが交わされ、さっそくですが近日中に研修日を設けるということになりました。終始、小寺部長はだんまりでしたが、


「では、そういうことで今後もよろしくお願いいたします。」


 と、最後の部分だけかっさらっていきました。平尾副所長たちが戻られたあと、研修日程や人員、誰に権限付きカードを所持させるかなどで、再びケンカが始まったのは別のお話です。





警備日誌 07月21日 金曜日 曇り


 11:00より警備防災ミーティングを実施。


 山盛休暇の際の代理勤務者についての取り決めを交わす。


 8月上旬には研修予定。


 ほか、異常なし。

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