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7月15日 土曜日 半年ぶりの帰省

 今日から三連休です。ここに配属になるまでは、完全にシフト勤務の現場だったので、盆も正月もなかったのですが、カレンダー通りの現場って言うのも、慣れるといいものかもしれないですね。ハッピーマンデー制度とか、導入された時は憤ったものですが、実際にそういう勤務シフトだとありがたいかもしれません。ただ、絶対に万人受けしない不平等な制度だとは思いますが。


 この三連休を使って、実家に里帰りをしております。里帰りと言っても、そんな大仰なものではなく、八王子駅からJR横浜線で15分。神奈川県相模原市に帰るだけのことでございます。15分しか電車に乗らないなら、もっと頻繁に帰れよ。と言われてしまいそうですが、近すぎる分、いつでも帰れるから安心して帰らなくなっちゃうんですよね。前に帰省したのは正月明けですから、半年以上帰らなかったことになります。


「ただいまぁ~。」


 我ながら間の抜けた声で玄関を開けると、玄関先で靴を脱ごうと床に腰を下ろしました。まったく、いくら今日帰ると連絡していたからって、玄関の鍵もかけないとは不用心な。


「おかえり。今日も暑いねぇ。」


 そう言いながら母が台所から顔を出してくれました。今年80歳になろうかと言う母・和美かずみは、相変わらず元気そうでしたが、少し膝を悪くしているのか、ゆっくりと歩いてきました。


「膝、痛いの?」


 そういう私に、


「あら、わかっちゃう? なんだか最近膝が痛くてねぇ。歳には勝てないわ。」


 おどけながら笑顔で答える母。まぁ、この年齢まで大きな病気もなく過ごしてくれているのは、子としては嬉しいことですね。ちなみに父・源次郎げんじろうは82歳で、だいぶ前にバス会社を定年した後、しばらく近所の幼稚園バスの運転手をやっていましたが、もう引退してのんびり過ごしています。


「お兄さん。お帰りなさい。」


 顔を出してきたのは3つ年下の妹・秀美ひでみです。ここから数件隣に戸建てを購入して、ご主人と2人の子供と一緒に住んでいます。家を近くしてくれたおかげで、実家のことは任せっきりですね。よくできた妹ですよ。


「秀美は元気?」

「少なくともお兄さんよりは元気よ。」


 秀美は相模原市内の電気会社で経理や総務の仕事をしています。事務仕事は非常に早く、私も何度か助けてもらったことがあるくらいです。ご主人はその電気会社の社長さんで、あまりお会いしたことはないですが、すごくしっかりした方だったと記憶しています。


「子供達は?」


 そう聞くと、


「いやぁねぇ。子供ったって、もう大人だもの、浩志も萌絵も仕事でいないわよ。」


 何を言ってるのと、笑って答えた。浩志ひろし君は27歳、大学を出てお父さんと同じ会社で営業をしています。萌絵もえちゃんは24歳の看護師で、相模原市内の総合病院で働いています。もう大きくなっちゃったんですね。一緒に遊んでいた時期が最近のようです。


 今に上がると、父がニュース番組を見ながらお茶をすすっていますた。


「ただいま。」

「おう。元気にしてたか。」

「おかげさまで。」


 仕事をしなくなってから、父のもっぱらの趣味は読書と映画鑑賞です。何にもしなくなるとボケるということで、文字や映像を見て脳を活性化させるんだということ。まぁ、ご立派ですよ。一昨年くらいに、大手通販会社の映像配信サービスを見れる様にしたら、喜んでテレビにかじりついていました。母は孫がアニメに釘付けになっているようと笑っていましたが、活用してくれているのでなによりです。


「最近、何かいい話あったかい?」


 そう尋ねると、待ってましたとばかりに書棚から小説を取り出してきました。


「水野忠って知ってるか?」

「いいや。知らない。」

「なんだ、もったいないな。水野忠の『時霞~信長の軍師~』、これは面白かったぞ。今度映画化するみたいだな。」

「へぇ。」


 なんでも、現代の会社員がタイムスリップして、かすかな歴史の記憶を頼りに戦術を練って、戦国時代で信長の軍師として活躍する話だそうで。


「父さんも、タイムスリップとかSF読むんだね。」

「昔は見もしなかったけどな。暇だからいろんなジャンルに手を出してみようかと思ってな。そしたら面白いんだよこれが。」


 よくよく書棚を見ると、『異世界○○』『転生したら○○』などなど、いわゆるライトノベルとか言うものもチラホラ見えました。


「この間はな、『鬼滅の刀』とかな。あれはいい話だ。何度泣いたか。」


 ついには流行りのアニメの話までし始めました。ずいぶんハイカラな爺さんになったものだと、ついつい笑ってしまいます。父は江戸っ子気質でもあるので、小難しい話よりも、わかりやすい物語の方が好きだということでした。そういう意味では、わかりやすい作風が多いライトノベルや、何もできない少年が家族と仲間のために鍛錬して強くなっていくと言う『鬼滅の刀』のような話は合っているのかもしれませんねぇ。


「お父さんがまさか『鬼滅の刀』を見てるとは思わなかったわ。」


 秀美がそう言いながらお茶を注いでくれた。そりゃそうだ、少年週刊誌で掲載されている漫画が原作のアニメなんて、80過ぎた爺さんが見るもんでもないだろう。気持ちが若いと言うのはいいことです。


「連休中は止まっていくんでしょう?」

「うん。そのつもり。」

「明日の夜に子供達も来るって言うから、夕飯一緒に食べましょう。」

「あれ、今日は?」


 聞けば、ご主人が明日から出張だから、今夜は夕方には帰って準備を手伝うということだった。今日は、私が帰省するのでわざわざ半休取ってくれたそうです。出来た妹で申し訳ない。


 なんやかんやで、久しぶりの実家を堪能し、久しぶりの実家の布団で休むのでした。まぁ、その前に、父に付き合ってしこたま飲まされたのは別のお話です。

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