メイドとメタモルフォーゼロボット
皆さん、こんにちは。立涌丁字路と申します。
今回、メイドとロボットの交流について書きました。
至らないところがあるかもしれませんが、最後まで読んでいただければ幸いです。
○○駅の近くにあるビルの8階には全国のメイドが所属しているメイドユニオンの部屋がある。そこに所属するメイドの二階堂早紀はエレベーターで昇ってきて、ユニオンがある部屋に向かう。
早紀はユニオンリーダーである菅沼美春の至急の呼び出しを受けていた。
そしてユニオンがある部屋に入り、同室で美春がいる執務室の前にやってきた。
「入りなさい」と執務室の中から声がして、「失礼します」と早紀はドアを開けて中に入った。
執務室ではリーダーである美春がドアの正面向かいにある机に座っており、早紀を待っていた。
美春は一つ息をついてから背筋を伸ばして、「二階堂さん、今回の至急の呼び出しについてですが」と切り出した。
「唐突な話で申し訳ないのですが、今度のお客様はロボットです」
「ロボット?」早紀は首を傾げる。
「無理もないですね。私も最初は頭に『?』が浮かびました」美春は少し困惑したような表情を見せる。
「このロボットは○○研究所で製作されました『カメンレオ~ン1号』といいまして、このロボットのお持て成しをしていただきたいのです」
「あの、私…」早紀は不安を漏らす「ロボットもとい機械の類いはさっぱり分からなくて…」
美春は「あなたは傾聴する力があります」と励ました。「大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。頑張ります」早紀は美春を見つめて、こう言った。
「今回、お客様の所望で期日は○月△日、お持て成しの場所は○○市内の何注館です。よろしくお願い致します」
「分かりました。それでは行って参ります」
こうして早紀はカメンレオ~ン1号を持て成すことになった。
何注館は○○市の中心部を見下ろす高台に立っている。建物は3階建てで、築150年。バルコニーがついた木造洋館で入り口は1階中央部にある。
早紀は何注館に到着し、建物を見上げた。カメンレオ~ン1号は入り口から続く廊下を少し歩いた奥の部屋にいるといい、彼女は道具一式を揃えたカバンを持って入り口から奥の部屋へと向かった。
その奥の部屋は開き扉となっており、早紀は「お客様、私、ユニオンより参りました二階堂早紀と申します。本日は、お客様のお相手をさせていただきます。よろしくお願い致します」と部屋の中にいると思われるカメンレオ~ン1号に声をかけた。
部屋の中から「どうぞ、お入り下さい。こちらこそよろしくお願い申し上げます」と声がした。
しかし、その聞こえてくる声は早紀の声なのである。どうして自分の声が聞こえてくるのか、早紀は眉間にしわを寄せながら、扉を開けた。
その先には自分と同じ姿をした女性が木椅子に座っていたのである。
しかし、その女性の正体はすぐに知ることができた。
「わたしはカメンレオ~ン1号です。訳あってあなたの姿をしています。そして、なぜあなたの姿をしているのか、後でお話しします」
カメンレオ~ン1号の座っている木椅子の向かい側には同じような木椅子があった。早紀はその椅子に向かい、脇にカバンを置いてそこに座った。
早紀は何注館で「もう1人の自分」であるカメンレオ~ン1号との交流に臨むことになった。
早紀はカメンレオ~ン1号との会話をしている。早紀は最初、カメンレオ~ン1号と何を話したらよいのか分からなかったが、カメンレオ~ン1号が言葉を続けてくれたので安心した。そこから、話はだんだんと進んでいく。
「カメンレオ~ン1号さんの趣味は何ですか?」
「知識を吸収すること。まあ、姿形を変えることができるロボットだから趣味とは言えないですよね」
カメンレオ~ン1号は目線を少しそらした。
「立派な職業ですよ。私は他の人とおしゃべりすることが好きです」
「そうですか」その後、カメンレオ~ン1号は早紀のほうを少し神妙な面持ちで見た。
そして、「それでは、先ほど言いました通り、なぜ私があなたの姿をしているのかお話し致します」
カメンレオ~ン1号はそのいきさつについて話し始めた。
カメンレオ~ン1号は○○研究所で製作された最先端の技術を備えたロボットである。人々の安全な暮らしのため、様々な場面で人間がどのような行動を取るのか、といったデータ収集を目的として造られた。そのため、見たものを瞬時に記憶し、それに応じて姿を変えることができる。
カメンレオ~ン1号によれば、何注館に到着した後、窓越しに早紀を見て、そしてその姿に変化したという。
姿を自由自在に変えることができるカメンレオ~ン1号。彼には充足感や満足感といったものがなかった。だがある不安を抱えており、それを早紀に明かした。
それは、彼がその名前の通り初号機であるため、これから製造されるであろう二号機、三号機に取って変わられてしまうのではないかというもの。何注館で早紀の姿のままでいるのはその不安を少しでもかき消すためであり、他の場所にいた時もロボットの姿ではなかったという。
早紀にとっては鏡合わせの状況であるから、正直言ってカメンレオ~ン1号の話が分からないこともあった。だが、彼女はうなずきながらカメンレオ~ン1号が続ける話に耳を傾けていた。
カメンレオ~ン1号は早紀を気遣い、交流の時間は1時間と定めていた。1時間だけではあったが、カメンレオ~ン1号は早紀と会話を通して楽しい時間を過ごすことができた。
「今日は本当にありがとうございました」とカメンレオ~ン1号が早紀に感謝の言葉を述べる。
「いえ、こちらこそ貴重な機会をありがとうございました」と早紀は返答する。
「この仕事をしていてよく思い返すんです。学生の頃、よく友人の話を聴いていたことを。いろいろな話を聴きました。うれしいことや悲しいことも」
「でもそういったことが、今、自分がこの職業に就いていることにつながっているのだと思います」
早紀がそう言うと、「本当にその通りだと思いますよ」とカメンレオ~ン1号はうなずいた。
そして続けて、「今はいろいろ困難なことがございますが、他の人との関わりや交流を大事にしていきたいです」と強調した。
その後、早紀とカメンレオ~ン1号は顔を向かい合わせてお互いに笑みを浮かべた。
最後にカメンレオ~ン1号はオムライスを所望した。
「ロボットが食べ物を食べられるんですか」と早紀は尋ねるが、カメンレオ~ン1号は「食べ物もエネルギーになりますから食べられます」と答えた。
早紀はカメンレオ~ン1号のため、何注館のキッチンでオムライスを作った。そして最後にはオムライスの上にケチャップでハートを描いた。
料理ができて早紀はカメンレオ~ン1号のところにオムライスを運んだ。そして、カメンレオ~ン1号は早紀に「ありがとうございます」と言ってから、味や食感を楽しみながらオムライスを口に運んだ。
「とてもおいしいです」
何注館での早紀とカメンレオ~ン1号との交流から数日が経過した。早紀はユニオンの執務室にて美春に今回の交流のことについて話をした。美春は執務室の机に座り、うなずきながら話を聴く。
そして、話が一段落すると、「無理を言ってごめんなさい」と美春は早紀に謝ったが、「けれども、よく頑張りましたね」と褒めた。
「ありがとうございます。最初はどう対応していいか大変でしたけど、お客様がまず声を掛けていただいたので、話を進めていくことができました。今回は、いや今回も良い経験をさせていただきました」
そして、「これからも頑張っていくことを決意致しました」と早紀は胸を張った。
「二階堂さん、応援していますよ」と美春は早紀を見上げてうなずいた。
それから半年、早紀はメイドとして忙しくも充実した日々を過ごしていた。
そんなある日のこと、早紀はユニオンの一室で職務を行っていたところ、美春から声を掛けられる。
「二階堂さん、今日の新聞にカメンレオ~ン1号様のことが紹介されていましたよ」
美春は新聞を開いて記事を早紀に見せる。
その記事には「メタモルフォーゼ(変身)ロボット」カメンレオ~ン号について特集されており、2号製造開始、3号計画開始と書かれてあった。
そしてその左隣にはカメンレオ~ン1号についての記事があり、同機体が小学校で子ども達の学習のお手伝いをしているというものだった。
記事の写真には小学校の教室で、カメンレオ~ン1号はそのロボット姿のままで子ども達と触れ合っていた。子ども達は皆、手を挙げてうれしそうな表情をしている。
記事を見て早紀と美春は和やかな雰囲気に包まれた。
いかがだったでしょうか。
最後まで読んでいただき誠にありがとうございました。