表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍・漫画化しました!】異世界メイドの三ツ星グルメ ~現代ごはん作ったら王宮で大バズリしました~【旧題・美食おぼっちゃまの転生メイド】  作者: モリタ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

98/278

ディナーシェフの挑戦5

「ううむ。まさか、あのメイドがまた勝負に乗ってくるとはな。それに、あの表情。さてはまた、なにかいかがわしい案があるに決まっておるわ」


 王宮の厨房に、ローマンの不満そうな声が響きました。

厨房の中を、腕を組んでうろうろしながら、苛立った様子で独り言を言うローマン。


 今度こそ負けるわけにはいきませんが、生意気なメイドの態度がどうしても気になって仕方ありません。


「それに、妙なのがお兄ちゃんだ。勝負をするというのに、どことなく腑抜けた様子。一体何を考えておるのやら」


 そう、兄であるマルセルは勝負が決まってからもどこか集中を欠き、勝負用のディナーの開発にも消極的。

それが余裕なのか、やる気が無いだけなのかいまいち判断がつきません。


「どうにか、お兄ちゃんのやる気に火をつけないとやばいかもしれんな。だが、どうやって……そうだ! あれを手に入れるといいぞ!」


 そこで、良いことを思いついたとばかりにほくそ笑むローマン。

そして厨房を飛び出していった彼を見て、他のシェフたちは「あの人、腕は良いのにどうしてこう小物っぽいんだろうなあ……」と心の中でつぶやいたのでした。


 そして、それから少し後。

手に何かを持ったローマンが厨房に駆け込み、大声を上げました。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん! やったぞ、手に入れてきたぜ! ほら、こいつを見てくれ!」


 それに、仕込みをしていたマルセルが苛立った様子で答えます。


「ええい、なんだやかましいやつめ。また何を手に入れてきたというのだ」

「これだよ、ほら、あのメイドが得意なソースだ! こっそり手に入れてやったわい!」


 大喜びなローマンの手の中には、ソースのついた布が握られていました。

そう、それはシャーリィたちが、貴族たちにハンバーガーを出す時に包んだ布。

ハンバーガーは綺麗になくなっていましたが、そこにはシャーリィ特製のハンバーガーソースが付着していたのでした。


「おまえ……まさか、盗んできたのか?」

「なんだいお兄ちゃん、盗むなんて人聞きの悪い! ちょいと借りてきただけだ、どうせ使い終わった布なんて誰も気にせんわい! さあ、味を盗もう、お兄ちゃん!」


 そう言ってイヒヒと笑うローマンを、マルセルは呆れた表情で見ましたが、ソースには興味があったので指ですくって一舐め。

そして、ハッと驚いた顔をしたのでした。


「なるほど……これはすごい。なんという複雑な味わい……これを、あんな若さで作ったというのか。信じられん!」

「だろう、お兄ちゃん。あいつはヤバい奴だ、余裕をカマしてる場合じゃないぜ。……それで? どうだい、何でできてるかわかるかい」


 期待のこもった声でローマンが尋ねると、マルセルはしばし考えた後、こう答えたのでした。


「……卵を調理したものをベースに、タマネギ、にんにく、きゅうりのピクルス、マスタードに白ワインビネガー。それらを合わせてあるのだろう、おそらくは」


 それは、シャーリィが作ったソースの材料の、そのほとんどです。

マルセルは、僅かな量を口にしただけで、見事にその材料を当ててみせたのでした。

それを聞いて、ローマンがヒュウッと口笛を鳴らします。


「さっすが、お兄ちゃん! 神の舌を持つと言われるシェフ! どうだい、真似できそうかい!」


 そう、マルセルはその鋭い味覚で、どんなものも食べただけで材料を当ててしまうプロなのでした。

マルセルは、顎に手を当てて考える素振りをしながら答えます。


「今すぐ真似をするのは難しい。わしが学び作ってきたソースと、あまりにかけ離れているからな。それに、これはハンバーガーとやらに合わせて作ってあるのだから、ただ真似しても意味はあるまい。だが、これは勉強になる。なるほど、ただ味を変えるためだけではなく、より高みに導くためのソースか……それに合わせて料理を作ってみるというのも……」


 ブツブツ言いながら、調理器具に向かうマルセル。

そのままソースの試作品を作り始める彼を見て、ローマンはニヤリとほくそ笑みました。


「始まった始まった、お兄ちゃんの独り言が。こうなると、すぐに凄いものを作り上げるんだよなっ」


 まずは計算通り、マルセルに火をつけたローマン。

しかし、それだけでは安心できません。


「どうにか、あの小娘たちの邪魔もしてやりたいが……そうだ! ディナーといえば、肉料理! あやつらも、きっと肉で勝負してくるぞ。ならば!」


 そして、またイヒヒッと笑うローマン。

ですが、そんな行動の数々が、完全に空回りであることを彼はまだ知らないでいたのでした。


◆ ◆ ◆


「ええっ! 今日の分の、お肉がない!? なんでよっ!?」


 メイドキッチンに、アンの悲鳴が上がりました。

その目の前にいるのは、王宮にいつもお肉を卸している業者さん。


 やや腰が曲がった老齢のその方は、ペコペコと頭を下げながら困った様子で言いました。


「へ、へえ、ちょっと、いろいろとありまして、どうにも、はい……。申し訳ありません」

「いろいろって、なによ!? 今まで、お肉が回ってこなかったことなんてなかったじゃない! なんで、勝負がある大事な日に限って……!」


 そう、今日はおぼっちゃまにディナーをお出しする大事な日。

ですが、いつも必ず最上級のお肉が入ってくるというのに、今日だけはそれがないというのでした。


「申し訳ありません、申し訳ありません! どうか、このとおり……!」


 手違いを必死に謝る業者さん。

ですが、そこでアンがハッと閃いた顔をしました。


「まさか……。そうか、ローマンのやつね。あんた、私たちにお肉を卸さないよう、ローマンに脅されてるんでしょう!」

「うっ……」


 苦しそうなうめき声を上げる業者さん。どうやら図星のようです。

王宮の仕入れを選別するのは、基本的にシェフの役割。

そこに嫌われたら、今後に影響するかもと考えるのは無理からぬ話でしょう。


「すっ、すみません、すみませんっ……私は、これでっ!」

「あっ、ちょっと! 待ちなさい!」


 アンの制止を振り切り、逃げるように行ってしまう業者さん。

その背中を見送ると、アンが絶望の表情を浮かべて言いました。


「どっ、どうしようシャーリィ……! 今日のディナーでお出しするのは、肉料理なのよ! 新鮮なお肉がないと始まらないじゃない! いっ、今からでも私かあなたの実家に掛け合って、少しでも良いお肉を探さなきゃっ!」


 わたわたと動揺し始めるアン。

そのまま駆け出してしまいそうだったので、私はその両肩に手を置いて、こう言ったのでした。


「落ち着いて、アン! 大丈夫よ。今日、お肉が入ってこなくても問題ないわ。私は、今日のお肉をディナーに使う気なんて、最初からなかったんだもの」

「えっ、ほんとに……? で、でも、お肉って新鮮なほどいいものなんじゃ……。古いお肉で大丈夫なの?」


 不思議そうに言うアン。

そう、この国での常識では、お肉は新鮮なほどよし。

解体して、その日のうちに食べるのが最上とされています。


 ですが、私はにっこり笑ってこう言ったのでした。


「大丈夫、心配ないわ。だって……私のお肉には、魔法がかけてあるんだもの」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ