ディナーシェフの挑戦2
ま、まさか弟の仇でも討ちにきたの!?なんて私が戦々恐々としていると、そこでマルセルさんが予想外の行動に出ました。
なんと、彼は私たち全員に向かって深々と頭を下げたのです。
「いきなりやってきて、失礼した。この前の騒動は、聞いておる。うちの弟が、愚かな言動で君たちを愚弄したと。申し訳ない。兄として、そして総料理長として謝罪させて頂きたい」
なんと……理性的!
あのローマンさんの兄とは思えない、常識的な対応です。
同じ兄弟でも、態度がぜんぜん違う!
などと私が驚いていると、ローマンさんが不満そうに声を上げます。
「やめてくれよお兄ちゃん、それだと俺が悪いやつみたいだろ!」
「お前は悪いやつだろうが、馬鹿者。反省しておまえも頭を下げんか」
「あいてっ!」
それを叱りつけ、ポカリと頭をはたくマルセルさん。
それを見て、私はようやく理解しました。
ローマンさんって変な人だなあ、ってつくづく思っていましたが、なるほど。
つまりこの人は、『有能な兄の困った弟』ポジだったんですね!
つまり、これがローマンさんの完成形。
こういうスタイルの、コンビ芸人だったんだ!
……いえ、芸人ではないですけども。
「とにかく、そういうことだ。それに、一件を穏便に済ませてくれたことにも感謝する。本当に申し訳ない」
「い、いえ、まあ終わったことですし。それはいいのですが……では、今日はその謝罪のためにいらしたのですね?」
若干戸惑いつつも、ちょっと安堵した様子のクリスティーナお姉さま。
そうですよね、いくらなんでも次はディナーで勝負しろなんて言ってくるわけが
「いや、それもあるが、それだけではない。実は、シャーリィとかいうメイドの者と、ディナーで勝負したくてやってきた」
あった!! ありました!!
ああ、やっぱそうなんですね! やっぱりこの人、ローマンさんのお兄ちゃんだ!!
しかも、名指し! 私を名指しです!
うわあん、狙い撃ちしてきたぁ!
そして、その一言で警戒心を強めたお姉さまたちが、一斉にじりっと距離を詰めて、シェフ兄弟を取り囲み始めました。
「まさか、総料理長ともあろう方までそのような! また私たちの領域を脅かすつもりですか!?」
「弟の仇を討つつもりですか? しかも、得意なディナーで勝負なんてまた卑怯な!」
「そこまで私たちを潰したいのですか。シャーリィは、今や私たちのエース。彼女を狙い撃ちにするなんて許しませんよ!」
殺気立った言葉と視線を送るお姉さまたち。
ですが、マルセルさんは平然とそれを受け止め、こう言ったのでした。
「違う違う。勝負といっても、そういうものではない。君たちの権利を害したり、馬鹿にする意図は一切ない。私は、ただ」
そして、マルセルさんはすっと私の方を見つめ、こう続けたのです。
「おぼっちゃまを笑顔にしているというメイドが、ディナーにどういう料理を出すのかが知りたいだけだ。……君がシャーリィだね? どうか、お願いできないだろうか」
その目を見たとき、私はどきりとしてしまいました。
その目が、優しいながらも、なにか深い悲しみのようなものを感じさせたからです。
(……どういうつもりだろう……。なんで、こんなことを?)
ローマンさんのように、メイド憎しで勝負を挑んでくるような人には見えません。
まさか、単純に私が何を出すか見たいだけ?
でも、それなら勝負の形式にする必要があるでしょうか。
悩んでいると、アンがやってきて、そっと私に耳打ちしました。
「騙されちゃ駄目よ、シャーリィ! なんのかんの言って、勝負に勝ったら何を言ってくるかわからないわ。あのローマンのお兄さんなんて信用出来ないもの。これは罠よ……!」
なるほど、それは言うとおりです。
せっかくみんなで頑張って勝利したのに、それを台無しにされてはかないません。
さてどうすべきか、と私が思案していると、そこでローマンさんが口を挟みました。
「ま、まあ、そう警戒するな。一応勝負である以上はな、勝敗はつける。わしとお兄ちゃん二人で挑ませてもらうがな。そしてわしらが勝った場合は、前回と合わせてイーブンということになるだろう! これはしょうがない! だが、おやつタイムを奪おうなんて気はもうないから安心せい、がはは!」
なんて、もう勝った気で笑うローマンさん。
しかし、それは聞き捨てなりません。
つまり、ディナー勝負をするとしたら、マルセルさんとローマンさん、両方と戦うってこと!?
それって、この王宮のツートップと勝負するってことじゃないですか!




