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【書籍・漫画化しました!】異世界メイドの三ツ星グルメ ~現代ごはん作ったら王宮で大バズリしました~【旧題・美食おぼっちゃまの転生メイド】  作者: モリタ


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シャーリィの忙しくも穏やかな一日7

 そう、それは肉まん。

合間を見て作っておいた、私用の、私だけの肉まん!


 今日はさんざん人のものを作りましたが、やはり私の原点はこれ。

自分が楽しむためだけの料理!

一日を、これで締めくくらなくてなんとしましょうか!


「本当は、こんな時間に夜食なんていけないことだけど……いいよね、さんざん働いたんだし! さあ、美味しく蒸し上がってね!」


 バババッと蒸し器を用意し、二つの肉まんを設置していく私。

単純すぎる見た目ゆえ、人様に食事として出すのは躊躇してしまう品ですが、それでも私は肉まんが大大大好き!


 その原点は、日本の殆どの方がそうでしょうが、コンビニの肉まん。

学生の頃の冬の日、部活や塾で疲れた帰り道。

コンビニで、ほかほかの肉まんを買って、道端でかぶりつくあの瞬間!


 あれもまた、一生、ううん、二生忘れられない、素晴らしき『美味しい』なのでした。


「ふんふーん……まだよね、まだ焦っちゃ駄目よシャーリィ。蒸し料理は、タイミングが命なんだから!」


 ぶわっと蒸気を上げている蒸し器を見守りながら、自分に言い聞かせるように独り言を呟く私。

蒸し料理は一見簡単そうに見えますが、実際は美味しく蒸し上がるタイミングをバッチリ計らないといけない、繊細な料理なのでございます。


 蒸しすぎてベチャッとしてしまうと最悪ですが、しかし蒸しが足りないと味わいも足りない。

ふかふかに蒸し上がる時間を正確に知りたくとも、この世界にキッチンタイマーはありません。


 なので、慣れるまで何度も挑戦し、自分の感覚でタイミングをつかめるようにならないといけない。

その時を、今か今かと待ちわびて、早く栄養をくれと訴えてくるお腹をなだめすかし。


 そろそろいくか!と、蒸し器の蓋を取ろうとした瞬間。

突如として、私の背後から、誰かの声が聞こえてきたのでした。


「シャーリィ」

「きゃあっ!?」


 蒸し器に集中しきっていたため、完全に不意を打たれた私は、思わず悲鳴を上げてしまいます。

ドキドキと暴れまわる心臓を抑えながら何事かと振り返ると、そこには、あまりにも予想外の方がいらっしゃったのでした。


「おっ、おぼっちゃま!?」


 そう、そこにいたのは寝巻き姿のおぼっちゃま。

どうしてこんな時間、こんな場所におぼっちゃまがお一人で!?

私がそう驚き慌てていると、おぼっちゃまがこちらにやってきて、可愛いお鼻をくんくん鳴らします。


「良い匂いだ。……お主、まさか、こんな時間に食事をする気か?」

「えっ、あっ、えっ、えとっ……。それは、そのぉっ……!」


 私が動揺しまくって言い淀んでいると、おぼっちゃまはニヤリと微笑んで、こうおっしゃったのでした。


「余にも分けよ。そうすれば、このことは黙っておいてやろう」

「……」


 そのお顔は、完全に悪戯をする悪ガキのものでございます。

はあ、と心の中でため息を吐き、私はまず疑問についてお聞きすることにしました。


「おぼっちゃま、どうしてこのような時間にお一人で? すでに寝室に入ってらっしゃるお時間ですよね?」


 おぼっちゃまの寝室には複数の警備がついていて、お一人で出歩くことはできないはずなのですが。


「ふふ、実は余の寝室には隠し通路があってな。それを使って、王宮内のあちこちに移動できるのだ。……他言無用であるぞ。余の一人遊びが、できなくなる」


 なんと!

王宮というものは隠し通路が必ずあるもの、なんて前世では見聞きしましたが、実際にあるとは。


 驚くと同時に、夜に一人で出歩いたりして大丈夫かな、と思ってしまいます。

以前、侵入者などありましたことですし。


 ですが、たしかおぼっちゃまは武術も日々学んでいて、もうそこらの大人には負けないほど強いとか聞きましたし、杞憂かもしれません。


(しかし、そうか。時々噂で聞く、夜の王宮を駆け回る少年の影の噂。あの正体は、おぼっちゃまだったのか……)


 幽霊だとか言われてましたが、現実はこういうものですね。

幽霊の正体見たり、枯れ尾花というやつです。


「ええと……それで、おぼっちゃま。歯の方は……」

「すでに散々磨かれた後だ。だが、一晩ぐらい構うまい。どうせ朝にはまた嫌になるほど磨かれるのだし」


 寝る前のおぼっちゃまに夜食なんて、と思いましたが、そういうお返事。

本当にいいのかしら、なんて私が悩んでいると、おぼっちゃまは背伸びしながら蒸し器を覗き込み、こうせがんだのでした。


「シャーリィ、これはまだ蒸すのか? 余は匂いが気になってたまらぬ。どのような料理なのだ。はよう見せよ」


 ……駄目ですね。

立場的にも、心情的にも、私はおぼっちゃまには逆らえません。

しょうがない、と覚悟を決めて、そっと蒸し器を取り上げ、蓋をあけると、私はその中身を見せながら言ったのでした。


「こちら、肉まんにございます! では一つずつにいたしましょう、おぼっちゃま」

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