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【書籍・漫画化しました!】異世界メイドの三ツ星グルメ ~現代ごはん作ったら王宮で大バズリしました~【旧題・美食おぼっちゃまの転生メイド】  作者: モリタ


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シャーリィの忙しくも穏やかな一日5

「アガタ、おまたせっ! ねえ、先に食べちゃったりしてないわよねっ!?」


 農園に駆けつけ、とんがり帽子のアガタにそう声をかけると、彼女は呆れた顔で言ったのでした。


「なによもう、息を切らして走ってきちゃって。あんた、お芋がそんなに食べたいわけ?」


 それに私が「もちろんよ、食べたいに決まってるじゃない!」と息を整えながら答えると、アガタは困った顔で笑いながら、地面を指さしました。


「今、落ち葉焚きの火を消したところよ。お芋はまだ掘ってないわ」

「わっ、ベストタイミング! さっそく取り出しましょう!」


 と、私は鼻息荒くスコップを手にし、焼けた落ち葉の下を掘り始めます。

すると青い葉っぱが顔を出し、土を払ってめくると、下から蒸しあがったお芋さんたちがゴロリと顔を出したのでした。


「うわあっ、おいしそう! 良いにおーい!!」


 これは、アガタが栽培したサツマイモ。

アガタに頼んで、事前に焚き火の下に埋めておいてもらったのでした。

そう。これはあまーいサツマイモを使った、落葉焚き焼き芋なのでございます!


「あんたが言ったとおり、綺麗に洗って、土で汚れないようバナナの葉っぱでくるんで埋めて、上で落葉焚きしたけど。こんなので、本当に美味しく焼けるわけ?」


 とアガタが言うので、私は熱くないようおいもを葉っぱでくるんで、さっと差し出しました。


「もちろんよ、これが何より美味しい調理法なんだから! さっ、早速食べましょうっ」


 言って、二人して丸太を加工した椅子に座り、アチアチ言いながらおいもの皮を剥きます。

そして、まだアツアツのそれをたっぷりふーふーして、もういいかなという辺りでパクリ。


 すると、口の中にとびきり甘いサツマイモの味が広がり、私たちは目を輝かせ、二人して声を上げたのでした。


「おいしーい!」


 元から甘みの強いサツマイモが、土の中でじっくり蒸されて、ホックホクの甘々に仕上がっています!

ねっとりとしていて、それでいてべちゃりとはしておらず、自然な甘みが極限まで引き出されたサツマイモ。


 ああ、これです、これこそが秋にだけ味わえる、ある種究極の美味しさなのです!


「うーん、おいっしい! さっすがアガタ、最高のサツマイモを育てたわね!」

「いや、それだけじゃないわよ、これ。そのまま蒸してもこんなに美味しくないもの。なんで地面に入れただけでこんなに美味しくなるの? あんた、ほんとなんでも美味しくしちゃうわね!」


 二人して、肩を寄せ合い、互いを褒めあいます。

焚き火の下で蒸すやり方は、遠赤外線がどうたらと理屈を聞いたことがあるような気がしますが、よく覚えていません。


 でも、いいのです。理屈なんて。

だって、今お芋が美味しいのは、なによりも友達と一緒に食べているからなのですから!


「はー、美味しかった! やっぱり焼き芋は最高ね! 秋、最高!」


 おっきなサツマイモ一つをぺろりと平らげ、満足気にお腹を擦る私。

そう、季節は秋。アガタ農園は、これから本格的に収穫の時期。

毎日毎日、素晴らしい食材たちが旅立っていく時なのです。


 あれやこれやと手を加えたお菓子はもちろん最高ですが、何も手を加えない、収穫したての食材をいただくのもまた最高なのでございます。


 そして立ち上がり、「美味しかったわ、アガタ! また明日も来るわね!」と私が言うと、アガタは呆れた顔で「あんた、毎日来てるくせに明日も来るつもりなの?」と言いました。


 ええ、それはもう。

これはアガタ農園の収穫祭なのですから。

アガタと私で毎日お祝いしないと!なんて力説すると、アガタは小さく笑って言ったのでした。


「はいはい、わかったわかった。明日も待ってるわよ。ほんと、あんたといると退屈しないわ!」


◆ ◆ ◆


 そして、私が次に向かったのは、メイドキッチンにほど近いお庭の一画。

そこには塔の魔女ことジョシュアが立っていて、走っていく私に気づくとこう言ったのでした。


「遅いぞ、シャーリィ! 待ちくたびれたよ」

「ごめーん、お芋が美味しすぎて! 調整、もう終わってるのね!」


 そういうジョシュアの側には、歯車が付いた大きな装置が置かれています。

そう、次なる予定はジョシュアとの機械の試運転にございました。

なにか欲しい機械はあるか、とジョシュアが言うので、私はあるものを口にしたのです。


 そしたらジョシュアはどんどん試作品を作り、ついに実用に耐えうる品を作り出してくれたのでした。


「材料は?」

「もちろん、持ってきたわ! はいっ!」


 そう言って、手にした容器をジョシュアに手渡し、私はそこに設置されている自転車にまたがりました。

ただ、自転車と言っても、これは走行用ではありません。


 それは、タイヤの代わりに台座で地面に固定されており、そしてそのチェーンは長く伸び、後ろの装置に繋がれていいます。

そう、これは、つまりアレ……人力による動力源なのでございました。


「よし、始めましょう! 投入してっ!」

「よしきた」


 私がそう言うと、ジョシュアは機械に、容器の中身、つまりまだ粒のままのカカオを投入していきます。

そしてある程度入れたところで機械に蓋をして、ジョシュアが言いました。


「よし、まずはこれぐらいの量で試してみよう。漕ぐんだ、シャーリィ!」

「了解!」 


 元気よく答えて、勢いよくペダルを漕ぎはじめる私。

すると当然チェーンも回り、連動した装置がウィイイインと動き始めます。


 続いて、ゴリゴリと大きな音を立て始める機械。

それは、装置の中で刃が回り、カカオを断ち切りながらかき混ぜている音でした。


 そう……つまりこれは、ミキサー。

メイドが漕いで動かす、メイド動力式ミキサーなのでございます!


「いいぞ、シャーリィ、回っているぞ! もっとだ、もっとかき回せ!」

「うおおおーーっ!!」


 蓋を押さえているジョシュアに励まされながら、全力でペダルを漕ぐ私。

ペダルは中々に重く、気分は鞭打たれながら謎の装置をぐるぐる回す奴隷です。

辛い。辛い……けど、これも美味しさのため!

美味しさのためなら、私、頑張れるっ!

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