素敵なお昼のハンバーガーセット10
「いやほんと、改めて見たが凄いランチだった。毎日あんな凄いの出してるなんて、脱帽だよ」
「ほんと、あの繊細な料理の数々、素晴らしいですわ。私も作り方を習いたいぐらい」
口々にシェフたちの腕前を褒めるメイドの皆。
そうすると、苦い顔をしていたシェフの皆様も、表情を緩めてくださいました。
「君たちの方こそ、あれほどウィリアム様を喜ばせるとは大したものだ。あんな嬉しそうなお顔、初めて見た」
「あの気難しいアシュリーお嬢様まで、あんなに……。正直、俺もあのハンバーガーとかいうやつを食べてみたいよ」
なんて褒め合うメイドとシェフ。
ですが、なんとなく雰囲気が甘ったるいのは気のせいでしょうか。
中には、じっと見つめ合っている二人も……。
困りますよ、皆様! 和解した途端、色気を出されては!
なんて思っていると、その場を締めるべくメイド長がローマンさんに言いました。
「ローマン。この者たちがこう言っているので、今回は引き分けでいいではないですか。ただ、二度とこの者たちを舐めないように。そして、自分もまだまだ未熟であると、よく覚えておくことです。おぼっちゃまのためにも」
「くうううう~~~……!」
悔しさがこもりまくった唸り声を上げるローマンさん。
プライドが高い彼にとって、許されるのは処罰される以上の屈辱でしょう。
ですが、それぐらいは我慢していただかないと。
そもそも、この人が気持ちよく喧嘩を売ってきたのが発端なんですしね!
「くそっ、くそっ! 今回は……今回は、言葉に甘えさせていただく! だが、だがおまえっ!」
「へっ?」
いきなりローマンさんにびしっと指さされ、変な声を出してしまう私。
彼は、屈辱に歪んだ声で、絞り出すようにこう言ったのでした。
「この料理の仕掛け人は、貴様だなっ! 他の者ならともかく、料理人としておまえのような小娘に負けたこと、わしはどうしても我慢できんっ……! いつか、この屈辱は晴らしてみせるぞっ! 料理勝負でなっ! くそぉ、覚えてろぉっ!」
そのまま、だっと駆け出して、行ってしまうローマンさん。
私が呆気にとられていると、シェフの皆様も慌ててその後を追っていきました。
やれやれ……。これはまた、面倒な人に目をつけられてしまったかもしれません。
料理勝負と言われても、私のレパートリーに、あなたとやりあえるものがどれほどあるやら。
頭が痛いところですが、でも、いいです。
だって、私達は居場所を守りきったんですもの。
私たちは皆して微笑み合い、健闘を称え合い、そして。
「さあ、おまえたち。次はおやつタイムの仕込みがあるでしょう。次の作業に移りなさい」
という、メイド長とかいう鬼婆の号令に、皆して「はぁい……」と浮かない返事をして、しっかりと怒られたのでした。
◆ ◆ ◆
そして、余談ですが。
「シャーリィ、コーラがないではないか。あれがないと始まらぬぞ」
「シャーリィ、余はコーラが飲みたい。用意してくれ」
「シャーリィ、コーラはどうなっておる?」
「シャーリィ、コーラ!」
と、すっかりコーラの魔力にとりつかれてしまったおぼっちゃま。
言われれば、私は「はい、ただいま!」と大急ぎでご用意していますが、コーラばかり飲んでいては体によくありません。
こうして、どうにかおぼっちゃまのコーラ摂取量を減らすという難題が降ってわき、私は、悪魔に魂を売った代償をしっかり払う羽目になったのでした。
悪いことは、できないものですね……。
なんてこともありつつ、とにもかくにも宮廷料理人と勝負するという一大事を私たちは切り抜けたのでした。
しかし、その結果。
王宮内に、「メイドが料理人にランチで勝ったらしいぞ」なんて噂話が一気に駆け抜け。
それが私の生活に、変化をあたえることになるのですが……それは、次のお話で。




