素敵なお昼のハンバーガーセット9
「……ふう。満足した……うむ、最高であったぞ!」
「ありがとうございます、おぼっちゃま!」
その後、用意していたハンバーガーをすべて平らげてくださったおぼっちゃま。私達は、大いなる感謝とともに頭を下げたのでした。
「やれやれ、昼からこんなに幸福になっておっては頭が鈍るな。この後、おやつも待っているというのだからたまらぬ。どれ、アシュリーよ。腹ごなしに散歩でもするか」
「あっ、は、はい、ウィリアム様! お供いたしますわっ!」
幸せそうなおぼっちゃまが、珍しくそんな声をかけ、お嬢様もハッピームード。
はあ良かった、とミア様と微笑みあう私。
そして、おぼっちゃまは部屋を出ていかれる前に、こうおっしゃってくださったのでした。
「者共よ、本当に今日は良き席を用意してくれた。たまには、こういう事も良いものだ。それと、なのだが」
言いつつ、私達メイドとシェフたちを見回し、にっこり微笑み。
「余は、王宮に仕える者たちが仲良く過ごすことを望んでおる。お主らも、そうであるように」
そう、続けられたのでした。
……さすがおぼっちゃま。
この状況がどういうことか、とっくにお見通しだったようでございます。
ははあ!とかしこまって、もう一度頭を下げる一同。
それを見て小さくうなずくと、おぼっちゃまはアシュリー様と共に行ってしまわれました。
そして、取り残される私達。
しばし、場に困ったような空気が流れましたが、やがてローマンさんは、がばっとその場に座り込むと、大きな声で言ったのでした。
「ええい、さっきも言ったが、わしの負けだ! 煮るなり焼くなり、好きにせい! ただし、今回の勝負はあくまでわしが勝手にやったこと! 部下のやつらは、どうか大目に見てやってくれ!」
あらやだ、意外と潔い。
しかも部下をかばうとは。
この人も、根はそこまで悪い人ではないのかも知れません。
しかも、彼がそう言った途端、シェフの皆様が駆け寄り「そんな、料理長だけの責任ではありません!」「すみません、俺たちの力不足で……!」なんて、かばい始めます。
なるほど、どうやら部下からの人望はある様子。
もしかしたら、彼はシェフたちのメンツのためにも、意地を張っていたのかも知れません。
……まあ、やり方は最悪でしたが。
「すまん、おまえら……。だが、あれだけ大口を叩いておいてこのザマだ。わしは、恥ずかしくてもう王宮にはおれん! 約束通り、ランチシェフの座をメイドたちに明け渡し、わしは甘んじて追放を受ける。わかってくれい……!」
ええっ!
なんだか、とんでもないことを言い始めました。それは困ります!
どうしましょう、と私が困った様子で視線を向けると、クリスティーナお姉さまがコクリとうなずいて、ローマンさんに言いました。
「ローマンシェフ。その必要はありません。今回、私達はあくまでおやつメイドの威信のために勝負をしただけ。あなたの座を脅かそうなんて考えていませんわ」
「なに? だ、だが……」
「おぼっちゃまも、おっしゃったではないですか。私達は、王宮に仕える仲間なのです。ただ、私達を下に見ず、認めてくださるのならそれでいい。それに……」
そして、クリスティーナお姉さまはメイド全員を見回し、笑顔でおっしゃったのです。
「私達には、このたった一回のランチだけで精一杯。やはり、王宮には正しい技術を持ったシェフも必要なのです。あなたたちのような、卓越した技術を持つ正シェフが」
ええ、まさにそのとおり。
私達が毎日ランチを出すなんて、とても無理です。
お子様のおぼっちゃまにはぴったりだったハンバーガーも、大人の貴族様に出すのには向いているかどうか。
それに……私たちが勝てたのは、すべて前世の記憶があったおかげ。
前世で素晴らしいソースを開発してくださった、みなさんからの恩恵がなければ、勝負にもならなかったことでしょう。
つまり、それは結構なズルなので。
ここは、どっちが勝ったとかは言いっこなしなのです。
……もちろん、レシピがあろうとなかろうと、美味しく作れたのは皆の努力のおかげですけどね。
だって、料理とは、レシピだけでするものではないのですから。




